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学園で殺されたら、俺の死体隠しデスゲームが始まった件  作者: 座間あぜん


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第9話 こんな存在でも神なんだよ

俺の死体は第二倉庫の前に無残な姿で横たわった。それを見て、獅堂の表情が青ざめた。当然、反射的に用務員さんへ視線を向ける。用務員さんは転倒した拍子に腰を強く打ったらしく「いてててっ……」と顔をしかめながら痛みに耐えている。片手で腰を押さえ立ち上がることもできない。その場にうずくまったままだ。ほんの数メートル先に転がった俺の死体には気づいていない。


獅堂は続けて校舎裏をぐるりと見渡した。近くを歩く教師や生徒の姿はない。校舎の窓からこちらを見ている人影も見当たらない。裏門の方にも誰もいない。静まり返った校舎裏に吹く生ぬるい風が草木を揺らしているだけだ。


獅堂は全力で俺の死体へ駆け寄る。それからお姫様抱っこのような格好で俺を抱え上げた。倒れた冷蔵庫まで走って戻り、俺の死体を乱暴に押し込んだ。腕も足も無理やり折り畳み、飛び出している肩を力任せにねじ込みながら全身を押しこむ。最後に勢いよく扉を閉めた。このときばかりは肝の据わった獅堂でも生きた心地がしなかったはずだ。


「ごめん、獅堂君。怪我はしてないかい?」


用務員さんが獅堂へ顔を向けた。あと1秒でも遅れていれば、その視線は俺の死体を捉えていたはずだ。本当に紙一重だった。獅堂は一瞬で呼吸を整え、何事もなかったような表情を作って用務員さんのもとへ駆け寄った。


「俺は大丈夫っすけど、動けるっすか?」

「あぁ、動けはするよ」


獅堂はすぐに肩を貸して用務員さんを立ち上がらせた。用務員さんは「あいたたぁ……」と苦笑しながら腰をさすり「悪いね。もう年だ」と申し訳なさそうにつぶやく。獅堂は首を横に振り、「いや、段差が悪いんすよ」と気遣うように笑った。



2人は再び冷蔵庫を起こす。そのさい獅堂は間違って扉が開かないよう片手でしっかり押さえながら慎重に持ち上げた。そして何事もなかったかのように、ゆっくりと第二倉庫の中へ俺の仕舞われた冷蔵庫を運び入れた。


「ありがとう。助かったよ。1人じゃ無理だった」

「役に立ててよかったっす。明日、業者が来るんすよね」

「そうだよ」


明日になれば業者がこの冷蔵庫を回収しに来る。当然、中に俺の死体が入ったままというわけにはいかない。つまり獅堂はそれまでにもう1度俺の死体を別の場所へ移動させる必要がある。しかし第二倉庫を出れば用務員さんが鍵を掛ける。窓はすべて閉まり、外側には格子まで付いている。獅堂に打つ手はあるのだろうか。


表面上は用務員さんと世間話を続け、その両目は絶えず倉庫の中を見回していた。俺の死体をいつ、どうやって外へ持ち出すか。そのために使えそうな物はないか考えているのだろう。倉庫には使われなくなった備品や工具、新品の段ボール箱などが並んでいる。やがて獅堂の視線は奥の棚でぴたりと止まった。


「あれ、なんすか」

「緊急用の寝袋だよ」


棚には同じ色の寝袋が50個ほど隙間なく積み重ねられていた。いわゆる防災用品だ。獅堂は何も言わずその寝袋をじっと見つめる。目の奥が静かに動いていた。何か思いついたのかもしれない。やがて2人は倉庫を出る。獅堂がシャッターを下ろす。金属の擦れる重い音が校舎裏へ響いた。用務員さんは腰のあたりを押さえながら「すぅっ……」と息を吸って顔をしかめ、ポケットから鍵を取り出した。


「俺が閉めますよ」

「ごめん、ありがとう」


獅堂は第二倉庫の鍵を受け取りシャッターの鍵穴へ差し込んだ。カチャリという施錠音が鳴った。それは用務員さんへ聞かせるための音だった。獅堂はもう1度だけ鍵を静かに逆へ回して解錠する。金属が擦れる音をほとんど立てないまま鍵を引き抜くと、続いてシャッターを軽く持ち上げて確かめる仕草を見せた。鍵が掛かっていて開かない状態なのを演じたのだ。その動作はあまりにも自然で違和感を覚えないほどだった。


何食わぬ顔で鍵を用務員さんへ返す。用務員さんは何一つ疑うことなく礼を言った。そして腰を押さえながら校舎の方へと歩いていく。用務員さんを見送る獅堂の頭の中では、すでに今後の計画が組み立てられていることだろう。今夜、獅堂は俺の死体を冷蔵庫から移動させるはず。そのために鍵を開けたのだ。



学園のチャイムが鳴り響いた。1日の終わりを告げる下校の合図だった。校舎中へ澄んだ音色が広がり、部活動を終えた生徒たちも帰宅を始める時間だ。


俺の視界には機械的な数字が浮かび上がる。現在時刻は18時00分。デスゲームが開始してからちょうど5時間が経過していた。表示された残り時間は『30時間00分』となっている。無情な数字が刻一刻とゼロに近づいていく。今の俺には敗北までのカウントダウンにしか見えなかった。


それから獅堂は少し離れた物陰へ身を潜め、第二倉庫の入口をじっと監視し続けていた。もし用務員さんが戻ってきたり、誰かが倉庫へ入ろうとすれば動くつもりなのだろう。部活動を終えた生徒たちが裏門から下校していく。笑い声や話し声は少しずつ遠ざかり、時間が経つにつれて校内はどんどん静かになっていった。獅堂はじっと物陰でその時を待ち続けた。



そして時計の針が19時を指した頃。獅堂は身を起こした。学園の規則で生徒は19時までに全員下校しなければならない。つまり、この時点で学園内に残っている生徒は獅堂ただ1人だった。結局、あれから用務員さんが第二倉庫へ戻ってくることは1度もなかった。


獅堂は駐車場へ向かって歩き出した。夏の空はまだ完全には暗くなっていない。西の空には夕焼けの名残が薄く残り、校舎の影がアスファルトに長く伸びている。駐車場に車は1台も残っていなかった。教師たちも全員帰宅したということだ。校舎から聞こえていた物音もすっかり途絶え、広い学園は静まり返っている。これで学園に残っているのは獅堂ただ1人となった。


時刻は19時08分。残りは『28時間52分』だ。獅堂はそのまま第二倉庫へ引き返す。



第二倉庫に着くと、周囲を1度見回し人の気配がないことを確認した。それから施錠されていないシャッターを地面から半分ほどの高さまで持ち上げる。身をかがめて中へ入り、背後のシャッターを下ろした。


壁際のスイッチを押す。蛍光灯が一瞬だけ明滅したあと白く点灯し、薄暗かった倉庫が一気に明るくなった。


獅堂はまっすぐ冷蔵庫の前まで歩み寄ると、ゆっくり扉を開いた。コンセントを抜かれた冷蔵庫の中は熱気がこもっている。むっとした空気が外へ流れ出し、その奥から押し込まれた俺の死体が姿を現した。窮屈な体勢のまま押し込まれた腕や脚は不自然に折れ曲がっている。その姿を見下ろした獅堂は、自分の勝利を確信し満足そうに口元を吊り上げた。


「どうだチー牛、俺にかかればこんなもんよ!」


獅堂は腹を抱えるように笑い出した。調子に乗ったように何度も「バーカ」だの「ざまぁみろ!」だのと叫び続ける。


その笑い声は静まり返った第二倉庫の中で反響した。獅堂は完全に優越感へ浸っている。もう自分の勝利を疑っていない。正直に言えば俺も心が折れていた。ここまで何度も逆転の機会はあった。それでも結局、運はすべて獅堂の味方をした。獅堂に対する感情は怒りを通り越し、残っていたのは虚無だった。



獅堂は棚へ歩み寄る。防災用品として保管されていた非常用寝袋を1つ取り出した。袋から出した寝袋を床へ広げる。俺の死体を寝袋の上に転がし、腕や足の位置を適当に整える。死人である俺の体はされるがままだ。最後にファスナーへ手をかけ引き上げる。ジジジッ……という音とともに、俺の体は頭から足の先まで寝袋に包まれた。チープな棺桶のようだった。


確かにこれで俺の姿は見えなくなった。しかし問題はどこへ隠すかだ。明日になれば用務員さんも業者もここへやって来る。獅堂は迷う素振りを見せなかった。むしろ最初から答えを決めていたようだった。寝袋を軽々と肩へ担ぎ上げる。そして獅堂は勝利を確信したように口元を歪めた。


「この状態で倉庫の奥に隠しときゃあ、俺の勝ちだ。アハハハハ!」


確かにその考えは理にかなっていた。第二倉庫には使われなくなった備品が山積みになっている。よっぽどのことでもない限り、誰かがわざわざ奥の方の備品をひっくり返すなんてことはない。獅堂にとって完璧に近い隠し場所だった。


つまり俺は明日、古い冷蔵庫を回収しに来る業者や用務員さんと同じ空間にいながら、寝袋の中で最後のチャンスが過ぎ去っていくのを見届けるしかないということだ。すぐ近くに人がいるのに気づかれることはない。声を上げることも、手を伸ばすこともできない。ただ暗闇の中で時間切れを待つだけ。


その未来があまりにも鮮明に頭へ浮かび、俺は泣きたくなるほど悔しくなった。ここまで何度も勝利へ手を伸ばし、そのたびにあと少しのところで届かなかった。そして最後はこんな形で終わるのか。そう思うと胸の奥が苦しくなった。


最後に笑うのがこんな殺人鬼だなんて、世の中狂ってる。人を殺し、平然と嘘を重ねた奴が得をする世界なんて絶対におかしい。俺はただ普通にこの学園へ通い、普通に生きていただけだ。それなのに死んだのは俺で、生き残るのは獅堂だというのか。理不尽にもほどがある。


神とやらは、こんなデタラメでクソな世界を創って何がしたいんだ。人間が絶望する姿を見て笑うためだろうか。だとしたらそんなのは神じゃない。悪魔だ。人が傷ついても心を痛めることはなく、それどころか人が苦しみ絶望する姿を娯楽として消費する。


「お前は獅堂と同じだ!」

「まぁ、人間は神を模してつくられたらしいからさ。そう怒らないでくれ、灰守」

「黙れ! てめぇは神でも何でもない。ただのクソ野郎だ!」

「君の気持ちは分かる。でも残念ながら、こんな存在でも神なんだよ」


その軽い口調が癇に障る。友達みたいな距離感で絡んできやがって。俺がどれだけ怒鳴っても、神は少しも腹を立てない。むしろ楽しそうですらあった。余裕たっぷりに笑っているだけだ。その態度が俺の怒りへさらに火を注ぐ。


こいつにとって俺はゲームの駒でしかない。存在ごと消えてしまう恐怖も、勝利を目前にして逃したときの悔しさも、獅堂に敗北する絶望も、全部が娯楽の材料なのだ。こんなクソが平然とはびこっている世界なら、いっそ滅んだほうがマシだ。本気でそう思った。


「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!」


俺は喉が裂けるほど大声で叫んだ。叫んだところで現実は何も変わらない。神は相変わらず愉快そうに笑っている。それでも叫ばずにはいられなかった。この感情を発散しなければ、本当に頭がおかしくなってしまいそうだった。胸の奥で渦巻く黒い感情はもう限界だった。今の俺には、叫ぶ以外にできることが何もなかった。


それから獅堂を罵った。「人殺し」「クソ野郎」「死ね」など、思いつく限りの罵声を浴びせた。獅堂は眉一つ動かさない。そもそも聞こえていないのだ。俺の声は空気を震わせることすらない。既に死んでしまった俺は世界に干渉することが許されない。


そのときだった。突然、ガラガラガラッという金属音が第二倉庫に響き渡った。

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