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学園で殺されたら、俺の死体隠しデスゲームが始まった件  作者: 座間あぜん


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第11話 決めた

警備員が寝袋のプル部分を手前へ引こうとした、その次の瞬間だった。獅堂は警備員の背中を後ろから蹴り飛ばした。警備員の足が床から離れ、そのまま積み上げられていた備品へ激しく突っ込んだ。


ガシャ、ガシャンという音とともに工具や金属製の備品がコンクリートの地面へ落ち、倉庫中へ派手な物音が響き渡る。静かだった第二倉庫の空気が一瞬で壊れた。


警備員は苦しそうなうめき声を漏らした。それでも倒れたまま動かなくなることはなかった。痛みに顔をしかめながら手を腰へ伸ばす。指先が無線機を探り当て、そのまま強く握りしめた。自分が危険な目に遭っていることを伝えなければならない。そんな警備員の必死さが俺には伝わってきた。


「だっ……、第二倉庫……」


途切れ途切れの声だった。それでも必死に言葉を絞り出している。獅堂の表情が険しくなる。警備員が次の言葉を発するのと同じくらいで、獅堂は飛びかかるように距離を詰め、無線機を力ずくでもぎ取った。警備員は「すぐに来てくれ……」と言いかけていたと思う。


でもその前に発した「第二倉庫」という言葉は確実に電波へ乗った。短い言葉だったが、苦しそうな声と切羽詰まった様子だったことから判断すれば、他の場所を巡回しているであろう警備員も異常事態だと気づけるはずだ。


それを理解しているからこそ、獅堂の顔には焦りが浮かんでいた。獅堂は無線機をコンクリートの壁へ思い切り投げつける。大きな音が鳴り、無線機は砕けて部品を周囲へまき散らした。それでも獅堂の怒りは収まらない。地面に落ちた無線機へ何度も足を振り下ろし、すでに壊れていることなど関係ないと言わんばかりに何度も踏みつけた。



そのとき突然、獅堂は「ぐっ……!」と低くうめき、その場へしゃがみ込んだ。あまりにも唐突なことだった。俺は視界ジャック越しに、その異変をはっきり感じ取った。俺自身に痛みはない。それでも獅堂の視界が激しく揺れ、頭の中まで揺さぶられたように景色が大きくぶれる。


何か硬い物が頭へ叩きつけられたことは分かった。さっきまで優勢だった獅堂の動きが完全に止まる。獅堂がゆっくりと視線を警備員へ向ける。そこには、さっきまで倒れていた警備員が立っていた。その手には折れ曲がった警棒が握られている。警棒は真ん中から大きく曲がっていた。どうやら警棒で獅堂の頭を振り抜いたらしい。それだけ強烈な一撃だったということだ。


獅堂は何も言わず自分の頭頂部へ手を伸ばした。衝撃を受けた場所を確かめるように、右手の指先をそっと当てる。それから何かを確認したようにゆっくりと手を離した。手の平にはべっとりと血が付着している。獅堂は数秒間、その赤黒い血を無言で見つめていた。


「クッソがぁぁああああっ!!」


獅堂は獣のようなうなり声を出しながら警備員へと突っ込む。そのまま馬乗りになった。拳を振り上げ警備員の顔面を容赦なくたたきつけた。1発、2発、3発。鈍い打撃音が鳴る。警備員は腕で顔をかばいながら必死にもがく。それでも獅堂は構わず殴り続ける。俺にはそれを止める術がない。ただ目の前で起きる暴力を見続けることしかできなかった。


「神、今すぐ止めろ!」

「だから言ってるだろ、灰守。人間のやることに神は介入しない」

「そんなこと言ってる場合か! 死ぬぞ!」

「人類の歴史から暴力や争いがなくなったことはない。自然の摂理じゃないか」


やっぱり神はただの傍観者だった。それ以上でも以下でもない。俺がどれだけ叫ぼうと、目の前で人が殺されかけていようと、こいつは見ているだけ。それが神のあり方だと言い張る。ふざけるな。人を救える力を持ちながら行使しないのはただ責任から逃げてるだけだ。


「お前が始めたデスゲームのせいで死にかけてるんだぞ!」

「そんな顔を真っ赤にして怒るなよ、灰守。……って、君の顔は真っ青だったね」


そう言って神は笑った。その楽しそうな笑い声がこの状況にはあまりにも場違いだった。俺は獅堂に対して抱く以上の怒りと嫌悪感をこの神へ抱いていた。


「どうにかしたいなら救済システムを利用するといい。1秒だけ息を吹きかけられる。1秒だけ触れられる。1秒だけ喋りかけられる。あぁ、でも君の体は寝袋の中。獅堂も警備員も君から半径1メートル以内じゃないからダメだね」


神はまた面白そうに笑った。腹が立って仕方なかった。神にも自分にもだ。俺は何もできない。目の前の惨状を見ていることしかできない。止めることも、助けを呼ぶことさえできない。無力という言葉では足りないほど自分が情けなかった。


獅堂は頭から血を流しつつ、ボロボロになった警備員の胸ぐらを乱暴につかみ上げた。警備員の制服は血で汚れている。息をするたび苦しそうに胸が上下していた。


「お前以外に警備員は何人いやがる」


男は苦しそうにうめくだけで何も答えない。答えられないのだ。喋ることすら苦行であるに違いない。唇の端から血を流し、焦点の合わない目で獅堂を見つめている。


「何人だっつってんだよ!」


怒鳴り声とともに胸ぐらを激しく揺さぶられ、警備員は喉の奥から声を絞り出した。


「1人……」

「てことは、お前入れて警備員は2人か?」


男は小さくうなずいた。その反応を見た獅堂は何かを計算するように目を細める。



それから獅堂は動けなくなった警備員の胸ぐらをつかんだまま、乱暴に第二倉庫の外まで引きずり出した。コンクリートの上を制服のズボンが擦れる嫌な音がした。警備員は苦しそうに顔をしかめ、ときおり小さくうめき声を漏らしていた。


外へ出るなり、獅堂はなおも容赦しなかった。腹と背中へ何度も蹴りを入れる。そのたびに警備員の体が地面の上で跳ねて丸まる。抵抗しようと腕を動かしても力はほとんど残っていない。


「たすけっ……」

「黙れ。お前は、おとりだ」


その一言を聞いたとき、獅堂が何を考えているのか理解した。もう1人いるという警備員を誘き寄せるつもりなのだ。獅堂は数メートルほど距離を取って第二倉庫脇の陰へ身を潜めた。壁に体をぴたりと寄せ、倒れたまま動けない警備員の男をじっと見つめる。その姿は獲物が罠へ掛かるのを待つ獣だった。俺は背筋が寒くなった。



やがて校舎の向こうから、懐中電灯の白い光と小走りの足音が近づいてきた。もう1人の警備員だった。すぐ異変に気付いたようだ。倒れている警備員へ近づき「大丈夫か」と声を掛ける。意識があるか確かめようとする。周囲にも視線を走らせる。だが身を潜めている獅堂には気づかない。


静まり返った第二倉庫付近にはカラスが集まっていた。木々の枝や校舎の屋根に黒い影がいくつも見える。そのうちの1羽が鳴き出すと、それにつられるように別のカラスも鳴き始めた。その鳴き声が重なり、夜の学園は不気味な雰囲気に包まれた。


警備員はすぐにポケットからスマートフォンを取り出した。会社へ連絡するのか。それとも救急へ通報するのか。警備員の指が画面の上を動く。


だがもう遅かった。獅堂は足音一つ立てず、駆けつけた警備員のすぐ背後まで忍び寄っていた。獅堂は右腕を警備員の首へ回して締め上げる。不意を突かれた警備員は短く息をのみ、手からスマートフォンを落とした。


獅堂の腕を引きはがそうと警備員は必死にもがく。しかし獅堂は全身の力を込めたまま腕の力を緩めない。首へ食い込む腕は万力のように固く、抵抗する力は少しずつ弱まっていく。やがて警備員の膝が崩れ落ち、全身から力が抜けた。


それでも獅堂は腕を外さなかった。このまま絞め殺す気なのか。俺がそう思ったときには、恐らくもう警備員は息を引き取っていた。俺が死人だからか、なんとなくそんな気がした。指一本動かす気配がない。俺は目の前で起きている光景を信じることができなかった。



おとりにされた警備員は薄れる意識の中でゆっくりと動いていた。視界の先に転がるスマートフォンへ手を伸ばす。指先は小刻みに震えている。危険な生徒の存在を知らせる、その一心だったのだろう。


獅堂はその伸ばされた腕を無言のまま足で踏みつける。徐々に体重を乗せ、グリグリと踏み込んでいく。警備員は苦痛に耐え切れず叫び声を上げた。それでも獅堂は力を緩めない。さらに踏み込み、逃げようとする腕を地面へ押し潰す。腕の骨が折れる鈍い音が鳴った。警備員は絶叫した。


獅堂はしゃがみ込み、右手で警備員の髪の毛を雑につかんだ。苦しげに荒い呼吸を繰り返す警備員と獅堂の視線が正面からぶつかる。警備員は何かを訴えるように唇を震わせた。しかし声にはならない。その瞳には恐怖が浮かんでいた。対する獅堂の目は驚くほど冷め切っている。相手を人間ではなく物として見ているようだった。


「おっさんがピーピーわめくな。みっともねぇ」


吐き捨てるように言った。警備員は必死に身をよじって逃れようとするも力は残っていない。手足が弱々しく地面をかくだけだった。獅堂は右手で髪の毛をつかみ、左手を警備員のあごへ添える。その手つきは不気味なほど落ち着いていた。警備員は息をのみ懇願するような目で獅堂を見上げる。


次の瞬間、獅堂はためらうことなく一気に力を込めた。警備員の首は90度を超えて不自然な角度までねじ曲がる。首の骨を折ったのだ。糸が切れたように警備員の全身から力が抜けた。獅堂が手を離すと頭がドスッと地面に落ちた。俺は声も出なかった。



獅堂は立ち上がり周囲を見回した。他の誰かが駆けつけてくる様子はない。無言のまま2人の警備員を見下ろす。


「さぁて……、こいつらの死体をどうすっか」


その口調は人を殺した直後とは思えないほど軽かった。表情は何一つ変わらない。目の前の障害物を片付けただけ、そんな感じだった。昼には俺を殺し、夜には警備員2人を殺した。1日で3人だ。こんな凶悪事件は滅多にない。これが自分も巻き込まれた現実なのだと信じられなかった。


とにかく獅堂は、問題が起これば暴力でねじ伏せる。そして人を傷つけ殺すことに対して一切のためらいがない。しかも恐ろしいことに、学園長は金髪でチャラチャラした素行の悪い不良くらいにしか思っていない。でもその正体はためらいなく人を殺せる怪物だ。


改めて獅堂の狂気を目の当たりにし、絶対こいつを野放しにしてはいけないと俺は強く思った。何としてでもデスゲームに勝利し、この凶悪犯罪者に死を与えなければならない。じゃないとまた誰かが犠牲になる。


「……うし。決めた」


獅堂がつぶやき、動かなくなった警備員をそれぞれ左右の肩へ担ぎ上げた。大人1人を肩へ乗せるだけでも相当な重さのはずなのに、獅堂は2人を同時に持ち上げている。それなのに苦しそうな様子はない。肩へかかる重さを確かめるように体をわずかに揺らしただけで、そのまま何事もなかったように歩き出した。


成人男性が2人。合わせれば120キロをゆうに超えるはずだった。それだけの重量を抱えているとは思えないほど、獅堂の足取りは安定している。その異常な腕力を見ていると、改めてこいつが普通の高校生ではないことを思い知らされる。


この体格と筋力をもっと別のことに使っていればどうなっただろう。どのスポーツを選んでもかなりの結果を残せたかもしれない。それなのに獅堂は、その力を暴力や殺人のために使っている。残念という言葉では到底足りなかった。残酷極まっている。


このあと獅堂は、俺の想像をはるかに超える行動へ出る。それはあまりにも常識はずれで狂気じみたものだった。

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