第31話 確かめたいこと
その日の夜だった。
焚き火の火が静かに揺れている。川沿いの夜は冷えが早い。日が落ちるとともに気温が下がり、息を吐くたびに白く濁った。空には星が出ていたが、川から上がる湿気が薄い霞を作り、光が滲んで見えた。焚き火の熱だけが、じんわりと顔を温めている。
リナは毛布にくるまりながら、昼のことを思い出していた。
――リナス。
あの名前。聞き間違いではなかったと思う。川の音に混じって、でも確かに聞こえた。思わず漏れたみたいに、セイルは確かにそう言った。
リナは小さく息を吐く。
やっぱり、そういうことなのだろうか。
旅の仲間。
戦ったことがある。
昔の話をした時の様子。
戦いの時だけ妙に呼吸が合うこと。
思い返せば、気づくことはいくらでもあった。
セイルは多分、セイランだ。
そう考えると、色々なことに説明がつく。
でも、ひとつだけ分からないことがある。――セイルは知っているのだろうか。自分が誰なのか。
リナは焚き火の向こうを見る。セイルは火を見つめていた。炎が揺れるたびに、その顔に光と影が交互に落ちる。何を考えているのかは分からない。ただ、静かに火を見ていた。
もし知っているなら、なぜ言わないのだろう。もし知らないなら、どうして名前を呼んだのだろう。どちらにしても変だった。
「……明日、聞いてみよう」
小さく呟く。焚き火の火が、風もないのにゆらりと揺れた。
そう決めると、少しだけ気持ちが軽くなった。川の音が遠くで続いている。毛布の中は温かく、焚き火の爆ぜる音が子守唄みたいに小さく響いていた。
リナはゆっくりと目を閉じた。
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