番外編 もう一度、あなたと
第1話 いるはずがない
王城の廊下は静かだった。
窓から入る光が床へ長く落ちている。
兵に案内されながら、
セイルは落ち着かないまま歩いていた。
勇者。
そう呼ばれてから、
まだ半日も経っていない。
聖剣を抜いたことも。
王に会うことも。
自分がここにいることも。
どこか現実味がなかった。
逃げたいとさえ思っていた。
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その時だった。
「ねえ」
声がする。
知らないはずの声。
なのに。
一瞬だけ、
心臓が止まりそうになった。
「……え?」
「止まって」
命令みたいに言う。
理由もなく距離が近い。
まっすぐ覗き込んでくる目。
遠慮のない話し方。
その全部に、
心臓だけが先に反応していた。
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でも。
(いるはずがない)
そう思った。
(……リナスのはずがない)
死んで、
もう二百年以上経っている。
ここにいるはずがない。
ただ、
少し似ていると思っただけだ。
それだけだった。
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「私はリナ」
その名前だけは、
妙に耳に残った。
少し変わった人だと思った。
――その時は、
まだそう思おうとしていた。
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第2話 違うはずなのに
旅に出てから。
違うと思おうとするたび、
違わないところが増えていった。
踏み込み。
間。
人を信じて前へ出る癖。
考える前に動くところ。
どうでもよさそうな顔で、
本当は周りをよく見ているところ。
昔と、同じだった。
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違うところもある。
幼い。
未完成だ。
身体も、技も、
前ほどじゃない。
でも。
根っこのところが、
変わっていなかった。
それが、
少し苦しかった。
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同じ人がいる。
隣にいる。
なのに。
あの頃を覚えているのは、
自分だけだ。
同じ場所には、
もう立てない。
そのことが、
ずっとどこかに刺さっていた。
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第3話 言えなかった
本当は。
旅の途中で気づいたわけじゃなかった。
もっと前から、
もう分かっていた。
でも。
言えなかった。
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動き。
間。
癖。
全部が揃いすぎていた。
それでも、
心のどこかで思っていた。
違っていてくれてもいい、と。
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もし本当にあの人でも。
覚えていなかったら。
自分だけが覚えていて、
向こうには何も残っていなかったら。
それを確かめることが、
怖かった。
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だから、
黙っていた。
知っているのに、
知らないふりをしていた。
違っていてほしいわけじゃない。
ただ。
確かめた後のことが、
まだ想像できなかった。
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第4話 あのとき、分かっていた
――竜を倒したあとだった。
土煙が落ちる。
静かになる。
息が荒い。
魔力も、
ほとんど残っていない。
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その中で。
リナが剣を振って血を払った。
昔と同じ癖だった。
それから。
「終わった?」
軽く言う。
まるで、
大したことじゃなかったみたいに。
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その言い方で、
もう分かった。
そう言う人を、
僕は一人しか知らなかった。
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ああ。
やっぱりそうだったんだと思った。
あの時。
もう否定は終わっていた。
でも。
あの人が、
同じ記憶を持っているとは、
まだ思えなかった。
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第5話 もう一度、あなたと
だから。
また、
魔王を倒しに行こうと決めた。
流されたわけじゃない。
仕方なくでもない。
自分で決めた。
この人と行くと。
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もう一度。
隣に立つと。
前みたいに。
また並んで戦えることが、
ただ少し、嬉しかった。
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……たとえ。
それを覚えているのが、
自分だけだとしても。
それでもいいと思った。
今は、
隣にいられるから。
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だから、
この旅を続ける。
もう一度。
あなたと。
読んでいただきありがとうございます。
少しずつ更新していきます。




