第12話 王の決定
王の間は、先ほどよりも人が増えていた。
家臣たちだけではない。鎧を着た兵士も何人か控えている。城下の被害を知らせに来た者たちだろう。誰もが疲れた顔をしていたが、リナとセイルが入ってくると、その視線だけは一斉に上がった。
また見られている。
セイルは、王の間に入った瞬間そう感じた。
さっきから、ずっと見られている。
竜を倒した者として。
勇者として。
そうではないのに。
王は玉座に座ったまま、二人を見下ろしていた。表情は険しい。けれど、その目には先ほどとは違うものがあった。
⸻
「竜は討たれた」
王の声が落ちる。
低く、重い。
「被害は出たが、城下は守られた」
家臣たちの空気がわずかに緩む。
安堵と、興奮と。
色々な感情が混ざっていた。
「その功績は大きい」
セイルは視線を下げる。
違う。
そう言いたい。
でも、どこから否定すればいいのか分からなかった。
「勇者セイル」
「……違います」
反射みたいに言葉が出る。
王の声に被さる。
王の間が静まり返った。
セイルは少し遅れて、自分が王の言葉を遮ったことに気づく。
「……すみません」
「よい」
王は静かに言った。
怒ってはいない。
それが逆に逃げ場をなくしていた。
「そなたが何を思おうと、剣はそなたを選んだ」
「……」
「そして、竜を討った」
また、その言葉。
セイルの指先がわずかに強張る。
「僕は……」
否定しようとして、止まる。
自分一人では何もできなかった。
でも。
完全に何もしていない、とも言い切れなかった。
あの戦いの感覚が、まだ手の中に残っている。
火球を撃った瞬間。
リナがそこへ踏み込んだ瞬間。
偶然みたいに噛み合った、あの感覚。
王は続ける。
「勇者セイル、並びに王女リナ」
その名が並ぶ。
リナは黙って聞いていた。
「そなたらに命ずる」
空気が張る。
「魔王を討て」
静かな声だった。
けれど、その場にいる誰よりも重かった。
⸻
少しだけ沈黙が落ちる。
セイルは何も言えない。
断ったはずだった。
自分には無理だと、
何度も言った。
なのに、
話は止まらない。
まるで、
聖剣を抜いた瞬間から、
全部決まっていたみたいだった。
「……僕は、勇者なんかじゃありません」
ようやく絞り出す。
王は静かにセイルを見る。
「そう思う理由を聞こう」
「……竜を倒したのも、僕一人じゃないです」
逃げ道がない。
セイルは言葉を失った。
隣で、リナが口を開く。
「行くよ」
軽い。
散歩にでも行くみたいな言い方だった。
「リナ様」
「その“様”いらない」
リナは前を向いたまま言う。
セイルは困った顔をした。
「……いや、それは無理です」
「なんで?」
「なんででもです」
「めんどくさいね」
家臣の一人が小さく咳払いをした。
たぶん笑いそうになったのを誤魔化したのだと思う。
王は小さく息を吐く。
それから、静かに告げた。
「準備が整い次第、出立せよ」
それは確認ではなく、決定だった。
セイルはゆっくり視線を落とす。
断れない。
そのことだけが、嫌になるほど分かった。
隣で、リナだけが少し楽しそうだった。
「旅かぁ」
小さく呟く。
王の間の重さとは、まるで別の場所にいるみたいだった。
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