第3.5話 ニカンドロを探せ
まずい。やっぱりまずい。俺はニカンドロを追放してから、ずっと落ち着かなかった。
というより、あいつがどこに行ったのかすら分からない。
追放した直後、すぐに戻って探したがもういなくなっていた。魔物に食われてこの世から消えていてくれたのなら話は早い。それが俺にとって最適だ。でもなぜだかそんな気がしなかった。だから俺たちは街へ戻った。しかし宿屋にもいない。冒険者ギルドにもいない。武器屋にもいない。
「……ニカンドロ、どこに行ったんだ?」
「知らねえよ。あいつのことなんて放っておけばいいだろ」
仲間はそう言って笑った。でも、俺は笑えなかった。頭の中に、前世で見た追放ものの展開が浮かんでくる。追放された主人公が、誰にも知られないところで新しい仲間と出会う。そこで才能を開花させる。
そして、元仲間たちが後悔する。
「嫌だ、嫌だ、嫌だ……」
「どうしたんだよ、セイラム。やっぱおかしいぞ?」
「いや、なんでもない」
俺たちは街中を探し続けた。すると、ようやくニカンドロを見たという人が見つかった。
「ニカンドロ? ああ、見たよ」
「本当か!?」
「昨日の朝方だったかな。男と2人で歩いていた」
「男……?」
俺の背中に嫌な汗が流れた。新しい仲間。
「どこへ行った!?」
「武器屋のほうだったと思うけど」
俺は仲間を連れて武器屋へ向かった。
「ニカンドロなら来たぞ」
店主はあっさり答えた。
「本当に!?」
「ああ。昨日、剣を買っていった」
「どんな剣だ?」
「古びた剣だよ。誰も買わないから、店の奥に置いていたんだがな」
店主が言った。
「呪いの剣だ」
「……呪い?」
俺の心臓が跳ねた。
「そう。普通の奴が持てば、体力も魔力も吸われる。だから売れなくて困ってたんだ。ところが、あのニカンドロって奴は平気な顔で持っていった」
「…………」
嫌な予感がする。呪いの剣。追放された主人公。新しい仲間。そして、誰も使えなかった武器を平然と扱う。
「……まさか」
俺は呟いた。
「その剣が、実は凄い武器だったりしないか?」
「は? 何言ってんだ、お前」
仲間が呆れた顔をした。
「本格的に大丈夫か?」
「うるさい!」
思わず怒鳴ってしまった。
「じゃあなんで、ニカンドロはその剣を買ったんだよ!」
「知らねえよ。本人に聞けよ」
「それが見つからないから困ってるんだろ!」
仲間たちは顔を見合わせた。
「もういいだろ」
「そうそう。ニカンドロは追放したんだから、放っておけばいい」
「俺たちには関係ない」
「……お前ら、本当にそう思ってるのか?」
「当たり前だろ」
仲間たちは本当に興味がなさそうだった。俺だけが勝手に焦っている。俺だけが勝手に不安になっている。俺だけが勝手に、最悪の未来を想像している。
「…………」
冷静になれ。こいつらの反応は当たり前だ。追放ものをそもそも知らない。それにニカンドロを追放したのは俺たちだ。弱いから必要ないと思って追い出した。なのに今になって、パーティーリーダーである俺が勝手に不安になっているのだ。
しかし、考えれば考えるほど追放もののテンプレに沿って物事が進んでいる気がしてならない。
「……くそ」
もし、その剣が本当に特別な剣だったら?
もし、ニカンドロにしか使えない力が眠っていたら?
もし、新しい仲間がすごいやつだったら?
もし、ここからニカンドロが急速に強くなったら?
その先に待っているのは……。
「ざまぁ展開……」
「また言ってるぞ」
仲間が呆れたように言った。
「もう放っとこうぜ。セイラム、お前ちょっと頭冷やせよ」
「…………」
分かってる。俺だって分かってる。でも、怖いんだ。俺の知らないところでニカンドロが強くなってざまぁしようと考えているのが怖い。
俺は店を飛び出した。
「どこ行くんだよ?」
「ニカンドロを探す」
「まだやるのか?」
「当たり前だ!」
俺は走り出した。
呪いの剣を買った。知らない男と2人で歩いていた。俺たちに追放された直後なのに、もう何かが始まっている。
それが偶然なのか、前世で見た追放ものと同じ流れなのか、俺には分からない。
「ニカンドロ……!」
俺は必死に走った。
「ニカンドロ、戻ってきてくれ……!」




