第22話 帰り道
森を出た瞬間、空気が少し軽くなった。
陽の光が眩しい。木々の切れ目から差し込む午後の光が、草の上に柔らかく広がっていた。さっきまでの薄暗さと腐った臭いが嘘みたいだった。風が吹いて、湿った土の匂いを運び去っていく。
リナは大きく息を吐く。
「疲れた」
「お疲れ様です」
セイルも小さく息を吐いた。
まだ少し緊張が残っている。
手の震えも完全には止まっていなかった。
街道へ続く草を踏み分けながら、二人は町への道を歩き始めた。
⸻
しばらく歩いたあと、リナがふと口を開く。
「ねえ」
「はい」
「さっき、動きやすかった」
セイルは少しだけ足を止めそうになる。
「……そうですか?」
「うん」
リナは前を向いたまま続けた。
「なんか、次どこ来るか分かりやすかった」
セイルは少し黙る。
「……なんとなく言ってるだけなので」
「でも当たるよね」
「たまたまです」
即答だった。
リナは少し笑う。
「ほんとかな」
街道脇の草が風に揺れ、その向こうで鳥が一声鳴いた。
⸻
町へ戻る頃には、もう昼を過ぎていた。
広場には朝より人が増えている。荷車の軋む音と子どもの声が混ざり合い、パン屋の前には小さな列ができていた。森の静けさが、急に遠く感じた。
二人は依頼書を持って掲示板の近くへ向かう。
そこには、朝と同じ男が立っていた。
年配の男だった。
「……終わったのか?」
セイルが小さく頷く。
「はい。森の奥にいた魔物を倒しました」
男は少し目を丸くする。
「二人で?」
「はい」
リナは特に気にした様子もなく立っていた。
男は少し黙ってから、小さく息を吐く。
「最近、あの辺の魔物が妙に増えててな……」
そう言いながら、報酬の入った小袋を差し出した。
銀貨の音が小さく鳴る。
セイルはそれを受け取る。
ずっしり重いわけではない。
でも、自分たちで稼いだ金だった。
「……ありがとうございます」
男は二人を見る。
「しばらく森には近づかねぇ方がいい」
「え?」
リナが首をかしげる。
「あの奥、最近おかしいんだよ」
男は声を少し潜めた。
「前はあんなの出なかった」
広場を風が吹き抜ける。荷車の幌がばたりと揺れ、子どもが笑い声を上げた。
セイルは小袋を握ったまま、少しだけ森の方を振り返った。
遠くに木々が見える。
午後の光を受けているのに、その緑だけが少し暗く沈んで見えた。
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