第30話 こぼれた名前
川沿いの道を歩きながら、リナは何となく隣を見る。
セイルは相変わらずだった。
聞かれたことには答える。
でも、自分から話すことは少ない。
川の流れが岸の草を揺らし、水の匂いが風に混じって届いた。
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「その旅の仲間って、どんな人だったの?」
リナが聞く。
セイルは少し考えた。
「……皆さん、変わった方々でした」
「変わってたんだ」
「はい」
少し間。
「今考えると、どうして上手くいっていたのか分かりません」
「全員、性格はばらばらでしたから」
「でも、不思議と噛み合っていました」
その言い方に、どこか懐かしさが混じっていた。
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「楽しそう」
リナが言う。
セイルは少しだけ目を細めた。
「……そうですね」
短い返事だった。
でも、それだけで十分だった。
きっと嫌な思い出ではないのだろう。
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しばらく歩く。
川幅が少し広くなっていた。流れが緩やかになった分、水面が穏やかに光を映している。岸辺の石が水に磨かれて丸く白く、踏み込めばひんやりと冷たそうだった。遠くで水鳥が鳴き、その声が川面を渡って届いた。
「もう会えないの?」
何となく聞く。
セイルの足がわずかに止まりそうになる。
それでも歩きながら答えた。
「……はい」
静かな声だった。
「そうなんだ」
リナもそれ以上は聞かなかった。
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少し沈黙が続く。
川の音だけが穏やかに流れていた。鳥の声が遠くから聞こえ、風が水面を渡って草を揺らす。
その時だった。
「……リナス」
小さな声だった。
思わず漏れたみたいに。
リナが横を見る。
「えっ?」
セイルがはっとする。
「……いえ、なんでもありません」
少し間。
リナは首をかしげた。
川の音が続いている。風が吹いて、水面がさざ波を立てた。
今の名前。
聞き間違いだろうか。
そんなことを考えたが、セイルはもう前を向いて歩いている。
結局、リナは何も聞かなかった。
ただ、その名前だけが、川の音に混じってしばらく耳の奥に残っていた。
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