第7話 ずれた連携
竜は明らかに怒っていた。
黒い翼が大きく広がる。
熱を含んだ風が吹き荒れ、通りに積もっていた灰が一気に舞い上がった。崩れた建物の火が煽られ、赤い火の粉が夜みたいに空へ散っていく。
咆哮。
鼓膜が震えた。
近くの窓ガラスが音を立てて割れる。
それでも、リナは止まらなかった。
竜が前脚を振り下ろす。
リナは横へ流れるように避け、その勢いのまま懐へ入る。
剣を振る。
だが、届かない。
また、ほんの少しだけ足りない。
「……っ」
リナが小さく舌打ちする。
距離感が噛み合わない。
頭では届くはずなのに、今の体だとわずかに届かない。
そのズレだけが、ずっと残る。
竜の尾が唸りを上げて迫る。
リナは地面を蹴った。
身体を低く倒し、そのまま滑るように抜ける。
熱風が背中をかすめた。
着地。
すぐ踏み込む。
止まらない。
セイルはその動きを目で追っていた。
(違う)
胸の奥に引っかかる。
ただ強いわけじゃない。
動きが速いだけでもない。
何かが噛み合っていない。
でも、戦えている。
むしろ、少しずつ竜を押し始めている。
理由が分からなかった。
それでも。
手だけは動く。
火球を作る。
狙うのは傷じゃない。
竜の視界。
呼吸。
爪が動く瞬間。
ほんの少しだけ邪魔をする位置へ、魔法を差し込む。
火球が弾ける。
竜の目線が揺れる。
そこへリナが入る。
剣が鱗を擦った。
硬い音。
火花。
浅い。
でも、確かに傷は増えている。
竜が低く唸った。
巨大な首が振られる。
その勢いだけで空気が押し潰され、セイルは思わず息を詰めた。
「危な――」
言い切る前に、リナが飛ぶ。
瓦礫を蹴って高く跳び、竜の頭上を抜ける。
着地。
振り向きざまに剣を払う。
今度は届いた。
鱗が砕ける。
赤黒い血が飛び散った。
竜が大きくのけぞる。
その瞬間。
セイルの胸が強く鳴った。
(今だ)
理屈じゃない。
考えるより先に魔法を放っていた。
火球が竜の目の前で炸裂する。
眩い火花。
竜が怯む。
そこへ、リナがさらに踏み込んだ。
剣が深く入る。
鈍い感触。
竜の咆哮が空を震わせた。
熱風が吹き荒れ、近くの壁が崩れ落ちる。
それでも。
二人とも止まらなかった。
ただ、前へ出続けていた。
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