表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
前世の仲間ともう一度魔王を倒しに行く  作者: 雨森 澄
第2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
34/35

第32話 同じだった

 翌日の朝だった。


 二人は森の道を歩いていた。昨夜の川沿いとは空気が違う。木々の間から差し込む朝の光が細く、地面に斑模様を落としていた。夜露を含んだ落ち葉が足元で湿った音を立て、踏むたびに土と葉の匂いが混じり合って立ち上る。鳥の声が遠くから聞こえていた。空はよく晴れていた。


「ねえ」


 リナが言う。


「はい」


「昨日の話なんだけど」


 セイルの足が少しだけ止まりそうになる。木々の間を風が抜けた。


「リナスって誰?」


 しばらく返事はなかった。頭上で枝が揺れ、葉の隙間から光が細く差し込む。


「……聞こえていたんですね」


 諦めたような声だった。


「聞こえてた」


 リナは前を向いたまま言う。


「誰?」


 また少し沈黙が落ちる。鳥の声が近くなった。どこかの枝で、小さな羽音がして、また遠ざかっていく。


「……前の旅の仲間です」


「大事な人?」


 セイルは迷わなかった。


「はい」


 静かな返事だった。


 リナは少しだけ笑った。


「そっか」


 朝の光が木々の間を縫って、二人の足元へ柔らかく落ちていた。そして何気ない声で続ける。


「じゃあさ」


 セイルが横を見る。


「ガルディアとセリア、それとヴァルドは?」


 その瞬間だった。セイルの足が止まる。落ち葉を踏む音が消えた。


「……どうして、その名前を」


 リナは不思議そうに見る。


「どうしてって」


 それから、少しだけ嬉しそうに笑った。


「仲間だったじゃん」


 風が吹く。木々が揺れる。朝の光が葉の隙間で細かく砕けて、二人の周りにちらちらと散った。


 セイルは何も言えなかった。ずっと確かめられなかった。ずっと聞けなかった。違ったらどうしようと思っていた。覚えていなかったらどうしようと思っていた。


 でも。そんなものは、最初から必要なかったらしい。


「……リナス」


 思わず口からこぼれる。


 リナは少し考えてから首を振った。


「今はリナ」


 その答えに、セイルは少しだけ笑った。


「……そうですね」


 リナも笑う。


「セイラン」


 今度はセイルが固まる番だった。


「やっぱり」


 リナは楽しそうに言う。


「同じだった」


 二人はしばらく顔を見合わせる。木々の間から差し込む光が、二人を柔らかく包んでいた。


 二百八十年前。魔王を倒すために旅をした仲間。長い時間を越えて、ようやく同じ場所に辿り着いた。


 風が吹く。落ち葉が舞い上がり、朝の光の中をゆっくりと回りながら降りてきた。


 そして二人は、また歩き出した。今度は、歩幅が最初から揃っていた。

    読んでいただきありがとうございます。

    少しずつ更新していきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ