表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
102/109

第102話:次の段

 種蒔きから二百五十日目の朝、大空洞に入った。


 採取ポイントで三本を摘み取った。根元の青白い発光は変わらなかった。布袋に入れた。


 第一耕地に進んだ。二株が今日の頃合いだった。指で押して弾力を確かめてから摘み取った。


 第三耕地は今日の頃合いではなかった。三か所に水をかけた。


 岩の隙間の霧花草が今日は葉を開いていた。三枚を刈り取って別の布袋に入れた。


 水場を通りかかった時、水に指先を入れた。今日も温かかった。


(今日は割れ目には入らない)


 小屋へ戻った。



 乾燥台に今日の五本と霧花草を並べた。炭に火をつけた。弱火を保った。


 この三日の間に積み上がっていた分を確かめた。乾燥台分を加える前の通常品が六百四十八本になっていた。一時間ほどで通常品五本と混合品一本が仕上がった。棚に加えた。通常品が六百五十三本になった。混合品が四十六本になった。


 棚を整えた。


(書面の次が来るとすれば、形が変わる。シルバじいさんが言っていた)


 昼の時間、外に人の気配があった。


 扉が叩かれた。


「レイン・ホルツさんでしょうか」


 前と同じ声だった。


 扉を開けた。教会の印を持った男が立っていた。今日は一人ではなかった。後ろにもう一人、年かさの男がいた。五十がらみで、革の封筒を抱えていた。


「はい」


「改めて参りました。ハナ王国ダンジョン管理規則に基づき、施設の実地確認を行いたく存じます。本日はその申請書をお持ちしました」


 年かさの男が封筒から紙を取り出して差し出した。


 受け取って、一度見た。


「施設の内部に立ち入り確認を行う——と書いてあります」


「はい。ダンジョン施設の安全管理確認でございます。担当の者が内部を確認させていただきます」


(中には入れない)


「中には入れません」


 少し間を置いた後、答えた。


「ここは私が管理している場所です。外部の方を内部に通すことは行っておりません」


「申請書に基づく正式な確認でございます。規定に従った手続きを——」


「規定であれば、規定の全文を書面でお送りください。こちらで確認した上で、どう対応するかを判断します」


 男が少し間を置いた。


「……内部に入れないとなると、確認が取れないことになります。その場合、管理施設としての認定に支障が生じる可能性がございます」


「認定の根拠となる規定も、書面でお送りください」


 年かさの男が視線をずらした。扉の横を見ていた。


 外から足音がした。ミアだった。扉の横に立って、二人の男を見た。何も言わなかった。ただ、立っていた。腕を下ろしたまま、動かなかった。


(ミアが来た)


 年かさの男がミアに視線を向けた。ミアは動かなかった。


 しばらく間があった。


「……書面の手配をいたします。改めてご連絡いたします」


 二人が一礼して、立ち去った。足音が遠ざかっていった。


 扉を閉めた。


 ミアが言った。


「二人来たか」


「はい。今日は二人でした」


「前の者と、年上の者が一人」


「はい。書類を持ってきました。施設の中に入って確認をしたいと」


 ミアが少し間を置いた。


「断ったか」


「はい」


「よかった」


 短く言った。それだけだった。


 ミアが棚を一度見た。


「次は別の形で来る。師匠に話しておく」


「頼みます」


「——来る前に知らせてくれていたら、もっと早く来られた」


「次から知らせます」


「そうしろ」


 扉が閉まった。



 夕方、シルバの小屋へ向かった。


「今日昼すぎに来ました。今日は二人でした。書類を持ってきて、施設の中に入って実地確認をしたいと言いました。中には入れませんと答えました。規定があれば書面で送ってほしいと伝えたら、書面の手配をすると言って帰りました。ミアが来てくれました」


 シルバが炉の前でゆっくりと顔を上げた。


「二人来たか」


「はい」


「次の段が来た」


「はい」


 短い間があった。炉の木がくすぶっていた。


「中に入れなかったのは正しかった。一度入れると、次はもっと深く入ろうとする。連中の手は、踏み込んだ分だけまた踏み込む」


「はい」


「書面を送ってくると言ったか」


「はい。規定の全文を書面で送ってほしいと伝えました」


 シルバがゆっくりと炉を見た。


「それで良かった。書面で問い返したのは正しい」


 短い間があった。


「書面が来た時、どう答えればいいですか」


「また相談しろ。来てからでいい。来るまでは、ドゥルガとゴルドに伝えておけ。ミアはもう動いてくれるだろうが」


「わかりました」


「——今日揺れなかったか」


「はい」


「続けてきたものがあるからだ。積み上げたものは、こういう時に出る」


 炉の火が揺れた。外はもう薄暗くなっていた。



 夜、経営の書を開いた。


「要求が形を変えて続く時、それは相手が諦めていないということだ。だが、諦めていない相手に変わらず答えることが、こちらの言葉の代わりになる。変えないことが、最も伝わる答えになる時がある」


(二人来た。書類を持って施設の中に入ろうとした。断った。次は書面が来る。次も断る。それだけのことだ。ミアが来てくれた。それも続けてきたことの一つだ)


 棚を見た。通常品が六百五十三本。混合品が四十六本。


 明日も採りに行く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ