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106/109

第106話:場所を整えた者

 種蒔きから二百六十二日目の朝、大空洞に入った。


 採取ポイントで三本を摘み取った。根元の青白い発光は変わらなかった。布袋に入れた。


 第一耕地に進んだ。二株が今日の頃合いだった。指で押して弾力を確かめてから摘み取った。


 第三耕地は今日の頃合いではなかった。三か所に水をかけた。


 岩の隙間の霧花草は今日は葉を開いていた。三枚を刈り取って別の布袋に入れた。


 水場を通りかかった時、水に指先を入れた。今日も温かかった。


(今日はゴルドのところへ行く)


 割れ目へ向かった。刻みを確かめた。


 三十四本になっていた。


(ケルンが来た。三日の間に)


 三十四本目だけ表面が荒かった。器の向きは変化なし。奥の開口部には入らなかった。割れ目を出た。


 小屋へ戻った。



 乾燥台に今日の五本と霧花草を並べた。炭に火をつけた。弱火を保った。


 この三日の間に積み上がっていた分を確かめた。乾燥台分を加える前の通常品が七百三十三本になっていた。一時間ほどで通常品五本と混合品一本が仕上がった。棚に加えた。通常品が七百三十八本になった。混合品が五十九本になった。


 棚を整えた。昼前、懐に溝の紙を入れてゴルドの鍛冶場へ向かった。



 煙が出ていた。扉を叩いた。


「レインです。八十五歩目の溝を写してきました」


「来い」


 扉が開いた。ゴルドが顔を出した。額に汗が光っていた。


 懐から紙を取り出した。ゴルドが受け取った。


 前回の紙も取り出してきた。三枚を並べた。長い間、ゴルドは黙って見ていた。炉の火が遠くで揺れていた。


「……やはり同じだ」


 ゴルドが静かに言った。


「八十五歩目も同じ石工の手ですか」


「そうだ。三か所とも同じ者が刻んだ。入り方が一致する。六十五歩目、七十歩目、八十五歩目——間を空けながら、進みながら刻んでいった者だ」


(三か所とも)


「どんな目的で」


「場所を記録するためだ。石工が建物を建てる前に地盤を測る時、こういう刻み方をする。その者は霧穴の中で、形を測っていた」


「霧穴を——作ろうとしていた者、ということですか」


 ゴルドがしばらく黙った。


「わからない。だが——霧穴がただの自然の洞窟でなく、誰かが手を入れた場所だとするなら。この刻み方はその者が残した記録だ」


 炉の木が音を立てた。


「——ガルドがここを選んだのには理由があっただろう。その理由が、この石工と関わっているかもしれない。それ以上はわからない」


 ゴルドが三枚の紙をレインへ返した。


「先に溝がまだあるなら、続けて写してこい」


「わかりました」


 扉が閉まった。


(ガルドが霧穴を選んだ理由。石工と関わっているかもしれない)


 道を戻りながら、繰り返した。



 夕方、シルバの小屋へ向かった。


「八十五歩目の溝も、同じ石工の手だとゴルドさんが言いました。三枚並べて確かめてくれました。霧穴の形を測るために来ていた者の記録だと」


 シルバが炉の前でゆっくりと顔を上げた。


「三か所とも同じか」


「はい」


 短い間があった。炉の木がくすぶっていた。


「アレンのことを、もう少し話してもいいか」


(言ってくれる)


「はい」


「ガルドが霧穴に来た時期のことだ。ガルドがここを選んだのは——最初から自分一人で見つけたわけではなかったかもしれない」


(自分一人では)


「誰かに教わったということですか」


「わからない。——ただ、ガルドが霧穴に来た最初の頃、別の者と一緒にここへ入ったという話を、一度だけ聞いたことがある。誰かとは言わなかった。それだけだ」


(別の者と一緒に)


「その人が——アレンですか」


「わからない。だが——石の仕事をする者が霧穴を測っていたとするなら、その者がガルドに場所を教えた可能性がある。場所の記憶を残した者が、次に来る者に渡した、ということになる」


 シルバが炉の方に視線を戻した。


「急ぐな。またわかったことがあれば話す」


「はい」


「——続けてこい。溝がある限り」


「わかりました」


 炉の火が揺れた。外は暗くなっていた。



 夜、経営の書を開いた。


「場所を知る者が次の者に渡す。次の者がそこへ行き、また先へ進む。一人では行けない場所へ、続く者たちが少しずつ近づいていく。それが仕事の形の一つだ」


(アレンが霧穴を測った。ガルドがそれを知っていた。ガルドがここへ来て——レインへ渡した。この場所には、何重もの時間が積み重なっている。ケルンもその一つだ)


 棚を見た。通常品が七百三十八本。混合品が五十九本。


 明日も採りに行く。

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