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前世の仲間ともう一度魔王を倒しに行く  作者: 雨森 澄
第1章

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第3話 廊下ですれ違う

 昼を少し回った頃、王城の空気がまた慌ただしくなった。


「リナ様、王がお呼びです」


 部屋の前まで来た兵士が、硬い声でそう告げる。


「今?」


「今です」


 妙に即答だった。


 リナは椅子から立ち上がる。


 王が呼ぶ理由は、だいたい予想がついていた。


「勇者のこと?」


 歩きながら訊ねる。


 兵士は少しだけ視線を逸らした。


「……王の間でご説明があります」

「いるんだ」

「…………」

「いるんだね」


 兵士は答えなかった。


 でも、その沈黙だけで十分だった。


 リナは少しだけ口元を上げる。


(どんなやつかな)



 王の間へ向かう廊下は長い。


 高い窓から午後の光が差し込み、磨かれた石床の上に白い帯を作っていた。赤い絨毯はその光を受けて淡く色を変え、古くなった端だけ少し擦れている。


 静かな廊下だった。


 響くのは足音だけ。


 兵士の革靴の音と、リナの軽い足音が、交互に石壁へ反射している。


 その向こうから、人の気配が近づいてきた。


 別の兵士に連れられた少年が一人、こちらへ歩いてくる。


 背は高すぎず低すぎず。


 立派な服を着せられているが、明らかに着慣れていない。袖口が少しずれていて、本人は気づいていないらしかった。


 肩がわずかに縮こまり、視線は床と壁の間を落ち着きなく行き来している。


 目立たない。


 第一印象は、それだった。


 リナは足を止めた。


「ねえ」


 呼ばれた少年――セイルがびくりと肩を揺らす。


 一瞬、本気で自分に声をかけられたと分かっていない顔をした。


「……え?」


「ちょっと止まって」


 兵士たちが困った顔をする。


 だが、リナは気にしない。


 そのまま近づいていき、真正面からセイルの顔を覗き込んだ。


「ちょ、近……」

「ちょっと顔見せて」

「顔、ですか?」

「うん」


 セイルは困ったように視線を泳がせる。


 逃げたい。


 でも逃げられない。


 そんな顔だった。


 リナはじっとその顔を見る。


 整ってはいる。


 弱々しいというほどでもない。


 でも。


(勇者……?)


 どうしてもしっくりこない。


 目の前にいるのは、伝説に選ばれた英雄というより、突然知らない場所へ連れてこられて困っている普通の少年だった。


「……ふーん」


 しばらく見たあと、リナは小さく呟く。


「な、なんですか」

「別に」


 少し考えてから、首をかしげた。


「……これが勇者?」


 セイルは固まった。


「……違います」


 ほとんど反射みたいに否定する。


「僕じゃないです」


「だよね」


「だよね、って……」


 後ろから侍女の声が飛んだ。


「リナ様!」

「なに?」

「その方にご迷惑をおかけしないでください」

「かけてないよ」

「かけています!」


 セイルは慌てて首を振る。


「い、いえ、大丈夫です」

「ほら」

「ほら、ではありません!」


 侍女が頭を抱えている。


 リナは気にせず、もう一度セイルへ向き直った。


「名前は?」

「セイル、です」

「ふーん」


 その名前を一度だけ頭の中で転がす。


 それから、少しだけ視線を細めた。


 自信なさそうなところ。


 困るとすぐ視線が泳ぐところ。


 なんとなく、昔の知り合いに似ている気がした。


 もちろん、そんなはずはないのだけれど。


「私はリナ」

「……はい」

「よろしく、セイル」

「は、はい」


 兵士が小さく咳払いをする。


「リナ様、セイル様。王がお待ちです」

「じゃあ一緒だ」

「……え?」

「王の間」

「あ、はい……」


 結局そのまま、二人は並んで歩くことになった。



 少しだけ沈黙が落ちる。


 足音が二つになった。


 さっきまで静かだった廊下が、少しだけ違って聞こえる。


 先に口を開いたのはリナだった。


「ねえ」

「は、はい」

「剣、抜いたの?」

「……抜けてしまった、というか」

「ふーん」

「本当に、僕じゃないと思うんですけど」

「それは同意」

「同意なんだ……」


 セイルが小さく肩を落とす。


 リナはその横顔を見ながら、やっぱり変だと思っていた。


 こんな頼りない少年が勇者だと言われても、どうにも納得できない。


 認めたくない。


 譲りたくもない。


 重い扉の前で、兵士たちが立ち止まる。


「リナ様、セイル様をお連れしました」


 低い声とともに、王の間の扉がゆっくり開いた。

    読んでいただきありがとうございます。

    少しずつ更新していきます。

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