表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
前世の仲間ともう一度魔王を倒しに行く  作者: 雨森 澄
第1章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
2/35

第2話 王女と剣

王城の中庭は広かった。


 噴水があり、花壇があり、季節ごとに手入れされた木々が並んでいる。朝露を残した芝生は陽の光を受けて柔らかく光り、遠くでは庭師たちが低い声で話していた。


 王女が散歩するには十分すぎる場所だ。


 ただし。


 剣の素振りをする場所としては、あまり向いていない。


「――っ、は!」


 風を切る音が響く。


 リナは石畳を蹴り、深く踏み込んだ。握っているのは訓練用の剣だ。刃は潰してあるが、重さは本物に近い。


 横薙ぎ。


 返して、斜め。


 さらに一歩。


 動きは速い。


 だが、前世の感覚と比べると、どうしても鈍かった。


(違う)


 剣を止める。


 息を吐く。


 肩越しに見える木々が、風に揺れていた。


(もっと動けたはずなんだけどな)


 感覚は覚えている。


 踏み込みの距離も、剣の軌道も、敵との間合いも。


 なのに、今の体はそこに届かない。


 少し踏み込みが浅い。

 体重移動も遅い。


 頭では分かるのに、体が追いつかなかった。


「もう少しだった気がするんだけどな……」


「リナ様!!」


 鋭い声が飛ぶ。


 リナが振り返ると、侍女がこちらへ歩いてきていた。


 かなり怒っている。


 遠目でも分かる。


「またそんなものを振り回して!」

「振り回してないよ。練習」

「同じです!」


 侍女は早足で近づいてくる。


 リナはなんとなく嫌な予感がして、一歩下がった。


「危ないでしょう!」

「危なくないって」

「危ないです!」

「誰もいないし」

「私がいます!」


 言われて、リナは少しだけ考える。


 たしかにいた。


 その一瞬の隙を逃さず、侍女が剣を掴んだ。


「あっ」

「没収です」

「えー……」


 侍女は深くため息をついた。


「本日は祈りの時間でしょう」

「覚えてるよ」

「本当に?」

「たぶん」


 さらに深いため息。


 リナは肩をすくめた。


 今世の自分には、生まれつき祈り手としての素質があるらしい。


 回復。補助。祈り。


 王女として、そしていつか勇者を支える存在として、その力を学ぶべきだと周囲は言う。


 でも、リナにはいまいち実感がなかった。


 助けるのは嫌いじゃない。


 むしろ好きだ。


 ただ。


 後ろに立って祈るだけ、というのがどうにも性に合わなかった。


「ねえ」


 リナがふと思い出したように口を開く。


「なんでしょう」

「勇者って、誰?」


 侍女の動きがぴたりと止まった。


「……何の話ですか」

「さっき廊下で聞いた。勇者の剣が抜かれたんでしょ?」

「そのようですね」

「ふーん」


 リナは納得していない顔だった。


「どこの誰が勇者なの?」


 侍女は少しだけ困ったように視線を逸らす。


「王がお会いになるそうです」

「へえ」

「リナ様は余計なことをなさらないでくださいね」

「余計なことって?」

「たとえば、勝手に会いに行くとか」

「そんなことしないよ」

「本当ですか?」

「たぶん」


 侍女は額を押さえた。


 リナはその横で、少しだけ唇を尖らせる。


 自分は勇者だと思っている。


 でも、勇者の剣は抜けなかった。


 その事実を、リナはまだうまく飲み込めていない。


 だからこそ。


 剣を抜いたという相手を、簡単には認めたくなかった。


(こんなにあっさり決まるのおかしくない?)


 勇者なんて、本来もっとこう。


 見た瞬間に「そうだ」と思えるようなもののはずだ。


 少なくとも、リナの中ではそうだった。

    読んでいただきありがとうございます。

    少しずつ更新していきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ