最後の駒
検分の日を境に、リディエンヌは社交界から葬られた。
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王太子だった彼女の兄は、既に素行の汚名を着せられ、国境の任地に追いやられていた。玉座を脅かす芽は、これで、ほとんど摘み取られたことになる。ザイデルンの魔の手が、じわじわと忍び寄っていた。
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ザイデルンの緻密な筋書きの中、敵国リンドヴェールから、両国の緊張を和らげるための縁談が舞い込んだ。
本来ならば、王女の輿入れといえば、リディエンヌの役目だった。だが、あの子は、既にヴィンセルと婚約している身だ。白羽の矢は、自然と、リュシオラに立つことになった。
「――どうか、考え直していただきたい」
ヴィンセルが、王の御前で、そう食い下がったと聞いた時には、思わず笑いそうになった。自分の婚約者を差し置いて、リュシオラの輿入れを止めようと嘆願する男。滑稽としか言いようがなかった。
戦略室は、既に両方の筋書きを用意していた。嫁ぐのがリディエンヌであれば、敵地で本当に始末する。リュシオラであれば、偽装死を仕組み、その死を口実に両国を戦わせる。誰が嫁ごうと、ザイデルンの勝利は、最初から揺るがなかった。
もっとも、最後の判断は、私のさじ加減だった。魅了のきくヴァルテールに、「リディエンヌを行かせるべきかと」と囁けば、リディエンヌが敵国に嫁ぐことになる。「リュシオラの方が、この縁談にふさわしいのでは」と囁けば、リュシオラが嫁ぐことになる。
娘のリュシオラは、人身御供として、敵国への輿入れを命じられた。政略の駒として。それでも、これが最後の駒になる、と私は分かっていた。
リディエンヌを殺し、王を殺し、あの子を玉座に座らせるところまでが、私の最後の任務だった。
「――お母様。私、行って参ります」
出立の朝、リュシオラは、気丈にそう言った。震える指先を、私は、見て見ぬふりをした。
馬車が城門を抜けていくのを、私は、最後まで見送った。




