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前世の仲間ともう一度魔王を倒しに行く  作者: 雨森 澄
第1章

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第8話 崩れる均衡

 竜の動きが変わり始めていた。


 荒い。


 怒りに任せて暴れている。


 だが、それでも速かった。


 黒い翼が大きく振られるたび、熱風が通りを吹き抜ける。崩れた建物の火が煽られ、火の粉が渦みたいに舞い上がった。


 リナの額を汗が流れる。


 息も少しずつ重くなっていた。


 前へ出る。


 避ける。


 踏み込む。


 それを繰り返しているのに、体が少しずつ鈍くなっていく。


(重い……)


 前世の感覚なら、もっと深く入れていた。


 もっと速く動けていた。


 でも今の体は、そこまで届かない。


 竜の爪が振り下ろされる。


 速い。


 避けきれない。


 そう思った瞬間、横から火球が飛び込んだ。


 竜の顔のすぐ横で弾ける。


 視線がわずかに逸れた。


 その一瞬で、爪の軌道がずれる。


 リナは転がるように地面を抜けた。


 石畳に手をつく。


 熱い。


 掌が焼けそうになる。


 それでも、すぐ立ち上がる。


「……危な」


 息を切らしながら、小さく笑う。


 後ろで、セイルは笑えなかった。


 心臓がうるさい。


 手の震えも止まらない。


(今の……)


 本当に、あと少しだった。


 少しでも遅れていたら、間に合わなかった。


 竜が大きく吠える。


 耳の奥まで響く低い咆哮だった。


 熱気が押し寄せる。


 そのとき、セイルの目が止まった。


 竜の胸元。


 黒い鱗が剥がれ、赤黒い傷が覗いている。


 さっき、リナの剣が入った場所だった。


(あそこ……)


 言いかける。


 でも、その前にリナが動いていた。


 竜の懐へ踏み込む。


 爪が来る。


 尾が唸る。


 その全部を紙一重で避けながら、前へ出続ける。


 ほんの一瞬。


 竜の動きが大きく開いた。


 セイルの指先に熱が集まる。


 火球を放つ。


 竜の視界が揺れる。


 その隙に、リナが深く踏み込んだ。


 剣が、傷口へ吸い込まれる。


 鈍い感触。


 今までより、ずっと深い。


 竜が大きくのけぞった。


 咆哮が空を震わせる。


 吹き荒れた風で煙が流れ、焼けた街並みが一瞬だけ見えた。


 崩れた家。


 逃げ惑う人影。


 燃える瓦礫。


 その中で、リナだけが止まらない。


 竜を真っ直ぐ見上げたまま、もう一度剣を構えた。

    読んでいただきありがとうございます。

    少しずつ更新していきます。

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