第28話 重なる影
川は静かだった。
夕方の光が、水面を金色に染めている。流れは緩やかで、岸辺の石を薄く濡らしながらゆっくりと下っていった。時折吹く風が水面を撫でると、金色の光がさざ波のように揺れて散った。対岸の木々が西日を受けて赤みがかり、その影が川面に長く伸びている。
リナは川辺へしゃがみ込み、指先を水へ入れた。
「冷た」
思わず声が漏れる。
ひんやりとした感触が腕まで伝わった。
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少し離れた場所では、セイルが座っていた。
手のひらを見つめている。
指先に小さな火が灯る。
すぐに消える。
また灯して、また消した。
川の流れる音だけが、静かに続いていた。
何かを確かめるみたいだった。
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リナはぼんやり思う。
最近、戦いのあとによく見る光景だった。
魔力の調子でも見ているのか。
それとも別の何かか。
分からない。
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ふとした瞬間。
セイルの仕草が誰かに重なることがあった。
くだらない偶然だと思う。
思うのに。
最近、その偶然が少し多い。
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戦いの時だけだ。
魔法を撃つタイミング。
周囲を見る目。
何を優先するかの判断。
そういうところが、時々、昔の仲間を思い出させる。
でも。
彼は、こんなに自信のない人じゃなかった。
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「ねえ」
リナが声を掛ける。
小さな火が消えた。セイルが顔を上げる。
「……はい」
「昨日さ」
少し間。
「昔ならもっとできたって言ってたよね」
セイルの肩がわずかに止まった。
川面が風に揺れ、金色の光が細かく砕けた。
「……言いましたね」
「あれ」
リナは川を見ながら続ける。
「前に旅したことあるって言ってたのと関係ある?」
セイルは少しだけ視線を落とした。
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「……あります」
短い返事だった。
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リナは少しだけ目を細める。
「そっか」
それ以上は聞かなかった。
西日がさらに傾き、川面の金色が少しずつ橙色へ変わっていく。対岸の木々の影が伸びて、水面の半分を暗く塗り替えていった。
リナは流れる川を眺めながら考える。
――昔ならもっとできた。
それは、どういう意味なのだろう。
川の音だけが、静かに続いていた。
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