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前世の仲間ともう一度魔王を倒しに行く  作者: 雨森 澄
第1章

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番外編 勇者になる前

 村は静かだった。


 朝は遅く、夜も早い。


 畑と、小さな家と、少しの森。

 それだけで村は出来ている。


 朝になれば煙突から煙が上がり、夕方になれば家々の窓に明かりが灯る。


 変わらない景色だった。


 セイルは、その中で育った。



 水を汲む。


 薪を割る。


 畑を手伝う。


 たまに本を読む。


 それで一日が終わる。


 困ることはなかった。


 特別、望むこともなかった。


 静かな場所だった。


 自分には、そのくらいがちょうどいいと思っていた。



 村の外れには、小さな丘がある。


 風が強くて、木が一本だけ立っている場所だ。


 セイルはよくそこへ行った。


 特に理由はない。


 ただ、人が少ないから落ち着く。


 草の上に寝転ぶと、空だけが見えた。


 何も考えなくて済む。


 それが好きだった。



 十六になった日、呼ばれた。


 この国では決まっている。


 “剣の儀”。


 十六になった者は、一度だけ勇者の剣へ触れる。


 形式みたいなものだった。


 もう何百年も、勇者なんて現れていない。


 村の誰も、本気では思っていない。


「行ってこい」


 父が言う。


「まあ、観光みたいなもんだ」


 笑いながら。


 母も「せっかくだから城を見てきなさい」と言っていた。


 皆、軽い。


 セイルも、そのくらいの話だと思っていた。



 王都は、人が多かった。


 歩いているだけで疲れる。


 石畳。

 高い建物。

 聞き慣れない声。


 村とは全部違う。


 城へ近づくほど、人の数も増えていった。


 広場では旅芸人が芸をしていて、屋台からは焼いた肉の匂いが漂っている。


 賑やかだった。


 でも、セイルには少し息苦しかった。



 王城は、もっと落ち着かなかった。


 高い天井。


 磨かれた床。


 大勢の人間。


 静かなのに、ずっと誰かに見られている感じがする。


(帰りたい)


 本気でそう思った。



 剣は、広間の中央にあった。


 台座に刺さっている。


 それだけなのに、妙に目を引いた。


 光の当たり方が少しおかしい。


 周囲だけ空気が違うみたいに見える。


 近づくほど、その違和感は強くなった。



 順番に、人が前へ出る。


 剣に触れる。


 抜けない。


 戻る。


 それを繰り返していた。


 悔しそうな顔をする者もいる。


 ほっとしたように笑う者もいた。


 勇者に選ばれることは、名誉だ。


 誰もがそう思っている。


 だからこそ、セイルには理解できなかった。


 なぜ皆そんなに、勇者になりたいのか。



(やめようかな)


 少しだけ思った。


 でも、順番が来る。


 名前を呼ばれる。


 周囲の視線が集まる。


 逃げられない。



 手を伸ばす。


 触れる。



 抜けた。



「――え?」


 声が漏れた。


 軽かった。


 何の抵抗もなかった。


 まるで最初から、そこに何も刺さっていなかったみたいに。



 一瞬、広間が静まり返る。


 誰も動かない。


 誰も喋らない。



 次の瞬間。


 ざわめきが広がった。



「勇者だ」


 誰かが言う。



 違う。


 セイルはすぐにそう思った。



(違う)



 剣を見る。


 自分の手を見る。


 そんなはずがないと思った。



 知っている。


 勇者が何をする存在なのか。


 魔王討伐が、どんな旅だったのか。


 危険で。


 苦しくて。


 何度も死にかけて。


 それでも前へ進むしかない旅だった。



 自分には出来ない。


 すぐに分かった。


 前に立てる人間じゃない。


 誰かを引っ張れる人間でもない。


 自分は、もっと後ろの方で、


 考えて、


 合わせて、


 支える側の人間だ。



(無理だ)



 その考えだけは、はっきりしていた。



「おめでとうございます!」


 知らない誰かが言う。


 周りが騒がしい。


 でも、何も頭に入ってこない。



(やめてほしい)



 それだけを思っていた。

    読んでいただきありがとうございます。

    少しずつ更新していきます。

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