↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
学園で殺されたら、俺の死体隠しデスゲームが始まった件  作者: 座間あぜん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/24

第2話 もう授業は始まってますよ

「死体隠しデスゲーム、スタート!」


その宣言と同時に、俺の前に『34時間59分59秒』というデジタル数字が浮かび上がった。鮮やかな赤色の数字は1秒ごとに減っていく。その下にはデジタル時計も表示されていた。7月20日、13時00分01秒。13時00分02秒。機械的に時間を刻んでいく。これは冗談ではない。本当に始まったのだ。俺の死体を巡るデスゲームが。


「ちなみに、灰守は獅堂の視界ジャックできるから、獅堂がどこで何してるのか常にわかるよ」


神は思い出したように言った。もっと早く言え。救済システムよりよほど重要な情報だった。俺は言われた通り半信半疑のまま意識を獅堂へと向ける。すると次の瞬間、景色が切り替わった。テレビのチャンネルを変えたみたいだった。校舎裏の茂みから見慣れた教室へと移る。獅堂の視界だ。ついさっき校舎裏で殺人事件が起きたとは思えないほど教室は平和だった。


獅堂は一番後ろの席でふんぞり返っている。椅子を乱暴に傾け、片足を机の上へ投げ出したまま、前の席に座る泉羽へ気軽に話しかけていた。さっきクラスメイトを殺した人間とは思えない態度だった。罪悪感に押し潰されている様子なんて一ミリもない。そう思うと、はらわたが煮え返りそうになった。


泉羽はろくに獅堂の相手をせず、教室の中を見回している。落ち着きなく視線を動かし、いつもなら隣の席へ座っているはずの俺を探しているようだった。窓際にある俺の席はぽつんと空いている。泉羽、と俺は心の中で呼びかける。届くはずがないと分かっていても、何度も名前を呼んでしまう。もちろん返事はない。


泉羽とは小さい頃から何かと一緒によく遊んだ。小学生のころから男子人気は学年でも群を抜いていた。高校へ入学してまだ3か月と少しだというのに、すでに十回以上告白されているらしい。男子女子関係なく、可愛いという評判をよく耳にする。本人はそういう扱いを嫌がっていたが、それでも周囲は放っておかなかった。でも当の本人である泉羽は誰とも付き合うことは無かった。



午後の授業開始を告げるチャイムが鳴った。生徒たちが自分の席へ戻り始める。賑やかだった教室は少しずつ静かになる。泉羽はまた教室の入口へ視線を向けた。俺が駆け込んでくることを期待しているみたいだった。その期待に満ちた目が俺の胸へ刺さる。戻りたい。何事もなかったように教室へ入り泉羽を安心させたい。でもそれはもう叶わない。俺は死んだ。あの席へ戻ることは二度とできない。その事実が未だに受け入れられない。


ガラリと教室の扉が開く。担任が入ってきた。俺たち1年A組の担任、佐藤先生だ。年齢は三十代前半。担当教科は公民。学園では怖い先生として有名だ。授業中に私語をすれば容赦なく注意するし、提出物が一日でも遅れれば言い訳は通用しない。生徒へ媚びることもなければ、不良である獅堂を相手に腰が引けることもない。


そして佐藤先生は、生徒をよく見ている教師だった。視線が教室全体を素早く見渡す。その目が窓際の俺の席で止まった。ぽつんと空いた椅子を見つめ、わずかに眉をひそめる。


「灰守はどこ行った」


教室を見渡しながら発せられたその一言に俺の心臓が跳ねた。早速チャンスが巡ってきたと思った。昼休みが終わっているのに席についていないのは、普段の俺なら絶対にあり得ない行動だった。だから佐藤先生が違和感を覚えるのは当然だったし、クラスメイトたちだって「あれ、灰守は?」と思っているはずだ。最初の追い風が吹いたと思った。その空気をぶち壊したのは獅堂だった。


「クソでもしてんじゃないすか」


教室のあちこちから小さな笑いが漏れる。人を殺しておいて、その口で冗談を言っていることが腹立たしかった。怒りを抑えようとしても無駄だった。胸の奥で燃え始めた憎しみは大きくなっていく。しかも獅堂には焦る様子がない。ほんの数十分前に俺を殺した人間とは思えなかった。


今すぐこいつの顔面へ拳を叩き込みたい。歯が全部折れるまで殴り続けたい。その衝動が頭の中を埋め尽くしていた。だがそれは叶わない。だから絶対にこのデスゲームで勝たなければ、と改めて思った。


佐藤先生は「授業始めるぞー」と切り返した。その一言で教室の空気は何事もなかったように元へ戻る。誰も俺の話を続けようとはしなかった。俺の不在は、たった数秒で「ちょっと席を外しているだけ」という扱いになってしまう。せっかく吹き始めた追い風は、あっけなく止んでしまった。俺は何もできず、その光景を見つめることしかできなかった。



獅堂は授業中もまったく先生の話を聞いていなかった。視線はずっと泉羽へ向いている。泉羽の背中や横顔ばかり見ていた。獲物を狙う肉食獣みたいな目だった。一方で公民の授業は皮肉にも刑法や裁判に関する内容へ入っていた。犯罪とは何か。刑罰の目的とは何か。教師が黒板へ淡々と板書していく。校舎裏に教え子の死体が横たわっていることなど知らない。教室では法律について語られ、殺人犯が何食わぬ顔で椅子に座っている。そのちぐはぐさがひどく滑稽だった。


授業が三十分ほど過ぎた頃だった。俺のスマホから聞き慣れた通知音が鳴った。もちろん俺自身は画面を確認できない。だが獅堂の視界を通して教室を見ると、泉羽が机の下で素早くスマホを操作しているのが見えた。誰にも見つからないように慣れた手つきだった。俺へメッセージを送ったのだ。「どこにいるの?」とか、そんな内容だろう。



授業が終わり、休み時間を告げるチャイムが鳴るや否や、泉羽は勢いよく席を立った。誰よりも早く教室を飛び出していく。その横顔には焦りがはっきり浮かんでいた。俺を探しに行くつもりだ。そう直感した。胸の奥へ小さな希望が灯る。しかし、その希望を踏みにじるように獅堂もゆっくり椅子から立ち上がった。急ぐ様子はない。あくまで偶然を装うように少し時間を空け、それから教室を出ていく。その歩き方を見ただけで分かった。泉羽の行動を見張るつもりなのだ。


教室を離れ、人通りの少ない廊下を歩き、ほとんど使われることのない空き教室へ入ったところで泉羽は立ち止まる。制服のポケットへ手を入れ、スマホを取り出した。


俺は自分の体に意識を戻す。校舎裏の茂みに隠された俺の死体のポケットから着信音が鳴った。静かな茂みへ電子音が虚しく響き渡る。もちろん俺は出られない。着信音は何度も何度も鳴り続け、やがて留守番電話へと切り替わる。その音を聞いていると胸が締めつけられた。


視界ジャックで獅堂に意識を映す。獅堂は静かに泉羽へ近づいていく。足音を殺し、背後から獲物へ忍び寄る肉食獣みたいだった。泉羽は電話へ意識を向けていて、後ろに獅堂がいることに気づいていない。俺はただ見ていることしかできなかった。


次の瞬間、獅堂は腕を伸ばして泉羽のスマホをひったくった。突然の出来事に泉羽の肩が大きく跳ね上がる。


「学園内でスマホ触っちゃダメだろ」

「関係ないでしょ! 返して!」


泉羽はすぐに奪い返そうと手を伸ばす。しかし獅堂は身長差を利用して軽々と避けた。泉羽は怒りながら何度も飛びつくが届かない。


「返してほしければ俺の女になれ」


獅堂がそう言った直後、授業開始のチャイムが鳴った。泉羽は無理やり獅堂の腕を掴み、スマホを奪い返した。短く不機嫌な顔で「絶対に嫌」と言い残して教室へ向かって走り出す。その背中を見送りながら獅堂は口の端を吊り上げた。


「気の強い女ほどそそるぜ。なぁ、覗き魔。ていうか何でお前あんないい女に手出してねぇんだ、バカだろ」


その言葉を聞いて、俺の中で燃えていた怒りはさらに勢いを増した。炎に油をぶちまけられたみたいだった。獅堂は理性が働かない獣だ。人を人として見ていない。ムカついたら人を殺すし、欲しい物があれば暴力で手に入れようとするだろう。あるいは脅しをかけて恐怖で従わせようとするかもしれない。泉羽だけは絶対に守らなければならない。その思いが、俺の憎しみをさらに強いものへ変えていった。


「あぁそうか、チー牛だからか。アハハハハハ」


このデスゲームは何が何でも勝たなければならない。現在時刻14時10分。残り時間『33時間50分』を刻んでいる。



獅堂は教室へ戻らなかった。1年A組の教室とは逆方向へ歩き出す。その足取りに迷いはない。昇降口で靴に履き替えると、そのまま真っすぐ校舎裏へ向かう。嫌な予感しかしなかった。そしてその予感は当たってしまう。獅堂は隠された俺の死体の前でしゃがみ込み、俺の制服のポケットへ手を突っ込む。


取り出したのはスマホだった。何のためらいもなく地面へ放り投げると、そのまま思い切り踏みつけた。鈍い音が響き、液晶には蜘蛛の巣のようなひびが広がる。それでも足を止めない。何度も何度も踏みつけ続ける。液晶は粉々に砕け、ケースはひしゃげ、スマホは真っ二つになった。


獅堂は満足そうに鼻を鳴らすと、その場でぴたりと動きを止める。何もない空間をじっと見つめたまま微動だにしない。その様子を見て、恐らく神と話しているのだろうと思った。残念ながら俺にはその会話は聞こえない。しばらくすると獅堂は納得したように小さくうなずき、独り言のようにぽつりとつぶやいた。


「埋めれば見つかりっこねえ。俺の勝ちだ」


どうやらこいつは穴を掘って俺を埋めるつもりらしい。単純だが効果的な方法だった。しかも校舎裏のこの桜の木の下は人目につかない。一度埋められてしまえば、35時間どころか何年経っても見つからない恐れもある。そんなことに俺は今更ながら気づいた。今度は俺が神に話しかける。思わず文句が口をついた。



「おい神、埋めるのは流石になしだろ」

「うーん……、でもルール違反じゃないし」

「だからって、ゲームとして成立してないだろ。そもそもこのデスゲーム、俺にできることが何もない時点でおかしいじゃないか」

「いや、救済システムがあるよ」

「使いどころがないだろ。ゲームバランスが無茶苦茶だ。デスゲームの主催者としてどうなんだよ」

「まぁ、初めてのデスゲームだからさ。そこはほら、ご愛嬌というかね。えへへへへ」


神は悪びれもせず力なく笑った。その笑い方には反省も申し訳なさも一切感じられない。それに対して俺は無性に腹が立った。今や俺にとって、このデスゲームは単なる暇つぶしではない。死んだあとに与えられた最後の戦いだ。獅堂へ報いを受けさせる、たった一度しかない復讐の機会だ。


何とか突破口を探そうと、俺は必死に頭を回した。どんな小さな可能性でもいい。この理不尽なゲームをひっくり返せる一手が、どこかにあるはずだと信じるしかなかった。といっても、俺にあるのは救済システムだけだ。


▼救済システム

・1秒間、息を吹きかけられる

・1秒間、触れられる

・1秒間、喋りかけられる

※各1回ずつ、俺の死体から半径1メートル以内の人物に対して使用可能


やはりこんなの飾りでしかない。文字だけ見れば特別な力に思える。だが実際は違う。俺の死体へ近づく人間がいなければ何一つ使えないし、たった一秒で状況をひっくり返すことなど不可能だ。


結局、勝敗のすべては獅堂の行動次第だった。俺がどれだけ勝ちたいと願っても、この状況は自分の力では変えられない。獅堂が失敗することを祈るしかない。要するに運ゲーだ。理不尽に殺された上、俺に不利なルールで復讐まで運任せ。ここまで来ると笑えてくる。神は本気でこれを公平なゲームだと思っているのだろうか。叫ばずにはいられなかった。そんな俺の思いなど歯牙にもかけず、獅堂は鼻歌でも歌い出しそうな軽い調子でつぶやいた。


「倉庫からスコップでも持ってくっか」


そのときだった。少し離れた場所から「もう授業は始まってますよ」と声がした。落ち着いた声だった。獅堂は反射的に顔をそちらへ向ける。俺も視界ジャックを通してその人物を見た。木漏れ日の差し込む校舎裏の通路に、その人は静かに立っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。