↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
学園で殺されたら、俺の死体隠しデスゲームが始まった件  作者: 座間あぜん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/24

第22話 死ねぇぇぇえええええッ!!

そいつは懐中電灯を握り締め、その光をこちらへ向けた。白い光が暗闇を切り裂き、獅堂の巨体とその奥の俺を浮かび上がらせる。


「トージ!」


やはり泉羽だった。俺を呼ぶその声は、雨音が響く暗い教室を真っすぐ突き抜けた。焦りと安堵が入り混じった声だった。俺を見つけだし、今にも泣き出しそうだ。


「あぶねぇ、あぶねぇ。予想外の客が来たもんだ」


獣のような笑みを見せつつ獅堂が言った。俺は机に突っ伏した状態のため、泉羽から見て顔は隠れている。このデスゲームにおける俺の勝利条件は顔を見られること。もちろん俺は自分で顔を上げることもできない。だから泉羽には俺の元まで来てもらい、顔をのぞき込んでもらう必要がある。


「そのまま突っ伏してろ」


獅堂はライターを机へ投げ置き、笑いながら俺の後頭部を押さえつけた。鼻と眼球と唇とが硬い机に圧迫される。痛みは感じない。それでも腹が立つ。最後までこいつの好き勝手にされている状況がどうしようもなく悔しかった。


「トージ!」


泉羽は叫びながら一直線にこちらへ走ってくる。


まだ俺が生きていると思っているのだろうか。俺がもう死んでいると知ったらどんな顔をするだろう。想像したくもなかった。それでも泉羽が俺の顔を見ることには大きな意味がある。俺は「泉羽!」と叫んでいた。もちろん声は届かない。それでも叫ばずにはいられなかった。


しかし俺と泉羽との間にある数メートルは果てしなく遠かった。ほんの数歩の距離なのに、その数歩を埋める手段が俺にはない。そして獅堂はそんな俺たちをあざ笑うように壁として立ちはだかる。その長く太い腕は、泉羽の細い体を簡単に捕まえた。泉羽は必死に腕を振りほどこうと暴れるが、体格も腕力も違いすぎた。


獅堂は片手で懐中電灯を奪い取ると、そのまま壁へ向かって力任せに投げつけた。ガシャンという破壊音が鳴る。プラスチックの破片が四方へ飛び散り光は失われた。教室は再び暗闇に包まれる。窓の外では豪雨がガラスを激しく叩きつけ、ゴウゴウという風の音が鳴っていた。



獅堂は泉羽を乱暴に引き寄せ、そのまま机へ押し付けた。俺の隣のさらに隣にある机だ。背中を硬い天板へ強く打ちつけられ、泉羽は苦しそうに息を詰まらせる。それでも抵抗をやめなかった。腕を振り回し足をばたつかせ、少しでも獅堂を引き離そうともがき続ける。その目は強い怒りを込めて獅堂をにらみつけていた。


俺は獅堂の視界をジャックしている。だから泉羽の顔を獅堂と同じ距離で見ていた。こんな形で泉羽と向き合うことになるなんて思いもしなかった。暗闇のせいで細かい表情までは見えない。それでもその顔が、俺のよく知る泉羽とは違うと分かった。今まで一度も見たことがないほど怒りに満ちた形相となっていた。


「離せっ!」

「黄城、丁度いいとこに来てくれたなぁ。女に飢えてたんだよ。灰守の前でお前を侵せるなんて最高じゃねぇか! アハハハハ!」


泉羽は「トージ……」と言って俺に手を伸ばす。俺と泉羽の間には机ひとつ分の距離がある。約2メートルくらいだ。暗闇の中で細い指先が何もない空間をさまよう。その光景を見るのは身をねじ切られるような思いだった。俺も手を伸ばしてその手を掴みたい。しかし、その手を獅堂の分厚い手が容赦なく押さえつけた。


「チー牛はいいからこっち見ろや」


獅堂が泉羽の頬をはたいた。泉羽の顔が苦痛に歪んだ。俺の胸の奥で熱く煮えたぎるような怒りが爆発する。目の前で一番大切な存在が傷つけられているのに、俺は何もできない。ただ見ていることしか許されない。助けたいという思いが膨れ上がり、行き場を失って俺の内側を焼き続ける。


「そういえばお前、なんでこんな夜中に学園に忍び込んでんだ……」


確かに、なぜ泉羽はこのタイミングで学園にやってきたのだろうか。俺を探しに来たのだろうか。しかし俺が学園にいる保証なんてない。


「まっ、どうでもいいか」


そう言ったあと、獅堂は舌なめずりをした。泉羽の服を無理やり脱がせようとする。布地を引き裂くような乱暴な手つきだった。


泉羽は「やめてぇっ!」と叫びながら必死に抵抗する。体をよじり両足をバタつかせ、逃げようと足掻く。だが身長190センチ近い男に上から押さえ込まれれば、小柄な泉羽に勝ち目はない。絶望的な力の差がそこにはあった。


「トージ、トージ……!」


獅堂は下品な笑い声をあげる。俺に助けを求める泉羽の悲痛な声を嘲笑っている。


「もうすぐお前の記憶から灰守は消える。代わりに、俺の記憶をしっかり植え付けてやるよ。朝までたっぷり仕込むから覚悟しろ」


そのとき泉羽が獅堂の太い腕に噛みついた。暗闇の中でもはっきり分かるほど、白い歯が獅堂の肉に深く食い込んでいた。


「ってぇ!」


獅堂は噛まれた腕を反射的に振り上げ、泉羽を力任せに振りほどく。その勢いのまま拳を振り抜いた。鈍い音がしたあと、泉羽は短いうめき声を漏らしながら体勢を崩す。獅堂は泉羽の顔面を殴ったのだ。


クソ、クソ、クソ! 腹の底から怒りがこみ上げた。しかし俺にはどうすることもできない。 それが悔しくて仕方なかった。


泉羽は倒れたままでは終わらなかった。再び獅堂の腕へ噛みつく。その執念に獅堂の表情が歪んだ。


「調子乗りやがって……!」


獅堂は怒りに任せて何度も拳を振るう。そのたびに鈍い打撃音が鳴る。泉羽の苦しげな声が暗い教室の中で雨音に重なった。その光景を見るのは命を削られているに等しかった。



泉羽は床へ転がり落ちた。息も絶え絶えになりながら、震える腕で体を引きずる。向かう先は俺の方向だった。そして俺の隣の席までたどり着く。そこは泉羽自身の席だ。


その距離は俺から1メートル以内だった。泉羽にまたがる獅堂もその範囲に入っている。救済システムは俺から半径1メートル以内の人物にしか使えない。俺はこの瞬間をずっと待っていた。


「ありがとう、泉羽」


俺は泉羽に心から感謝した。今まで何度も諦めかけた。いや、実際に諦めたし、ゲームを投げ出していた。それでも泉羽は、傷つきながら俺のそばまで来てくれた。その執念が俺へ反撃の機会を運んできたのだ。今こそ復讐を果たすときだ。


「おい神、救済ルールを使う!」

「いつでもどうぞ」


緊張感のない軽い声が聞こえた。これが本当にラストチャンスだ。


俺は意識を自分の肉体へ戻した。そして全神経を集中させ、生きていた頃と同じ感覚で体を動かそうと念じる。立ち上がれ。そう強く思いながら、体の隅々へ力をこめていく。けれど机に突っ伏した俺の肉体は微動だにしない。指先1本すら動かない。力を込めているのに、俺の体は何の反応も示さない。


だが次の瞬間だった。幽体離脱でもしたかのように、半透明の俺が静かに起き上がった。輪郭は薄く、向こう側の景色が透けて見える。それでも確かに俺自身の姿をしていた。俺の意思通りに動くし、力も入る。


「よしっ……!」



救済システム1つ目。「1秒間、息を吹きかけられる」を発動する。俺は獅堂の耳元へ顔を寄せ、そっと死者の冷たい息を吹きかけた。獅堂は肩がびくりと震え、瞬間的に体を起こした。そのまま背筋が凍りついたように静止した。


俺はその一瞬が欲しかった。正直、息を吹きかける程度のことが役に立つとは思わなかった。神の悪趣味な嫌がらせとしか考えていなかった。実際そうだろう。それでも今、こうやって獅堂の隙を生み出せた。



そして救済システム2つ目。「1秒間、直接触れられる」の力を使うときがきた。デスゲームが始まってから今まで、ずっと獅堂の視界をジャックをするだけだった。怒りも憎しみも復讐心も、すべて胸の奥へ押し込めるしかなかった。だがようやくその思いをぶつけられる。遠慮も容赦もしない。


俺は左足で床を強く踏み込み、足腰をふんばった。腰を深く落とし、上半身を大きくひねって右腕を限界まで後ろへ引く。全身の筋肉が一本の線でつながるのを感じた。次の瞬間、その力を一気に解き放つ。俺は肺に吸い込んだ空気をすべて吐き出す勢いで叫んだ。


「死ねぇぇぇえええええッ!!」


獅堂の顔面へ向かって思い切り右拳を伸ばす。理不尽に恨み、警備員2人とメンテナンス業者さんの命を奪った罪、泉羽を傷つけられた怒り。そのすべてを右拳に乗せる。この一撃ですべてを終わらせる。獅堂を殺すという覚悟が俺を突き動かしていた。


そのとき、俺には世界がスローモーションで動いているように見えた。俺以外の全てが止まっているみたいだった。暴風が吹く音も、雨粒が窓を打つ音も、何もかもが遠ざかっていく。視界には的である獅堂の顔しか映らない。こいつだけは絶対に許さない。


たった1秒しか触れられないからこそ、一瞬の迷いさえ邪魔だった。殺す、殺す、殺す、絶対に俺の手で殺す。その一心で腕を振りぬく。


「ドゴォ!」


全身の力を余すことなく乗せた拳は、獅堂の顔面を真正面から捉えた。拳がめり込んだ瞬間、鼻の骨が砕ける感触が拳へ伝わってきた。衝撃は拳から腕、肩へと一直線に駆け抜け、俺はそれを全身で受け止めた。我ながら完璧な手応えだった。


獅堂の頭が大きく跳ね上がり、その巨体が宙へ浮いた。世界は元のスピードを取り戻す。


190センチ近い体は机や椅子をなぎ倒し、激しい音を立てながら教室の後方まで吹き飛んで壁へ激突した。教室に凄まじい音が響き渡っていた。


獅堂は短く苦しそうな声を漏らし、そのままうなだれて動かなくなった。あの悪魔のような笑みは完全に消えていた。


俺の腕力ごときで獅堂を殺せないのは分かっている。だから壁に後頭部を打ちつけ、そのまま当たり所が悪く死んでいることを願った。でもそれは俺にとって都合のいい解釈でしかない。獅堂の肉体的な強度は常軌を逸しているし、何度も常識外れのしぶとさを見せてきた。


もう一度動き出せば、今度こそ泉羽も助からない。だから油断はできない。急げ。俺にはやるべきことが残されている。



救済システム3つ目。「1秒間、喋りかけられる」を使う。これで本当に終わりだ。これが俺に与えられた最後の切り札。誰かと繋がれる最後の1秒。この1秒でデスゲームを終わらせなければならない。失敗は許されない。


思えばこの1秒のために、ここまでの過程があったのかもしれない。息を吹きかける権利も、触れられる権利も、この最後の1秒へ繋ぐためだったとさえ思う。短いようで長かった。何もできず、イラつくことばかりだった。獅堂の殺人現場を目撃している時間は悪夢だった。


俺は最後の1秒を使う。獅堂を抹殺するため、必要な言葉を泉羽の耳へ届ける。それが俺の責務だ。声にできるのは、ほんのわずかな言葉だけ。無駄なことを伝えている暇はない。一言に伝えるべきことを詰め込む。


泉羽には、半透明となった俺の姿が見えない。それでも今この瞬間だけは、不思議と泉羽と目が合っているような気がした。見えないはずの俺を、泉羽がまっすぐ見ているような感覚があった。


「泉羽……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。