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前世の仲間ともう一度魔王を倒しに行く  作者: 雨森 澄
第1章

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第6話 届かない距離

 セイルの手から、小さな火球が飛んだ。


 竜の顔の前で弾ける。


 ぱち、と乾いた音がしただけだった。


 威力は弱い。


 そんなことは、自分が一番よく分かっている。


 竜を倒せる魔法じゃない。


 傷ひとつ付けられない。


(でも――)


 竜の瞳が、ほんの一瞬だけ揺れた。


 その瞬間。


「――今!」


 叫ぶ。


 言い終わる前に、リナが動いた。


 迷いがない。


 地面を蹴り、熱風の中へ踏み込んでいく。


 竜の爪が振り下ろされる。


 リナは半歩だけ体を流した。


 黒い爪が肩先をかすめ、石畳を砕く。砕けた石が頬に当たったが、リナは止まらない。


 そのまま剣を振り抜く。


 金属を擦るような重い音が響いた。


 刃が、鱗に食い込む。


 浅い。


 深くはない。


 それでも今までと違った。


 確かに届いた。


 硬い感触が腕に返ってくる。竜の熱が剣越しに伝わり、掌が痺れた。


 竜が吠える。


 空気が震えた。


 風圧で煙が吹き飛び、崩れた屋根の破片が空へ舞い上がる。


 リナはすぐ距離を取った。


 息が熱い。


 腕も少し重い。


 でも、口元だけは少し笑っていた。


「……あ」


 思わず声が漏れる。


 届いた。


 今のは、自分の感覚だけじゃない。


 何かが噛み合った。


 後ろで、セイルが呆然としていた。


(当たった……)


 自分の魔法は弱い。


 村でも、まともな戦力として扱われたことはなかった。魔物を倒すには火力が足りない。補助にすら中途半端だ。


 なのに。


 今の一撃は、確かに繋がっていた。


 リナが振り返る。


「ねえ」


「……は、はい」


「もう一回」


 軽い口調だった。


 まるで、「今の良かったから、もう一回やって」くらいの言い方だった。


 セイルは目を瞬く。


「え?」


「さっきの」


 リナは剣を肩に乗せたまま言う。


「やりやすかった」


 セイルは言葉を失う。


 偶然だと思っていた。


 たまたま噛み合っただけだと。


 でも、リナは違う。


 ちゃんと感覚で掴んでいる。


「……はい」


 気づけば返事をしていた。


 その直後。


 竜が再び動く。


 低い唸り声。


 巨体が地面を踏みしめるたび、通り全体が揺れた。


 リナが前へ出る。


 さっきと同じタイミング。


 セイルの指先に熱が集まる。


 火球を作る。


 小さい。


 弱い。


 でも。


(そこだ)


 竜の視界を横切るように放つ。


 火球が弾けた。


 ほんの一瞬。


 竜の瞳がそちらへ向く。


 その隙へ、リナが滑り込んだ。


 剣が走る。


 今度は、さっきより深い。


 鱗の隙間に刃が入り、赤黒い血が散った。


 竜の首が大きくぶれる。


 咆哮。


 熱風。


 だが、今度はリナも吹き飛ばされなかった。


 踏み込んだまま耐える。


 その姿を見ながら、セイルの心臓が大きく鳴った。


(偶然じゃない)


 確信だけが残る。


 でも、まだ説明はできなかった。

    読んでいただきありがとうございます。

    少しずつ更新していきます。

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