第106話:場所を整えた者
種蒔きから二百六十二日目の朝、大空洞に入った。
採取ポイントで三本を摘み取った。根元の青白い発光は変わらなかった。布袋に入れた。
第一耕地に進んだ。二株が今日の頃合いだった。指で押して弾力を確かめてから摘み取った。
第三耕地は今日の頃合いではなかった。三か所に水をかけた。
岩の隙間の霧花草は今日は葉を開いていた。三枚を刈り取って別の布袋に入れた。
水場を通りかかった時、水に指先を入れた。今日も温かかった。
(今日はゴルドのところへ行く)
割れ目へ向かった。刻みを確かめた。
三十四本になっていた。
(ケルンが来た。三日の間に)
三十四本目だけ表面が荒かった。器の向きは変化なし。奥の開口部には入らなかった。割れ目を出た。
小屋へ戻った。
*
乾燥台に今日の五本と霧花草を並べた。炭に火をつけた。弱火を保った。
この三日の間に積み上がっていた分を確かめた。乾燥台分を加える前の通常品が七百三十三本になっていた。一時間ほどで通常品五本と混合品一本が仕上がった。棚に加えた。通常品が七百三十八本になった。混合品が五十九本になった。
棚を整えた。昼前、懐に溝の紙を入れてゴルドの鍛冶場へ向かった。
*
煙が出ていた。扉を叩いた。
「レインです。八十五歩目の溝を写してきました」
「来い」
扉が開いた。ゴルドが顔を出した。額に汗が光っていた。
懐から紙を取り出した。ゴルドが受け取った。
前回の紙も取り出してきた。三枚を並べた。長い間、ゴルドは黙って見ていた。炉の火が遠くで揺れていた。
「……やはり同じだ」
ゴルドが静かに言った。
「八十五歩目も同じ石工の手ですか」
「そうだ。三か所とも同じ者が刻んだ。入り方が一致する。六十五歩目、七十歩目、八十五歩目——間を空けながら、進みながら刻んでいった者だ」
(三か所とも)
「どんな目的で」
「場所を記録するためだ。石工が建物を建てる前に地盤を測る時、こういう刻み方をする。その者は霧穴の中で、形を測っていた」
「霧穴を——作ろうとしていた者、ということですか」
ゴルドがしばらく黙った。
「わからない。だが——霧穴がただの自然の洞窟でなく、誰かが手を入れた場所だとするなら。この刻み方はその者が残した記録だ」
炉の木が音を立てた。
「——ガルドがここを選んだのには理由があっただろう。その理由が、この石工と関わっているかもしれない。それ以上はわからない」
ゴルドが三枚の紙をレインへ返した。
「先に溝がまだあるなら、続けて写してこい」
「わかりました」
扉が閉まった。
(ガルドが霧穴を選んだ理由。石工と関わっているかもしれない)
道を戻りながら、繰り返した。
*
夕方、シルバの小屋へ向かった。
「八十五歩目の溝も、同じ石工の手だとゴルドさんが言いました。三枚並べて確かめてくれました。霧穴の形を測るために来ていた者の記録だと」
シルバが炉の前でゆっくりと顔を上げた。
「三か所とも同じか」
「はい」
短い間があった。炉の木がくすぶっていた。
「アレンのことを、もう少し話してもいいか」
(言ってくれる)
「はい」
「ガルドが霧穴に来た時期のことだ。ガルドがここを選んだのは——最初から自分一人で見つけたわけではなかったかもしれない」
(自分一人では)
「誰かに教わったということですか」
「わからない。——ただ、ガルドが霧穴に来た最初の頃、別の者と一緒にここへ入ったという話を、一度だけ聞いたことがある。誰かとは言わなかった。それだけだ」
(別の者と一緒に)
「その人が——アレンですか」
「わからない。だが——石の仕事をする者が霧穴を測っていたとするなら、その者がガルドに場所を教えた可能性がある。場所の記憶を残した者が、次に来る者に渡した、ということになる」
シルバが炉の方に視線を戻した。
「急ぐな。またわかったことがあれば話す」
「はい」
「——続けてこい。溝がある限り」
「わかりました」
炉の火が揺れた。外は暗くなっていた。
*
夜、経営の書を開いた。
「場所を知る者が次の者に渡す。次の者がそこへ行き、また先へ進む。一人では行けない場所へ、続く者たちが少しずつ近づいていく。それが仕事の形の一つだ」
(アレンが霧穴を測った。ガルドがそれを知っていた。ガルドがここへ来て——レインへ渡した。この場所には、何重もの時間が積み重なっている。ケルンもその一つだ)
棚を見た。通常品が七百三十八本。混合品が五十九本。
明日も採りに行く。




