第107話:奥の先
種蒔きから二百六十五日目の朝、大空洞に入った。
採取ポイントで三本を摘み取った。根元の青白い発光は変わらなかった。布袋に入れた。
第一耕地に進んだ。二株が今日の頃合いだった。指で押して弾力を確かめてから摘み取った。
第三耕地は今日の頃合いではなかった。三か所に水をかけた。
岩の隙間の霧花草は今日は葉を閉じていた。採取はしなかった。
水場を通りかかった時、水に指先を入れた。今日も温かかった。
(九十歩まで進む)
割れ目の方へ向かった。
*
割れ目に一歩入った。苔の青白い光が通路の壁を薄く照らしていた。十八歩進んで向こう側に出た。
刻みを確かめた。
三十五本になっていた。
(ケルンが来た。三日の間に)
三十五本目だけ表面が荒かった。残りはどれも滑らかで、触れると指が滑った。器の向きは変化なし。
松明に火をつけた。奥の開口部に一歩入った。床が傾き始めた。
一歩ずつ数えながら進んだ。五十五歩目で祖父の最後の溝を確かめた。十本、変わらず並んでいた。六十歩目で自分の一本目。六十五歩目で古い溝と自分の二本目。七十歩目で古い溝と自分の三本目。八十歩目で右の壁の溝が十二本。八十五歩目で古い溝と自分の四本目。
八十六歩、八十七歩——乾いた岩の匂いが少し混じり始めた。八十八歩、八十九歩。
九十歩目を踏んだ。
右の壁に松明を近づけた。縦の溝があった。一本、細くまっすぐ。表面が滑らかだった。
(また、ある)
懐から紙を取り出した。炭の欠けで輪郭を追った。刻みの入り始めの角度を先に写した。丁寧に二度なぞって確かめた。懐にしまった。隣に自分の五本目を刻んだ。
九十一歩目には進まなかった。引き返した。
*
部屋に戻った。棚のそばに立った。松明の炎と苔の青白い光が交じり合った。しばらく待った。
奥の開口部から足音が近づいてきた。
「来ていたか」
ケルンだった。
「はい。九十歩まで進みました。また右の壁に溝がありました」
「そうか」
短い間があった。
「向こうへ行ってきた」
レインが顔を向けた。
「奥の開口部の先——入ったか」
「入った。一歩だけだが」
(入った)
「中は——」
「広い。天井が高い。大きな空洞だ。暗くて苔はなかった。壁の線が、ここの何倍もあった」
短い間があった。
「線が一か所、集まっているところがあった。その真ん中に——形があった」
「形——」
「立っているものの形だ。何かが、そこに立っていた。松明が届かなくて、近くまでは行けなかった。だから引き返した」
(立っているものの形がある)
「また行きますか」
「行く。次は松明を増やして、もっと奥まで入る」
炎が揺れた。
「——ガルドが入った場所に、たどり着いた気がした」
それだけ言って、ケルンは奥へ戻っていった。
部屋の中でしばらく立っていた。苔の光が揺れていた。
割れ目を抜けて大空洞に戻った。
*
小屋に戻った。乾燥台に今日の五本を並べた。炭に火をつけた。弱火を保った。
この三日の間に積み上がっていた分を確かめた。乾燥台分を加える前の通常品が七百五十三本になっていた。一時間ほどで通常品五本が仕上がった。棚に加えた。通常品が七百五十八本になった。混合品が六十本になった。
*
夕方、シルバの小屋へ向かった。懐に溝の紙を入れていた。
「九十歩目まで進みました。また右の壁に溝がありました。写してきました」
紙を差し出した。シルバが受け取って、ゆっくりと目を通した。
「ケルンとも会いました。今日——奥の開口部の先に、一歩入ったと言っていました」
シルバが動きを止めた。
「入ったか」
「はい。広くて天井が高い暗い空洞だったと。壁の線がここより多くて、線が一か所集まっているところに——立っているものの形があったと言っていました」
長い間、シルバは炉の火を見ていた。
「……そうか」
「——立っているものが」
言いかけて、止まった。
「次にケルンが来た時、もっと詳しく聞いておけ。どこに立っていて、どれくらいの大きさで、どんな形か。近づいた時に空気がどう変わったかも」
「はい」
「お前も——続けてこい。急がなくていい。でも続けてこい」
「わかりました」
炉の火が揺れた。外は暗くなっていた。
*
夜、経営の書を開いた。
「先を進んだ者の言葉は、次に進む者の地図になる。地図は形ではない。歩いた者が見たものの言葉でできている」
(ケルンが入った。立っているものの形があった。ガルドが入った場所に、ケルンがたどり着いた。九十歩目にも、アレンの溝があった)
棚を見た。通常品が七百五十八本。混合品が六十本。
明日も採りに行く。




