第14話 旅立ち
出発は、三日後に決まった。
その三日間、城の中は慌ただしかった。
兵士たちは竜によって壊された城壁や建物の確認に追われ、侍女たちは城下への支援物資をまとめている。王城の廊下を歩くだけで、人と何度もすれ違った。
けれど、そのたびに空気が少し変わる。
皆、二人を見る。
勇者と、その同行者を見る目だった。
セイルはまだ慣れなかった。
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出発の朝は、よく晴れていた。
春の風が城門を抜け、旗をゆっくり揺らしている。石畳はまだ朝露を含んでいて、踏むたびに冷たさが靴底から伝わってきた。空は高く、薄い雲が西の方へゆっくり流れていく。遠くの城下からは、復旧作業の槌音がかすかに届いていた。
城門の前には、すでに数人の兵士と使用人たちが集まっていた。
旅支度の確認だろう。
荷物もいくつか並べられている。
「これだけ?」
リナが言った。
石畳の上に置かれた荷物を見下ろしている。
干し肉、水袋、毛布、簡単な薬草。
最低限だった。
「旅なんて、もっとこう……いっぱい持ってくものじゃないの?」
「多すぎると動けません」
セイルが答える。
自分の荷物を確認しながらだった。
「ふーん」
リナは自分の方を見る。
剣しかない。
「リナ様、本当にそれだけで……」
後ろにいた侍女が不安そうに口を開く。
「大丈夫だって」
「ですが」
「必要なら途中で買うし」
軽い。
旅というより散歩へ行くみたいな顔をしている。
侍女は今にも倒れそうだった。
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セイルはその様子を少し離れた場所から見ていた。
不思議だった。
これから魔王討伐へ向かうというのに、リナにはほとんど迷いが見えない。
怖くないのだろうか、と少し思う。
自分はずっと怖いのに。
城を出ることも。
期待されることも。
勇者として見られることも。
全部。
「ねえ」
リナが振り返る。
「はい」
「そんな顔してるともっと不安になるよ」
「……どんな顔ですか」
「なんか、今にも帰りそう」
セイルは少し黙った。
否定できない。
怖いのは、本当だった。
でも。
もう戻れない気もしていた。
⸻
城門の前に立つ。
外へ続く街道が、朝の光の中へ伸びていた。白く乾いた道が、遠くの木立の手前でゆるやかに曲がり、その先は見えない。
城下では、行き交う人々が足を止めてこちらを見ている。
噂はもう広がっているのだろう。
勇者が旅立つ、と。
期待。
不安。
祈るような目。
色々な感情が混ざっている。
セイルはその視線から逃げるように少し俯いた。
その横で、リナは普通に手を振っていた。
「頑張ってください……!」
、静かな朝にはよく響いた。
セイルの足が止まりそうになる。
返せない。
何を返していいか分からない。
「行くよ」
リナが言う。
もう歩き出していた。
迷いなく、城門の外へ。
セイルは一瞬だけ王城を振り返る。
高い塔が朝の光を受けて白く輝いていた。石壁の隙間に残った竜の爪痕が、まだ生々しく残っている。見慣れない場所だったはずなのに、もう少しだけここにいた気もした。
小さく息を吐く。
納得したわけじゃない。
勇者としての覚悟も、まだない。
でも。
足は動いた。
リナの後ろを追う。
少しだけ距離がある。
けれど、離れてはいない。
春の風が二人の間を抜けていった。
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