第27話 パヴィアの婚礼
婚礼の朝、私は逃げ道を確かめた。
寝室の戸、廊下の曲がり角、階段、その先の中庭。馬は用意されていない。行く先もない。逃げる気もない。それでも目が先に道を拾い、拾い終えると息ができた。
アッタが髪を結いながら、磨いた金属板越しに私を見ている。
「お逃げになりますか」
「考えているだけ」
「穴を掘るのでしたら、今日はお手伝いできません」
「婚礼より大仕事なのに?」
「婚礼はお座りのままでも進みます。穴は掘らなくては進みません」
笑い、すぐ真顔に戻った。
「まだ断れると思う?」
アッタは髪を引く手を止めない。
「戸はお開けします。階段もございます。王妃さまがお歩きになるなら」
「皆に迷惑がかかる」
「それは、お逃げになれない理由ではありません」
逃げろとも残れとも言わず、アッタは最後の編み目だけをきつく締めた。
金の贈物は、赤い布を掛けたまま部屋の隅にある。今日は身につけない。婚礼に持ち込めば、金が先に答えたように見えるから――というのは表向きで、本当は、開けるのがまだ怖い。
母ベルタがいれば、衣の皺を見つけ、姿勢を直し、泣くのは人がいなくなってからにしなさいと言っただろう。今日は、母も娘もいない。
「手を出さないで」
「どこか曲がっておりますか」
「見ていて」
一人で衣の留め具を外し、掛け直す。指が二度滑った。三度目で留まる。
「できました」
「見ておりました」アッタは言った。「曲がっています」
結局、アッタがいつもの手つきで直した。
マルティンが戸の外で待っていた。正装を借りても、胸へ入れた左手の形は変わらない。泥の中を這った司祭だと、誰が見ても分かる。
「祈ってください」
「何を」
「私が間違えないように」
「それは神にも難しい願いです」
マルティンは胸に手を置いた。
「間違えた時に、戻る戸を見失わないよう祈ります」
三人で廊下を歩いた。牢を出た夜と違って、追う者はいない。逃げないと決めた足の方が、重い。
*
婚礼の場所には、人が多すぎた。
蜜蝋の匂いと、人いきれで重くなった空気だけが、妙に鮮明だった。
パヴィアの古い顔は、目を合わせる者と逸らす者に分かれた。ロターリオの下で給仕をした男が、今日はオットーの卓を整えている。誰が忠実だったかを今日裁けば、祝う人間はほとんど残らない。だから、今日は裁かない。
エンマはいない。リウドルフもリウトガルトもいない。死者の席も作られていない。欠けたまま、そこにいる者だけで始まった。
オットーが待っている。今日は冠より先に、右手が見えた。
敷居で、足が止まった。
衆人の前で求婚を拒んだ時より、部屋で受けると答えた時より、怖い。あの返事はまだ二人の声だった。ここを越えれば、王国じゅうが使う事実になる。
オットーは迎えに来ない。手も伸ばさない。昨日までなら腹を立てたかもしれない。今日は分かる。最後の一歩を、残してくれている。
自分で越えた。衣の裾が敷居に引っかかり、少しよろめく。アッタが支えかけて、手を止めた。
「逃げなかったな」オットーが小声で言った。
「馬がありませんでした」
「用意しなくてよかった」
婚姻する意思を問う声がする。儀礼の文言は耳を通り抜け、答える場所だけが残った。
「望みます」
自分の声が、思ったより小さい。すぐ前の男には届いた。
オットーも答えた。彼の声は広間の端まで届き、私の返事まで包みそうになる。それが悔しくて、もう一度言った。
「私も、望みます」
今度は、後ろのアッタまで聞こえた。
差し出した手を、オットーが受ける。彼の掌も冷たかった。
「緊張しているのですか」
「黙れ」
王が緊張している。それがおかしくて、口元が緩む。オットーも耐え切れず、短く笑った。
祈りと祝福が続き、二人の婚姻は公のものになった。さっき越えた敷居は、もう背後にある。自分の足で踏んだ一歩だ。
終わった瞬間、広間から歓声が上がった。肩が跳ね、オットーの手を強く握ってしまう。
「兵ではない」彼が耳元で言った。
「分かっています」
分かっていても、手はすぐに離せなかった。
*
宴では、本当に笑った。
オットーが杯を取ろうとして隣の皿に袖を入れ、傍らのアッタが肉の皿だけは素早く引いたからだ。ハインリヒが兄の失敗を大声で広め、北とパヴィアの卓から同時に笑いが起きた。
その少し後、卓の下でオットーが片方の履物から踵を抜いた。誰にも見えない場所で、足の指が動いている。
最初の婚礼で、ロターリオの掌も冷たかった。緊張しているのかと小声で尋ねると、履物がきついのだと答えた。後で脱いでみれば本当に踵が赤く、二人で笑った。私は15歳で、笑い方も下手だった。
あの赤い踵を、今夜まで一度も思い出さなかった。思い出した場所が、この卓だ。
「何を見ている」
「足元です」
「見るな」
娘の居場所を知らない母が、笑っている。亡き夫が王だった都で、新しい夫の隣にいる。胸のどこかが責める。返す言葉は、今夜はない。
宴の途中、幼い給仕が水をこぼした。膝から下を濡らした少年が、卓の端で固まっている。布を渡すと、受け取らずに喋り出した。
「あの、これは、私が持った時にはもう、あの、把手のところが、前から、ゆるんで、いえ、ゆるんでいたと申し上げるのではなく、私が、あの、運び方を、その」
「布」
「はい」
「先に拭いて。話は後で聞きます」
少年は布を取り、卓ではなく自分の膝を拭き始めた。
エンマも木椀を落とすと、叱られるより先に母を見て笑った。この子は誰も見ないで喋っている。似ていないのに、喉が狭くなった。
「私の袖より軽い罪だ」とオットーが言い、また卓が笑った。
「笑ってよいのでしょうか」とマルティンが自分に問うように言う。
「もう笑っています」
杯を持つ指はまだ震えた。注がれた葡萄酒は、一滴も残さなかった。
*
夜、オットーが旧王妃の寝室の戸を叩いた。
「今朝は、儀礼の者に王らしく来いと言われた」
「夜まで王らしくしなくて結構です」
アッタが寝具を抱えて出ていく。戸口で王に一礼した。
「寝台の覆いは、半分を王妃さまにお残しください」
「なぜ皆、私が取ると思う」
答えず、赤い布の荷へ歩いた。
「今なら、見ます」
二人で布を持ち上げる。灯を受けた金が、部屋を一度に明るくした。目を細めるほど多い。上品というより可笑しい。
「やりすぎです」
「喜んだな」
「呆れたのです」
「似た顔だった」
布は戻さなかった。中身を婚姻の値にはしない。夫からの贈物として、明日からゆっくり見ればいい。
寝台の前で、二人とも急に言葉が減った。互いに前の婚姻を知っている。知らないふりで、新しい夫婦にはなれない。
オットーが髪の編み目に手を伸ばし、触れる手前で止めた。その手を取り、自分で留め具に導く。
「アッタほど上手には外せないぞ」
「三度落としたら、私がします」
一度目で外れた。髪が肩に落ちると、朝から締めつけていた頭皮が痛んだ。オットーの指が、その跡を避けて髪に触れる。
彼が顔を寄せ、途中で待った。私は離れない。残った距離を、自分から詰めた。杯の葡萄酒と、冬前の冷えた空気の味がした。
口づけが終わると、どちらからともなく息を吐いた。
「まだ逃げ道を見ているか」
「戸は見えます」
「出ていくなら、止めない」
「今夜は出ません」
それ以上の約束はせず、彼の胸に額を預けた。
「最初の冬を、ここで越したい。婚礼の翌朝、北へ運ばれたくありません」
「北には私を待つ者がいる」
「ここにもいます」
オットーは少し考えた。
「春までだ」
「はい」
「リウドルフには、春に戻ると伝えてください。再婚の知らせより、先に」
「順番か」
「息子が最初に聞く一語が再婚なら、続く言葉は全部言い訳になります。戻る、が先なら、聞く耳は残る」
オットーは暗い天井を見て、それから短く言った。
「そうする」
「使いは、いつ出しますか」
「夜が明けたら」
夫が灯を消す。暗がりで寝台が沈み、二人の距離が近くなる。
しばらくして、覆いがオットーの方へ動いた。
「取っています」
「まだ少しだ」
笑いながら引き戻した。最初の夜、私たちは覆いの半分を争った。
空が白む前に、北へ馬が出た。返事が来るとしたら、降誕祭までだ。
史実メモ:オットーとアーデルハイトは951年10月末から11月頃、パヴィアで婚姻したとみられ、ヴィドゥキントは王者の威厳にふさわしく婚礼が祝われたと総括します。正確な日付・儀礼と、エンマ、リウドルフ、リウトガルトの招待・代理・列席状況は不明です。本話の敷居の一歩、同意の言葉、宴の細部、パヴィア残留を決める場面は創作です。




