表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
104/109

第104話:石の仕事

 種蒔きから二百五十六日目の朝、大空洞に入った。


 採取ポイントで三本を摘み取った。根元の青白い発光は変わらなかった。布袋に入れた。


 第一耕地に進んだ。二株が今日の頃合いだった。指で押して弾力を確かめてから摘み取った。


 第三耕地に進んだ。第四十五バッチの頃合いだった。五本を一本ずつ根元から確かめてから摘み取った。三か所に水をかけた。


 岩の隙間の霧花草は今日は葉を開いていた。四枚を刈り取って別の布袋に入れた。


(八十五歩まで進む)


 割れ目の方へ向かった。



 割れ目に一歩入った。苔の青白い光が通路の壁を薄く照らしていた。十八歩進んで向こう側に出た。


 刻みを確かめた。


 三十三本になっていた。


(ケルンが来た。三日の間に)


 三十三本目だけ表面が荒かった。残りはどれも滑らかで、触れると指が滑った。器の向きは変化なし。


 松明を一本に火をつけた。奥の開口部に一歩入った。床が傾き始めた。


 一歩ずつ数えながら進んだ。五十五歩目で祖父の最後の溝を確かめた。十本、変わらず並んでいた。六十歩目で自分の一本目を確かめた。七十歩目で古い溝と自分の三本目。


 八十歩目で右の壁を確かめた。溝が十二本。変わらなかった。


(先へ進む)


 八十一歩、八十二歩——土の匂いが一段変わった。湿った重さの底に、硬い岩の気配が混じった。八十三歩、八十四歩。


 八十五歩目を踏んだ。


 右の壁に松明を近づけた。縦の溝があった。一本、細くまっすぐ。表面が滑らかだった。


(これも古い)


 懐から紙を取り出した。炭の欠けを使って溝の輪郭を追った。刻みの入り始めの角度を先に写した。溝は細くて浅かった。前に写したものに似ていた。丁寧に二度なぞって形を確かめた。懐にしまった。隣に自分の四本目を刻んだ。


 八十六歩目には進まなかった。引き返した。



 部屋に戻った。棚のそばに立った。松明の炎と苔の青白い光が交じり合った。しばらく待った。


 奥の開口部から足音が近づいてきた。


「来ていたか」


 ケルンだった。


「はい。八十五歩まで進みました」


「そうか」


 短い間があった。


「向こうへ行ってきた」


 レインが顔を向けた。


「広い場所の奥まで。前より遠くまで進んだ」


「何がありましたか」


 ケルンがしばらく間を置いた。


「壁の線が続く部屋の、さらに奥に開口部があった。暗くて中は見えなかった。松明を持っていって確かめようとした。入り口の前で止まった」


(開口部)


「中に入らなかったんですか」


「入らなかった。——ガルドが一人で入って、また出てきた場所だと思った。だから止まった」


 長い間があった。炎が揺れた。


「それがガルドの言っていた場所だと思いますか」


「わからない。だが——その開口部の前に立った時、何かが変わった。匂いが変わった。向こうから来る空気が違った。これより先は別の場所だと感じた」


(別の場所)


「また行きますか」


「行く。次は松明を増やして中まで入るつもりだ」


「わかりました」


 ケルンが少し間を置いた。


「——お前はここへ来るたびに少し先へ進んでいるな」


「続けています」


「ガルドに似ている」


 それだけ言って、ケルンは奥へ戻っていった。


(ガルドに似ている)


 部屋の中でしばらく立っていた。苔の光が壁に揺れていた。


 割れ目を抜けて大空洞に戻った。



 小屋に戻った。乾燥台に今日の十本と霧花草を並べた。炭に火をつけた。弱火を保った。


 この三日の間に積み上がっていた分を確かめた。乾燥台分を加える前の通常品が六百八十八本になっていた。一時間ほどで通常品十本と混合品一本が仕上がった。棚に加えた。通常品が六百九十八本になった。混合品が五十一本になった。



 夕方、シルバの小屋へ向かった。懐に溝の紙を入れていた。


「八十五歩目まで進みました。右の壁に溝がありました。古い溝です。写してきました」


 紙を差し出した。シルバが受け取った。しばらく黙って見ていた。


「ケルンとも会いました。向こうの広い場所の奥に開口部があったと。入り口の前で一度止まったと」


「そうか」


 シルバが紙をゆっくり返した。


「溝の形は持っていけ。ゴルドに見せてきてくれ。次のことはまた続きを話す」


「はい。——アレンのことを少し聞いてもいいですか」


 短い間があった。炉の木がくすぶっていた。


「一つだけ言える」


「はい」


「場所に詳しい者が霧穴に来ていた可能性がある。溝を測りながら刻んでいったとするなら——その者は霧穴の形を調べていた。場所の形を知るために来ていた」


(場所の形を知るために)


「誰かがここを——整えていた、ということですか」


「わからない。だが——その者が来ていた理由が、測るためだったとするなら。何かを作ろうとしていた者の仕事に見える」


 シルバが炉の方に視線を戻した。


「急ぐな。一つずつ確かめてからでいい」


「わかりました」


「今日のケルンの話も記録に残しておけ。開口部があったということを」


「はい」


 炉の火が揺れた。外は暗くなっていた。



 夜、経営の書を開いた。


「探す者と整える者は違う。探す者は先へ進む。整える者は後から来る者のために形を残す。どちらも、一人では終わらない仕事だ」


(ケルンが開口部の前で止まった。ガルドに似ていると言った。アレンという者が霧穴の形を調べていた可能性がある。ガルドより前から、誰かがここを知っていた)


 棚を見た。通常品が六百九十八本。混合品が五十一本。


 明日も採りに行く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ