第102話:次の段
種蒔きから二百五十日目の朝、大空洞に入った。
採取ポイントで三本を摘み取った。根元の青白い発光は変わらなかった。布袋に入れた。
第一耕地に進んだ。二株が今日の頃合いだった。指で押して弾力を確かめてから摘み取った。
第三耕地は今日の頃合いではなかった。三か所に水をかけた。
岩の隙間の霧花草が今日は葉を開いていた。三枚を刈り取って別の布袋に入れた。
水場を通りかかった時、水に指先を入れた。今日も温かかった。
(今日は割れ目には入らない)
小屋へ戻った。
*
乾燥台に今日の五本と霧花草を並べた。炭に火をつけた。弱火を保った。
この三日の間に積み上がっていた分を確かめた。乾燥台分を加える前の通常品が六百四十八本になっていた。一時間ほどで通常品五本と混合品一本が仕上がった。棚に加えた。通常品が六百五十三本になった。混合品が四十六本になった。
棚を整えた。
(書面の次が来るとすれば、形が変わる。シルバじいさんが言っていた)
昼の時間、外に人の気配があった。
扉が叩かれた。
「レイン・ホルツさんでしょうか」
前と同じ声だった。
扉を開けた。教会の印を持った男が立っていた。今日は一人ではなかった。後ろにもう一人、年かさの男がいた。五十がらみで、革の封筒を抱えていた。
「はい」
「改めて参りました。ハナ王国ダンジョン管理規則に基づき、施設の実地確認を行いたく存じます。本日はその申請書をお持ちしました」
年かさの男が封筒から紙を取り出して差し出した。
受け取って、一度見た。
「施設の内部に立ち入り確認を行う——と書いてあります」
「はい。ダンジョン施設の安全管理確認でございます。担当の者が内部を確認させていただきます」
(中には入れない)
「中には入れません」
少し間を置いた後、答えた。
「ここは私が管理している場所です。外部の方を内部に通すことは行っておりません」
「申請書に基づく正式な確認でございます。規定に従った手続きを——」
「規定であれば、規定の全文を書面でお送りください。こちらで確認した上で、どう対応するかを判断します」
男が少し間を置いた。
「……内部に入れないとなると、確認が取れないことになります。その場合、管理施設としての認定に支障が生じる可能性がございます」
「認定の根拠となる規定も、書面でお送りください」
年かさの男が視線をずらした。扉の横を見ていた。
外から足音がした。ミアだった。扉の横に立って、二人の男を見た。何も言わなかった。ただ、立っていた。腕を下ろしたまま、動かなかった。
(ミアが来た)
年かさの男がミアに視線を向けた。ミアは動かなかった。
しばらく間があった。
「……書面の手配をいたします。改めてご連絡いたします」
二人が一礼して、立ち去った。足音が遠ざかっていった。
扉を閉めた。
ミアが言った。
「二人来たか」
「はい。今日は二人でした」
「前の者と、年上の者が一人」
「はい。書類を持ってきました。施設の中に入って確認をしたいと」
ミアが少し間を置いた。
「断ったか」
「はい」
「よかった」
短く言った。それだけだった。
ミアが棚を一度見た。
「次は別の形で来る。師匠に話しておく」
「頼みます」
「——来る前に知らせてくれていたら、もっと早く来られた」
「次から知らせます」
「そうしろ」
扉が閉まった。
*
夕方、シルバの小屋へ向かった。
「今日昼すぎに来ました。今日は二人でした。書類を持ってきて、施設の中に入って実地確認をしたいと言いました。中には入れませんと答えました。規定があれば書面で送ってほしいと伝えたら、書面の手配をすると言って帰りました。ミアが来てくれました」
シルバが炉の前でゆっくりと顔を上げた。
「二人来たか」
「はい」
「次の段が来た」
「はい」
短い間があった。炉の木がくすぶっていた。
「中に入れなかったのは正しかった。一度入れると、次はもっと深く入ろうとする。連中の手は、踏み込んだ分だけまた踏み込む」
「はい」
「書面を送ってくると言ったか」
「はい。規定の全文を書面で送ってほしいと伝えました」
シルバがゆっくりと炉を見た。
「それで良かった。書面で問い返したのは正しい」
短い間があった。
「書面が来た時、どう答えればいいですか」
「また相談しろ。来てからでいい。来るまでは、ドゥルガとゴルドに伝えておけ。ミアはもう動いてくれるだろうが」
「わかりました」
「——今日揺れなかったか」
「はい」
「続けてきたものがあるからだ。積み上げたものは、こういう時に出る」
炉の火が揺れた。外はもう薄暗くなっていた。
*
夜、経営の書を開いた。
「要求が形を変えて続く時、それは相手が諦めていないということだ。だが、諦めていない相手に変わらず答えることが、こちらの言葉の代わりになる。変えないことが、最も伝わる答えになる時がある」
(二人来た。書類を持って施設の中に入ろうとした。断った。次は書面が来る。次も断る。それだけのことだ。ミアが来てくれた。それも続けてきたことの一つだ)
棚を見た。通常品が六百五十三本。混合品が四十六本。
明日も採りに行く。




