第29話 仲間の話
翌日の朝。
空はよく晴れていた。
川沿いの道を、二人は歩いている。昨夜より風が穏やかで、水面がほとんど揺れていない。川底の石がうっすら透けて見えるほど水が澄んでいて、朝の光を受けてきらきらと輝いていた。岸辺の草が露を含んで重そうに垂れ、踏むたびに湿った匂いが立ち上る。
⸻
「ねえ」
リナが前を向いたまま言う。
「……はい」
「前に旅したって言ってたよね」
少し間。
「はい」
「どのくらい?」
セイルは少し考えた。
「……それなりにです」
「適当だね」
リナが言う。
セイルは困ったように視線を逸らした。
⸻
「でも、結構長かったんでしょ?」
「……そうですね」
「一人?」
「いえ」
そこで言葉が止まる。
リナが横を見る。
「違うの?」
「……何人かいました」
短い返事だった。
⸻
川の音が続く。
水鳥が一羽、岸辺へ降り立った。しばらく水面を眺めてから、また静かに飛び立っていく。その羽ばたきが水を叩く音がして、波紋が広がった。
リナは少しだけ考える。
前に旅をしていた。
戦ったこともある。
一人ではなかった。
それなのに、今のセイルはその話をほとんどしない。
⸻
「仲良かったの?」
何となく聞く。
セイルは少しだけ驚いたように目を瞬く。
それから、小さく頷いた。
「……はい」
迷いのない返事だった。
⸻
リナは少しだけ意外に思う。
もっと曖昧な答えが返ってくると思っていた。
「へえ」
セイルは少しだけ視線を落とした。
「良くしてもらいました」
その言い方は、どこか懐かしそうだった。
少しだけ。
嬉しそうにも見えた。
川面に映った空が、風もないのにゆらりと揺れた。水の流れがそこだけ少し速いのかもしれない。
リナはその水面をぼんやり眺めながら、もう少しだけ聞いてみようと思った。
読んでいただきありがとうございます。
少しずつ更新していきます。




