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前世の仲間ともう一度魔王を倒しに行く  作者: 雨森 澄
第2章

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第25話 知らないはずなのに

「また気づいた」


 リナが前を見たまま言う。


「……はい?」


「魔物」


 二人は森の中を歩いていた。


 昨日の川沿いとは違う、深い森だった。幹の太い木々が密に並び、枝が頭上で絡み合って空をほとんど塞いでいる。地面には苔が厚く積もり、踏むたびにぐずりと沈む感触があった。湿った土と腐葉土の匂いが濃く、息を吸うたびに肺の奥まで染み込んでくるようだった。


「まだ見えてないのに分かるよね」


 セイルは少しだけ黙った。


「……なんとなくです」


「またそれ」


 リナが少し笑う。


「便利だね」


 軽い言い方だった。


 でも、その目は少しだけ真剣だった。



 その直後だった。


 茂みが揺れる。


「来ます」


 低い影が飛び出した。二体。速い。


 一体目が正面から飛びかかる。リナが前へ出た。剣が走る。だが、少し浅い。獣が無理やり前へ出る。


 セイルが火球を作る。


 リナの動きが見えている。どこへ行くか分かる。


 でも、手が少し遅れた。


 火球が弾ける。一瞬だけ遅い。


 獣の動きはぶれた。でも、リナはもう踏み込んでいた。


 剣が届く。一体目が崩れる。


 だが、体勢が少し乱れていた。


 もう一体が低く回り込む。速い。


 リナが前へ出る。セイルも魔法を作る。


 今度こそ合わせる。


 でも、また少し早かった。


 火球が地面で弾ける。獣が反射的に飛び退く。


「っ」


 リナの剣が空を切った。


 間がズレる。獣が横へ逃げる。


 セイルが慌ててもう一度魔法を撃った。火が獣の進路を焼く。逃げ場が狭まる。そこへ、リナが踏み込んだ。剣が届く。短い悲鳴。


 静けさが戻った。


 苔の上に、赤黒い血が滲んでいく。


 リナは剣を振って血を払う。


 少しだけ首を傾げた。


「今、ちょっと遅かった」


 責めているわけではない。ただの確認だった。


 セイルには、それが余計に刺さった。


「……すみません」


「また謝る」


 リナが少し笑う。でも、セイルは笑えなかった。


 遅かった。早すぎた。どちらも違った。


 感覚は分かっている。リナの動きも見えている。なのに、今日は何度もズレた。


 昔は、こんなことがなかった。


 そう思いかけて、また止めた。


「ねえ」


「……はい」


「セイルって、本当に戦ったことないの?」


 木々の間を、湿った風が抜けていく。


 セイルは少しだけ目を逸らした。


「……村の近くに出た魔物を、みんなで追い払ったことはあります」


「みんなで?」


「狩人とか、村の人たちと」


 小さい声だった。


 リナは少しだけセイルを見る。


「……それだけじゃないよね」


 頭上で枝が揺れ、葉の隙間から光が一筋だけ差し込んだ。


 セイルは答えなかった。

    読んでいただきありがとうございます。

    少しずつ更新していきます。

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