↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
学園で殺されたら、俺の死体隠しデスゲームが始まった件  作者: 座間あぜん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/24

第12話 俺の勝ちだ

辺りはすっかり夜になっていた。真夏の夜の風は生ぬるい。獅堂は警備員2人を担いでプールへ向かう。土足のまま誰もいないプールサイドへと上がる。ちょうどそのとき、プールサイドの照明が一斉に点灯した。白い光がプールの水面を照らす。


明かりに照らされ、肩へ担がれた警備員2人の顔がはっきり見えた。どちらも苦痛に歪んだ表情のまま固まっていた。つい数分前まで生きていたのに、今は何の反応も示さない肉の塊になっている。その現実が重く胸へのしかかってきた。


この2人にも帰る家があったはずだ。今も妻が夕食を用意して待っているかもしれない。幼い子供が父の帰りを楽しみに待っているかもしれない。平凡で当たり前の日常は、獅堂の身勝手な行為によって断ち切られた。本人とその家族の幸せまで一緒に壊されてしまったのだ。


今頃、俺の両親も帰ってこない俺を心配しているはずだ。何度電話をかけてもつながらない。母親が何度も時計を見つめ、落ち着かない様子でいる姿が頭に浮かんだ。俺はもう死んでいる。二度と家には帰れない。気づけば俺は泣いていた。意識だけの存在に涙なんて流せないとは思うが、確かにそんな感覚があった。


獅堂はそんなことに思いをはせることもない。自分が殺した人間がどんな人生を送っていたのか、その家族が今どんな思いをしているのか。すべて獅堂にとってはどうでもいいのだろう。



獅堂はプール際に立った。肩に担いでいた警備員2人を水面へ向かって放り投げた。ドボンという音とともに水面が大きく盛り上がり、無数の水しぶきが周囲へ飛び散った。照明を受けた水滴がキラキラと光る。しかしそれも長くは続かない。波立った水面はゆっくりと揺れを弱め、やがて再び闇色の水面へ戻っていく。2人の体は何の抵抗もできないまま青黒い水の底へ沈んでいった。


獅堂はその様子を満足そうに眺めながら、神と何やら会話を交わしているらしかった。俺には神と獅堂の会話が聞こえない。獅堂の表情がわずかに変化するのを感じるだけだ。会話を続けながら、獅堂は首に下げていたタオルを右手でつかんだ。警棒で殴られた頭へタオルを押し当て、流れてくる血をふき取っていた。


神に話を聞いたところ、獅堂が何を考えてこんなことをしたのかは分かった。一言でいえば、水泳部への嫌がらせだという。腹を壊して古いトイレを利用した、あの水泳部員への腹いせとして、わざわざプールへ警備員の死体を沈めたらしい。


「まぁ、八つ当たりだね」


神はどこか呆れたような、それでいて面白がるような口調で言った。俺には理解できなかった。遺体さえ他人への嫌がらせの道具として利用する。その発想は、普通の人間ならたどり着けるものではない。俺は改めて獅堂という人間の恐ろしさを感じた。



獅堂はズボンのチャックを下ろすと水面に向かって平然と放尿を始めた。公園のトイレで用を足しているような気軽さだった。勢いよく落ちた尿は静かな水面に波紋を広げる。その水面の底には、ついさっき沈められた警備員2人が横たわっている。プールはひどく冒涜的な場所へ変わり果てていた。


用を足し終えると、獅堂は何事もなかったようにポケットからタバコを1本取り出した。慣れた手つきでライターを鳴らし先端へ火を移す。オレンジ色の火が夜風に小さく揺れ、やがて紫煙が夜空へ立ち上っていく。


獅堂は深く煙を吸い込み満足そうに吐き出しながら、水底へ沈んでいる2人の姿をぼんやり眺めていた。その口元には悪ふざけが成功した子供のような笑みが浮かんでいる。その笑顔は俺がこれまで見てきたどんな表情よりも不気味だった。


自分の行動が後にどんな結果を招くか、獅堂は考えているのだろうか。殺人の証拠を消すどころか、むしろ自分から白状している。その無謀さは大胆というより破滅的だった。


警備員2人が定時を過ぎても会社へ戻らなければ、勤務先が異変に気づくのは当然のことだ。しかも電話をかけても繋がらないとなれば、事故か事件に巻き込まれたと考えるはず。今日か明日の早い時間には、会社も警察へ連絡を入れるだろう。となると、当然この学園に警察が来る。あるいは警察より前に、水泳部がプールの水底に沈んでいる2人の遺体を発見するかもしれない。要するに、獅堂の犯した殺人事件が表沙汰になるまでそう時間はかからないはずだ。


それだけじゃない。俺の両親だって俺がいつまでたっても帰宅しないことを不審に思っているはずだ。きっと泉羽に「航士郎を知らないか」と連絡を取っているだろう。あるいはその前に泉羽の方から「何度連絡しても繋がらない」と俺の両親へ伝えているかもしれない。泉羽なら俺が突然姿を消すような人間ではないことを誰より知っている。だからこそ異変を察するはずだ。いずれにせよ、俺の両親が警察へ捜索願を出すのは時間の問題だった。


警備員2人の殺人事件と俺の行方不明。その2つが同じ日に同じ場所で発生した以上、警察が本格的な捜査に乗り出すのは避けられない。現場検証が行われ、学園関係者への聞き込みが始まり、防犯カメラや周辺の足取りまで徹底的に調べられるだろう。


そんなことなど露ほども気にしていないのか、獅堂は吸い終えたタバコを指先で軽く弾いた。赤い火種がプールサイドの上で小さく跳ねて転がった。



獅堂はポケットへ両手を突っ込み、鼻歌でも歌い出しそうな気楽さで第二倉庫へ向かって歩き始めた。なぜそんなに呑気でいられるのかは分からない。獅堂は凶暴な殺人鬼であっても、現状を理解できないほどのバカではない。


ならばなぜこんな馬鹿げた真似をするのか。俺には殺人鬼の思考回路なんて理解できない。それでも1つだけ分かることがある。獅堂は自分が捕まることなんてないと信じ切っている。焦る様子がないどころか、むしろ楽しんでいるような雰囲気さえ漂わせている。その根拠のない自信が俺には何よりも不吉で薄気味悪かった。


「獅堂はこれまで勝負事で負けたことがないらしいよ。このデスゲームも100パーセント勝てると思ってる」


神は俺にそう教えた。つまり、獅堂を支えているのは理屈でも計画でもない。これまで一度も敗北を知らずに生きてきたという成功体験、その積み重ねだった。殴れば相手が黙る。脅せば誰も逆らわない。自分が望めば必ず思い通りになる。そんな経験を何度も繰り返してきたせいで、獅堂の中では負けるという考えそのものが薄れているのだろう。


その思い込みはもはや自信という言葉では足りない。自分なら何をしても大丈夫だと思い込む、歪んだ万能感と言った方が近い。その歪み切った万能感こそが、獅堂を獅堂たらしめている最大の理由だった。だからこそ警察が動くと分かっていても恐れない。普通なら人生が終わるかもしれないと震えるような状況でも、獅堂は自分なら何とかできると本気で信じている。


ただどう考えても、殺人を犯したり、その遺体をプールへ投げ込んだりする行為は、デスゲームで自分を不利にするだけだ。校内に警察官が入り、教師たちも普段以上に生徒の動きを注意して見るようになれば、獅堂の行動は一気に制限される。それは俺にとって大きな追い風だった。



第二倉庫に戻ってきたとき、時刻は20時05分だった。13時に始まったデスゲームはまだ7時間と5分しか経っていない。残り時間は『27時間55分』と表示されている。もう何日も地獄の中をさまよい続けたような疲労感があった。俺を含め3人が命を落とした。まさかこんな展開になるとは思ってもみなかった。


明日になれば必ず警察は学園へやって来る。映画やドラマで見た俺の知識だと、まず現場保存が行われて鑑識が入る。教師や生徒、職員への事情聴取も始まるだろう。防犯カメラの記録確認、残された物的証拠の検証も行われるはずだ。そうやって1つ1つ調べていけば、早い段階で犯人が獅堂という結論へたどり着くだろう。獅堂の犯行には慎重さが微塵もないのだから当たり前だ。


問題は俺の件がどう扱われるかだった。警察が俺の行方不明を単なる失踪事件として処理するのか。それとも学園のどこかへ監禁されている可能性や、すでに殺害、遺棄されている可能性まで考えて学園内を捜索してくれるか。そこがデスゲームの勝敗を大きく左右する。


もしそこまで踏み込んだ捜査が行われれば、普段は人が立ち入らないような場所まで調べられるだろう。使われていない教室や校舎の裏側、人目につかない茂みまで確認される可能性が高い。だがそもそも俺には、学園の中で死体を安全に隠し続けられる場所なんてもう残されているとは思えなかった。古いトイレも第二倉庫も、隠し場所としてはもう機能しない。



獅堂は俺の入った寝袋のファスナーを開いた。中から青白く変色した自分の顔が現れた。俺は間違いなく死んだのだという事実を改めて突きつけられる。何度見ても慣れることはなかった。獅堂は俺を見ながら口元をゆっくりと吊り上げた。


「チー牛、どうせお前は隠し場所なんてもうないとでも思ってんだろ。ふふふっ……、ふはははははっ。この勝負はな、俺の勝ちだ。バァァカッ!」


虚勢ではない。本気で自分の勝利を確信しているようだった。明日になれば警察が学園へ押し寄せることも、俺の死体を自由に運び回れなくなることも、すべて理解したうえで笑っている。


獅堂は寝袋の中から俺を乱暴に引きずり出した。痛みこそないが、自分の体がこんなふうに扱われる光景を見るのは気分のいいものではない。それから獅堂は空になった寝袋を拾い上げ、収納袋に入れて元の場所へ戻した。俺の死体がその寝袋に隠されていたという痕跡を残したくないらしい。


獅堂は俺の腕をつかみ、肩へ担ぎ上げた。獅堂が俺をどこに隠そうとしているのか、まったく見当がつかない。俺の知らない場所だろうか。考えても答えは出てこなかった。


歩き出した獅堂の足取りに迷いはなかった。立ち止まることもない。一定の速さで淡々と歩いている。頭の中に地図があり、着実にそこへ向かっているようだった。



やがて獅堂は校舎のすぐそばまで歩いてきた。夜の校舎は静まり返っている。獅堂は窓の近くでぴたりと立ち止まる。ガラスには夜の闇と獅堂の姿がぼんやりと映り込み、その肩には俺が担がれている。獅堂は俺の死体を地面へ無造作に落とす。


それから足元に転がっていた拳ほどの大きさの石を拾い上げる。手の中で2、3度転がし、重さを確かめるような仕草を見せた。そして次の瞬間、獅堂は大きく腕を振り抜いた。石は鋭い風切り音をさせて窓ガラスへ向かって飛んでいった。


窓ガラスの割れる派手な音が響いた。獅堂は割れた窓へ近づくと、開いた穴から腕を突っ込んだ。内側から鍵を開け窓を開く。再び俺の死体を肩へ担ぎ上げると、窓を乗り越えて校内へ入った。校内に侵入したことがバレても構わないといった感じだ。


ただし、割れた窓ガラスが散らばるすぐそばで靴を脱いだ。足跡で向かう先がバレるのを警戒したのだろう。変なところで冷静だった。


獅堂は靴下で廊下を歩きだす。しかし、本当に俺をどこへ連れていくつもりなんだろうか。考えれば考えるほど疑問ばかりが浮かんでくる。やがて目的の場所へたどり着いたわけだが、そこは俺にとって最も意外な場所だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。