第4話 教会を敵に回すムーヴ
リズさんとは別れ、僕たちは宿へ戻った。教会で捕まっているクロノ君の姉である彼女が僕たちと一緒に行動しているところを見られれば、それだけで教会から怪しまれる可能性があるからだ。
「明日はどうする?」
僕はニカンドロに尋ねた。
「教会に行こう。クロノ君の話を聞かせてもらう」
即答だった。まあ、そうなるよね。原作でもニカンドロはクロノを助けるため、教会と直接話をすることになる。リズさんから弟を助けてほしいと頼まれているしね。
「分かった。じゃあ、明日に備えて先に寝てて」
そう言って僕は立ち上がった。
「僕はちょっと教会を見てくるよ」
「今からか?」
ニカンドロが驚く。
「うん。夜の方が忍び込みやすいし。明日話をするなら、こちらも手ぶらで行くわけにはいかない」
「1人で大丈夫か?」
「大丈夫。僕、シーフだから」
そう言って宿を出た。
夜の教会は静かだった。
正面から入る必要はない。裏手へ回り、壁を登って2階の窓まで移動する。鍵がかかっていたけど、僕には関係ない。細工道具を差し込んで、少し動かす。
「カチャッ」
鍵が開いた。
「ここのシーン、原作ではカットされてたんだよなあ」
中へ入ると、すぐに《気配遮断》を使う。これで僕の存在には気づかれにくくなる。教会の中を歩きながら、リズさんに聞いた情報を思い出す。司祭の部屋は2階。警備の神官は1階を中心に巡回している。だから、そこまで難しくない。僕は音を立てずに司祭の部屋へ向かい、扉の鍵を開けた。
部屋の中は、驚くほど綺麗だった。机の上にも書類はほとんどない。本棚も整理されている。床に争った跡もない。
「……片付けたか」
司祭が行方不明になったことになっているけれど、戻ってこない前提みたいにきれいだ。実際もう司祭は教会の人間に殺されている。
僕は《探索》を使って部屋を調べた。床、机、本棚、壁。すると、机の脚の近くに薄い傷が残っていた。机を動かした跡だ。さらに本棚の一番下を見る。そこだけ埃が少ない。僕はしゃがみ込み、棚の奥まで確認する。でも何もない。教会側が事件のあと徹底的に調べたんだろう。
次に僕は、クロノ君の罪状が書かれた書類を探した。司祭の部屋に入ったことと、重要書類を盗んだこと。その2つが教会側の主張だったはずだ。でも、見つけた記録には不自然なところがあった。
「そもそも重要書類ってなんだよ」
原作で重要書類は何だったっけ。確か、詳細な言及はなかったはずだ。でも実際に作品世界に入ってみると気になるな。その重要書類ってやつを読んでみたい。
まあとにかく、教会は司祭を殺してるし、何かを隠していることは分かった。
翌朝、僕たちはリズさんと合流して教会へ向かった。
「本当にありがとうございます」
リズさんは何度も頭を下げる。僕たちは教会の神官に事情を話した。クロノ君について聞きたいと伝えると、しばらくして1人の神官が出てきた。
「クロノの件ですか。残念ですが、証拠は揃っています」
「どんな証拠ですか?」
ニカンドロが聞く。
「クロノが司祭様の部屋へ入ったという目撃証言があります」
「それだけですか? 納得できません」
「納得していただけなくても結構」
ちょっと僕も質問してみよう。
「盗んだっていう重要書類は、いったい何なんですか?」
神官の口が止まった。僕は黙って神官を見る。
「それについては、教会の機密に関わります」
「本当にクロノは盗んだんですか?」
「そうです」
「だったら、何を盗んだのかもう少し教えてくれてもいいじゃないですか。これがもし冤罪だったら、大変なことになりますよ」
神官がめんどくさそうに僕を見る。
「そうだ、それが分からないと納得できない」
ニカンドロは真っ直ぐに神官を見ている。自分が正しいと思ったことを、真正面から口にする。こういうところは原作と同じだ。
神官は少し黙ってため息をついたあと「これ以上は話せません」と答えた。
「クロノには面会できますか?」
今度はリズさんが聞く。
「申し訳ありませんが、それもできません」
「どうしてですか?」
「取り調べ中だからです。何度も申し上げていますよね」
リズさんの顔が曇った。
「……3日も、ですか? ちゃんと食事はとれているんでしょうか?」
「部外者には関係ありません」
その言葉に、ニカンドロが拳を握る。
「リズさんは弟の身を心配してるんだ。配慮してやってくれ」
「はいはい、分かりましたよ」
「そっちがそんな態度なら、俺は教会を絶対に許さない」
うん。原作通りだ。ニカンドロはこうやって、人のために動く。その行動が少しずつ仲間を集めて、最後には勇者になる。僕はそのために手を貸せばいい。
教会を出ると、リズさんが僕たちを見た。
「クロノはどうなってしまうんでしょうか。ずっとこのままだったら、私……」
ニカンドロはそんなリズさんを見て、言った。
「リズ、必ず俺たちが助け出す」
僕も頷いた。うん。順調、順調。原作では、ここからニカンドロが教会の隠された秘密へ踏み込んでいく。僕が、その道を歩きやすく整えてあげればいい。
「はい、ありがとうございます」
その目には少しだけ涙が浮かんでいた。




