第24話 前にもあった感じ
翌朝。
空は薄く曇っていた。
川沿いの風は昨日より冷たく、岸辺の草が水面へ向かって横に流れるように揺れている。川の水は灰色の空を映して暗く、流れだけが白く泡立っていた。草の先に朝露が残っていて、歩くたびに小さく光る。
焚き火は消えている。
灰の中に、かすかな熱だけが残っていた。
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「肩、大丈夫ですか」
荷物をまとめながら、セイルが訊く。
リナは少し肩を回した。
「ちょっと痛い」
「……すみません」
「だから、なんで謝るの」
リナが少し笑う。
セイルは少しだけ困った顔をした。
「避け切れなかったので」
「別に大怪我じゃないし」
少し間。
「薬草、効いたよ」
セイルは小さく目を瞬かせた。
「……なら、よかったです」
川沿いの風が吹く。薬草の青い匂いが、まだ少しだけ残っていた。
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昼頃。
道は少し狭くなっていた。川から離れ、低い木々が増えている。枝が頭上で絡み合い、空が細く切り取られていた。地面には落ち葉が積もり、踏むたびに乾いた音が立つ。
鳥の声は遠い。
その代わり、葉の揺れる音だけが妙にはっきり聞こえていた。
セイルの視線が動く。
「……来ます」
次の瞬間、茂みが揺れた。
低い影が飛び出す。
二体。
速い。
一体目が正面から飛びかかる。
リナが前へ出た。
剣が走る。
だが、浅い。
魔物が無理やり体を捻る。
「左!」
セイルの声。
火球が横で弾ける。
獣の動きがぶれる。
そこへ、リナがもう一歩踏み込んだ。
今度は深い。
一体目が崩れる。
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もう一体が横へ回り込む。
速い。
セイルが魔法を作る。
まだ撃っていない。
でも、リナは先に踏み込んでいた。
本来なら危ない距離だった。
次の瞬間。
火球が横から飛び込む。
獣が怯む。
そこへ剣が届いた。
短い悲鳴。
静けさが戻る。
落ち葉がはらはらと舞い、二人の足元へ降りてきた。
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リナは剣を下ろす。
「……今の」
セイルが顔を上げる。
「……はい」
「なんか、前にもあった感じする」
枝の隙間から差し込む光が、細く地面へ伸びている。
セイルは答えなかった。
でも、否定もしない。
リナは少しだけ首をかしげる。
「変なの」
小さい声だった。
それ以上は聞かない。
ただ、戦っている時だけ、妙に自然に呼吸が合う。
その感覚だけが、不思議と残っていた。
⸻
夜。
焚き火の火が小さく揺れている。
川の近くは冷えやすいのか、昼よりずっと空気が冷たかった。息を吐くと白く濁り、すぐに夜の闇へ溶けていく。空には星が出ていたが、川沿いの湿気を含んだ空気がうっすらと霞を作り、光が滲んで見えた。
二人は火を挟んで座っていた。
風が吹くたび、火が細く揺れる。
「ねえ」
リナが火を見たまま言う。
「……はい」
「セイルって、いつも気づくの早いよね」
「魔物に」
セイルは少しだけ視線を落とした。
「……なんとなくです」
「またそれ」
リナが少し笑う。
「でも、今日もまだ見えてない時に言ったよね」
薪がぱちりと爆ぜ、小さな火の粉が夜空へ散った。
「……音、とか」
「聞こえなかったけど?」
「気配、かもしれません」
「便利だね」
軽い言い方だった。
でも、その目は少しだけ真剣だった。
少し沈黙が落ちる。
川の音が遠くで続いていた。
「そういえば」
リナがまた口を開く。
「私たち、どこ向かってるの?」
セイルは少し黙った。
焚き火を見る。
揺れる火を見つめてから、小さく口を開く。
「……北です」
「北?」
「他に手掛かりもありませんし……」
「昔……聞いたことがあるんです」
「魔王城は、北の方にあったって」
リナは少しだけ目を細めた。
「おとぎ話みたいなやつ?」
「……たぶん」
川の音が続く。火が揺れる。
「じゃあ、そこ行くの?」
「今は、そのつもりです」
小さい声だった。
炎が細くなり、周囲の闇が少しだけ濃くなった。
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