第9話 後始末と感謝祭
「皆さん筆を預かるのでこの布に置いて下さい」
アルマートが白い布を出す。
「あと家も回りたいので教えて下さいね」
ざわざわとする画家達。
「この筆、使っちゃダメなのか?気に入っているのに」
1人が聞く。
「危ないシロモノなので没収です」
「後で筆のメーカーから贈らせるわ。あと匿名でのプレゼントも対策しないとね」
と首相のデュモンが言う。
「あの、総理。あの絵の具『エーデルバッハ』。何故あの絵の具は使用者が限られているのですか?
それに紛争や戦争の絵に向いていないとは?」
ガルニエが質問する。
「僕も少し気になってた」
「私も」
と他の画家達が言う。
「あの法律、施行されてだいぶ経つものね。
貴方達も学校で教わったでしょう?『その頃』世界はどうなっていたか」
うーんと唸る画家達。
そこにアルマートが手を挙げる。
「もしかして『大災厄』の後だったり?
その時はあちこちの星がバタバタしてて、大変だったって聞いた事ありますけど」
「そう、『大災厄』の後」
当時、パラディオでは病気平癒の守りを込めた印絵を描き、
家に飾る風習があったの。
皆『エーデルバッハ』の絵の具を使ってたわ。
絵の具自体にも不思議な力が宿っていて、ご利益があったから人気でね。
画家はこぞって使用していた。
そこを目に付けられて、
逆の意味の印を描かれた絵が大量に出回って、皆が家に飾ってしまって病が大流行したの。
『大災厄』の手下がパラディオの人間を洗脳していたそうでね、言われるがまま逆の、疫病を広げる印を描いて飾ってしまった。
違和感を感じていた1人の画家が、他星の異変に気づいた戦士の人に連絡を取って、
手下を倒してくれたから洗脳は解除されたのだけれど。
そして大慌てで絵を回収し、お祓いを頼んで本当の意味の印が描かれた絵を飾った。
パラディオ政府だけでは対処しきれなかったから、他の星の人達にも協力を要請して。
そして『大災厄』を討滅した。
その時に決めたの。絵の具の使用に制限を設ける事を。
誰が描いても効力を発揮する代物なんて、危ないから。
他星の人に指摘されるまで、絵の具自体に不思議な力があるなんて知らなかったのよ。
元々材料は特殊なものを使用していたのにね。薄々勘づいていた人もいたらしいけど。
だから話し合って、術とかの専門家にも聞いて。画家に絵を描いてもらって決めたの。
特定の条件をクリアした人のみ使用できる事をね。まあ中には例外もいたけれどレアケースね。
あとお守り作りやまじないの印、ここは魔術は廃れてしまってお守りや印が残っていただけで、それもきちんと管理されていなかった。
それの体系化と分類、扱い方をまとめたり学校のカリキュラムに取り入れたり、法整備もした。
これが理由ね。
とリリカが説明する。
「不思議な力が宿っているから使用者を選んでいるの。悪用されないように」
『エーデルバッハ』の絵の具は、浄化の作用が強いのだけれど、破壊のエネルギーも秘めているの。
私も絵の具を渡された時に説明されて驚いたわ。描く絵次第で正にも負にもなるって。
『エーデルバッハ』の使用者は、戦争の絵は描かないのがルール。描くとその通りになるからって。
貴方、戦争関連の絵画を描く事止めなかったでしょう。追放前の審査の時にも描いたって。
あれで皆、使い手には相応しく無いと判断したの。
私を含めてね、と後を引き継いだコラルが言う。
聞いていない、と泣き出したガルニエ。
「きちんと説明したけれど。私から直接」
とデュモンが言う。
何とも言えない雰囲気の中、泣き声だけが響き渡った。
その後
ガルニエはDSEAに引き渡され、アルマートは画家達の家を回り絵の具回収&浄化。
祭りの前に事件は収束した。
「あーもう疲れた」
住んでるトコ、山の中から路上生活者まで色々って。
ゴミ屋敷まであるし。掃除しつつ浄化なんて始めて。僕も片付けられないって言われるけど、
あそこまで酷くはないよ?。
ぶつぶつと文句を言うアルマート。
ちなみにオトハは艦長やパラディオ支部などに報告していて現在別行動中。
近くのベンチに座って休憩している。
夕陽が落ちて行く。
「綺麗だな」
そこへランタンを持ったオトハが近づいてくる。
「大尉、これを。前夜祭用のランタンです」
起き上がり受け取る。
「ありがとう少尉。祭りに間に合って良かった。前夜祭用のランタンもシンプルだけどいいねぇ」
眺めていると何処からかピアノが聞こえてくる。音がする方を見るとスピーカーが。
「あれホワイエ少尉の演奏?」
オトハに聞く。
「ええ、そうですね。前夜祭だから明るい曲を演奏するのだと思ってましたけど」
聞こえてくるのは、安らかで心が洗われる音色。
「これ、レクイエムだね。僕が知ってるのはもっと怒ってる感じの曲だけど。大迫力でね。
確か選曲は本人に任せてるって聞いたな」
前夜祭はスペシャルゲストを呼んで、その人に自由に演奏させるんだって。
多分だけどとアルマートが言う。
僕達、本祭の頃には次の任務でいない可能性が高い。十中八九そうだと思う。だからじゃない?
今ここで、この調べに乗せて。この祭りの裏の目的を思い出して、役割を果たしてほしいって、少尉は伝えてるんじゃないかな?。
それを聞いて頷くオトハ。
「なるほど。では私達はそれを果たしましょうか」
「そうだね」
ランタンを掲げて目を閉じる2人。
オトハはそのまま黙とうを捧げ、アルマートは呟く。
「この調べに乗せて、願うは安らかなる眠り。命のともしび消え去りし者達へと捧ぐ。
ここにあるは 次なる命へと廻る橋への道しるべ。悪しきモノを寄せ付けず、悪しきモノに捕まらぬ。願いのしるべの証。
命ある者が願う。ともしび消え去りし者達に。これを持ちて渡り、廻る命の輪に戻らん事を。
祓いと清めの力を持つ者が乞う。この地に満ちる力よ、彼の地へと渡れ」
遠くで花火が上がり始める。
この祭りは命の感謝祭。元々は生きる事に感謝を捧げ、次の年も健康に生きられる事を願う祭り。
それと同時にこちらに帰ってくる魂を導き、もてなし、返す事も行われていた。
『大災厄』後、犠牲となった魂の鎮魂と、この1年で亡くなった者達への追悼、
魂が「災厄」に捕らわれる事がないよう
無事にかくり世に渡れるようにと願いを込め開かれるようになった。
それと同時に灯りなどで「浄化」の力を集め、浄化の術を持たない者達への特殊武装に使う
エネルギーを貯える役目も行うようになった。
エネルギーは極秘の場所に保管される。場所を知るのはごく僅か。
この事はDSEAの職員や嘱託職員、一部協力者しか知らない。
この時期になると次元全体が追悼の行事を行う事も伝統になっている。
その頃 艦では各々がランタンを持ち、一斉に黙とうを捧げていた。
これで第4章は終わりです。




