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学園で殺されたら、俺の死体隠しデスゲームが始まった件  作者: 座間あぜん


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第1話 スタート!

猛暑日を連日のように記録する7月、俺は死んだ。いや、殺された。この学園に入学してまだ3か月と少し。ようやく学校生活にも慣れ始めた頃だった。明後日からは待ちに待った夏休みだったというのに。たった一人の人間の身勝手な振る舞いで、16年という俺の短い人生は幕を閉じた。あまりにもあっけなく、あまりにも理不尽な最期だった。


俺の名前は灰守灯路(はいもり とうじ)。眼鏡をかけた、どこにでもいる16歳の高校1年生だ。勉強も運動も飛び抜けてできるわけじゃない。友達が多いわけでもなく、どちらかといえば陰キャな普通の高校生だ。


俺を殺した相手はクラスメイトの獅堂龍辰(しどう りゅうしん)という男だ。身長は190センチ近くもあり、筋肉質な体系をしている。金髪をワックスで逆立て、耳にはイヤリング、首にはネックレス、手首にはブレスレットをしている。教師に反抗し、校則破りを勲章みたいに考えている典型的な不良だ。


なぜ俺が獅堂に殺されたのか。発端は昼休みだった。獅堂に校舎裏へ呼び出された俺は、学年、いや学園1の美少女と噂される黄城泉羽(きしろ みう)を自分の女にするから協力しろと言われた。泉羽の幼なじみである俺に白羽の矢が立ったのだ。


もちろん断った。こういう頼みは中学の頃から何度もされてきた。告白の橋渡しをしろ。連絡先を教えろ。二人きりになれるよう協力しろ。そのたびに全部断ってきた。他人の恋愛に首を突っ込みたくないし、何より泉羽を物みたいに扱うのが嫌だった。だから今回も、いつも通り断った。ただそれだけだった。


獅堂は激怒した。それでも俺は首を縦に振らなかった。すると拳が飛んできた。愛用していた眼鏡は一瞬で砕け散る。それからは何発殴られ、何発蹴られたのかも分からない。圧倒的な腕力で押さえつけられ、抵抗することすらできなかった。


最後は馬乗りになられたまま首を絞められた。獅堂は血走った目で俺を見下ろし、笑っていた。途中から耳鳴りがひどくなり、何を言っているのかはほとんど聞こえなかった。それでも狂ったように鳴き続ける蝉の声は耳に残っている。夏空は雲一つない快晴だった。誰かが殺されるにはあまりにも平和すぎる空だった。



俺の死体は今、校舎裏の茂みに隠されている。生い茂る桜の葉が日差しを遮り、雑に放り込まれた制服には土と草がこびりついていた。心臓は動いていない。息もしていない。体温もない。なのに意識ははっきりしていた。目は見えるし、音も聞こえる。匂いも、味も、感触も分かる。五感はすべて機能しているのに、痛みは感じない。変な話だが、死んでいるのに死んでいなかった。


「やあ、灰守灯路」


突然、誰かが話しかけてきた。反射的に周囲を見ようとしたが首は動かない。というより、その声は頭の中へ直接響いていた。


「デスゲームに興味はないかい?」


友達を遊びに誘うような軽い口調だった。そいつはそのまま勝手に自己紹介を始めた。とはいえ内容は驚くほどあっさりしている。ただ一言、自分は人類の言うところの神と名乗っただけだった。信じる信じないは置いておいて、どうせ俺はもう死んでしまった身で、それこそ神でも悪魔でも何でも来いという投げやりな感じだった。


「キリストか、ヤハウェか、それともオーディンの類か。まさか天照大御神じゃないよな。声がおっさんすぎる」

「創作上の神と一緒にしないでほしいなぁ。一応、ガチの神だからさ」


あっそ。心の底からどうでもよかった。神にしては軽すぎるだろこいつ。


「声に関しては自由に変えられるよ。例えばこんな風に、最近人気の女性アイドルでもいけるけど。どちらがお好みかな?」


本当に声が変わった。動画サイトで耳にした人気女性アイドルの声だった。モノマネとかそういう次元じゃない。とりあえず俺は声を戻すように言った。


「さっき言ってた、デスゲームってのはどういう意味だ?」

「最近デスゲームの映画見るのにハマっててさ。やってみたいなと思って」


デスゲーム。映画や漫画ではよくある題材だ。参加者が命を賭けて競い合い、負ければ死ぬ。生き残るために裏切り、騙し合い、ときには殺し合う。


「もう俺がデス状態なわけだが……」

「構わない。今から24時間、獅堂龍辰が君の死体をこの学園内に隠し通せるかどうかっていうルールだから」


そんなデスゲームありかよ。


「獅堂が勝ったら君の存在はこの世界から完全に消滅する。君が生まれたという事象まるごとね。つまり、誰も君のことを覚えていない状態になる。もちろん殺人の痕跡も全部なくなる。そして君が勝ったら、獅堂の存在が同じく消滅する。どうかな?」

「どうかなって、そんなのダメに決まってるだろ」


当たり前だ。俺という存在そのものがなかったことになるなんて、受け入れられるわけがない。家族と過ごした時間も、幼馴染である泉羽との思い出も、全部最初から存在しなかったことになるなんて嫌だ。ある意味で死ぬことよりもずっと怖い。誰の記憶にも残らないということは、生きた証そのものが消えるってことだ。あり得ない。


「えぇ~、嘘でしょ……」


神は心底がっかりしたような声を漏らした。子どもがおもちゃを買ってもらえなかったときみたいに露骨に落ち込んでいる。肩を落としている姿まで想像できそうな声だった。なぜそんな反応ができるのか不思議でならない。本気で俺が飛びつくと思っていたのだろうか。断った俺を悪者に仕立て上げるかのような落胆ぶりだった。普通に考えて参加するわけがない。負ければ存在そのものが世界から消える。そんな条件を聞かされて「ぜひ参加します」なんて答える人間がどこにいる。まともな人間なら即座に断るはずだ。


「強制参加じゃないだけでも良心的なのに……」


知ったことではない。いや、どこが良心的なんだ。神を名乗るなら、俺が殺される前に獅堂の暴力を止めるべきだ。それをしなかったということは、最初から助ける気なんてなかったということ。それどころか、俺をこのデスゲームへ参加させるためだけに、俺が死ぬ瞬間をずっと待っていたに違いない。そう考えると、段々とこの自称神に対する怒りが湧いてきた。


それに、やっぱりこいつは全然神らしくない。全知全能の存在というより、面白い遊びを思いついては人間へ押しつけ、期待した反応が返ってこなければ不満そうにふくれる。性格の悪いガキンチョにしか見えなかった。


言葉遣いも軽いし、考え方も幼稚だ。それなのに人間の生死だけは簡単に支配できる。その力と精神年齢があまりにも釣り合っていない。だからこそ恐ろしい。ナイフを持った子どもが遊び半分で虫を刺し殺すように、こいつは人間を壊して笑っているタイプかもしれない。そう思うと、怒りと同時に背筋が冷たくなった。


「灰守、正直になりなよ……。理不尽に殺されて、このまま終わっていいとは思ってないでしょ」


俺が「……まぁ」と返事をした、その瞬間だった。何の前触れもなく、俺を殺したときの獅堂の顔が脳裏へ鮮明によみがえる。首を締め上げながら浮かべていた、あの下品な笑み。人を殺しているというのに罪悪感の欠片もなく楽しそうに笑っていた顔。助けを求める俺を見下ろし、勝ち誇ったように笑っていた。思い出しただけで喉の奥がぎゅっと締めつけられる。首にはもう痛みもないはずなのに、あのごつごつとした太い指がまだ食い込んでいるような錯覚があった。


今までどこか現実感のなかった感情が形を持ち始める。死んだ直後は何もかも現実味がなく、頭の中は混乱しかなかった。自分が死んだことも、神を名乗る存在も、全部が悪い夢みたいだった。だが今は違う。俺は確かに殺され、獅堂はのうのうと生きている。その事実が心の奥で熱を帯びていた。今頃あのクソ野郎は何事もなかった顔で教室へ戻り平気な顔をして笑っているだろう。あいつはそういう人間だ。その光景を想像して俺の中で何かが音を立てた。


それは怒りなんて生ぬるいものじゃなかった。もっとどす黒い感情だった。獅堂は俺から全てを奪った。俺の未来をたった数分で握り潰した。許せない。反省や更生なんてどうでもいい。獅堂には俺と同じ死をもって償ってもらわなければ釣り合いがとれない。復讐してやる。俺がこの手で殺してやる。そんな思いが頭の中を埋め尽くしていった。


「獅堂にはもうオッケーを貰ってる。あとは君の了承を得るだけだ。これは神からのラストチャンスだよ。復讐したいなら、乗るしかない」


もし本当にこいつが神で、人間の生死を左右できるほどの力を持っているのなら答えは一つだった。


「デスゲームに参加する」

「決まりだね」


神は嬉しそうに言った。



「そうそう、灰守には救済システムがあるよ」


重要な注意事項を付け足すみたいな言い草だった。まとめると次のような説明だった。


▼救済システム

・1秒間、息を吹きかけられる

・1秒間、触れられる

・1秒間、喋りかけられる

※各1回ずつ、俺の死体から半径1メートル以内の人物に対して使用可能


俺はしばらく考えたが、どれも使いどころがないという結論に至った。これでどうやって俺の死体を発見させろというのか。それだけじゃない。このデスゲームのルールは曖昧過ぎる。


「俺の死体が見つかるっていうのは、具体的にどういうことだ。例えば髪の毛とか足先が見えればそれも認められるのか。それと24時間は短すぎる。せめて48時間はほしい」


勝利条件の解釈一つで結果が変わる。後になって曖昧な判定をされちゃ困る。だからこそ先に確認する必要があった。


「なるほど。ちょっと待ってて。獅堂とそのへん詰めてくるから」


神が商談の仲介人みたいなことを言うと、声が途切れた。その間、俺はデスゲームについて考えた。考えた結果、このデスゲームで俺は完全に受け身だと気づいた。気づいたというより、最初からそうだった。勝敗は獅堂の行動によってのみ決まる。獅堂がどこに俺の死体を隠すのか、それだけが結果を左右する。


救済システムとやらも実質的に無意味だ。果たしてこれはゲームとして成立しているのだろうか。むしろ運任せの賭けに近い気さえした。というか確実にそうだ。でもここで俺が条件を欲張りすぎれば、獅堂がゲームへの参加を拒否する可能性もある。そうなれば復讐の機会すら失う。ひとまず神と獅堂の話し合いの結果を聞いてから考えようと思った。



どれくらい時間が経っただろうか。死んでからというもの時間の感覚は曖昧だった。やがて再びあの声が聞こえた。神はやけに興奮していた。新しいおもちゃを買ってもらった子供みたいなテンションだった。やっぱりこいつが神とは到底思えなかった。思いたくもなかった。


「獅堂と協議した結果、35時間後、明日7月22日の深夜24時ジャストまでならいいって。あと見つかるってのは、顔を見られたらってことで。ちなみに体の解体は禁止。顔が分かんないくらい傷つけるのも禁止ね。どう、完璧でしょ!」


さらっと恐ろしい言葉が混ざっていた。体の解体禁止、俺はそんな発想すらなかった。もっとも、その条件は俺にとってプラスだった。獅堂は俺の首を切断して頭だけ別の場所へ運ぶこともできないし、顔を潰して身元不明死体にすることもできない。そう考えれば悪くない条件だった。そしてこれ以上ルールは動かせないだろう。


それに35時間もあれば、きっと誰かが俺を見つけるはずだ。いや35時間も必要ない。一応は真面目な生徒として扱われている俺が午後の授業に現れなければ、教師は違和感を覚えるはず。そして教師以上に幼馴染の泉羽が不審に思うだろう。泉羽なら必ず俺を探してくれる。夜になっても家に帰らなければ、両親も警察に連絡する。十分に勝てるゲームだ。


「それと、デスゲームは始まってしまえば、何があっても途中棄権できないからね」


俺はそれに了承した。神の声が弾む。楽しそうにしてるのがなんかムカついた。神という存在はもっと超然としているものだと思っていた。それがどうだ、この神は命のやり取りをエンターテインメント化している。一言でいえば人間のように俗っぽい。


「死体隠しデスゲーム、スタート!」

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