表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
前世の仲間ともう一度魔王を倒しに行く  作者: 雨森 澄
第1章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
11/35

第11話 呼び戻される場所

王城に戻る頃には、城下の煙はまだ空に残っていた。


 焦げた匂いが服に染みついている。髪にも、手にも、鼻の奥にも残っていて、息をするたびにさっきの熱が戻ってくるようだった。


 城門の前には兵士たちが集まっていた。


 リナとセイルが近づくと、その視線が一斉にこちらへ向く。


 怪我をしていないかを見る目。


 竜を倒した者を見る目。


 そして、その中でも特にセイルへ向けられる目。


 セイルは思わず足を止めそうになった。


「……あの」


 小さく声を出す。


「見られてますよね」


「見てるね」


 リナは気にした様子もなく歩いている。


 むしろ、いつも通りすぎて少しおかしいくらいだった。


「なんでこんなに」


「竜倒したからでしょ」


「いや、でも……」


 セイルは言葉に詰まる。


 倒した。


 確かに竜は倒れた。


 でも、自分が倒したわけではない。


 そう言いたいのに、さっきからその言葉はどこにも届いていなかった。


 城の中へ入ると、さらに空気が変わった。


 廊下を行き交う兵士たちが足を止める。侍女たちは手に持っていた布や水差しを抱えたまま、こちらを見た。誰かが小さく息を呑む音まで聞こえた。


 そのたびに、セイルの肩がこわばる。


 リナは横目でそれを見る。


「セイルが倒したことになってるんじゃない?」


「違います」


 即答だった。


「でも剣抜いたのセイルでしょ」


「それは……そうですけど」


「じゃあそういうこと」


「違いますって」


 声が少しだけ強くなる。


 自分でも驚いた。


 リナも少しだけ目を瞬く。


 セイルはすぐに視線を落とした。


「……すみません」


「謝るところ?」


「分かりません」


 本当に分からなかった。


 怒りたいわけではない。


 リナに言っても仕方がないことも分かっている。


 けれど、周囲の視線が重かった。


 勇者。


 そう呼ばれた瞬間から、自分ではない何かを押しつけられている気がする。


 竜を倒したあと、その重さはさらに増していた。


「いいんじゃない?」


 リナが軽く言う。


「よくないです」


「そう?」


「そうです」


 リナは少し考えるように前を向いた。


「面白いね、それ」


「面白くないです」


「でも、そんなに嫌なんだ」


 セイルは返事ができなかった。


 嫌だ。


 それは確かだった。


 でも、ただ嫌なだけではない。


 怖い。


 期待されることも。


 自分ができないことを、できると思われることも。


 そして、さっき一瞬だけ本当に戦えてしまったことも。


 全部がうまく整理できなかった。


 王の間へ続く廊下は、さっき通ったときと同じ場所のはずだった。


 高い窓。


 磨かれた床。


 赤い絨毯。


 けれど、今は足音の響きまで違って聞こえる。


 リナが前を歩く。


 セイルはその隣にいる。


 並んでいるのに、どこか落ち着かなかった。


 廊下の先で、重い扉が見えてくる。


 その前に立つ兵士が、二人を見て深く頭を下げた。


 セイルはその動きに、また息を詰める。


 リナは少しだけ首をかしげた。


「さっきより丁寧だね」


「……やめてほしいです」


「何を?」


「そういうの全部」


 リナは答えなかった。


 扉が開く。


 中から、王の間の静けさが流れてきた。


 さっきよりも重い静けさだった。

    読んでいただきありがとうございます。

    少しずつ更新していきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ