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英雄の仕掛け人~未来の勇者を陰から支えていたら、原作バレして異常な愛を向けられてしまう~  作者: 座間あぜん


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第3話 未来の勇者の活躍をお膳立てします

僕は指先に魔力を集めた。作るのは、小さな吹き矢。魔力を細く固め、簡単な形を作る。威力は必要ない。必要なのは、ニカンドロが剣を振るう直前にゴブリンの動きを止めること。


僕はゴブリンの動きを見る。


ニカンドロが剣を振るう。ゴブリンが避けようとした、その瞬間。


シュッ。


「ギャッ!」


魔力で構成した吹き矢が、ゴブリンの首筋に刺さった。その身体がビクッと震える。パラライズによって痺れ、動きが止まった。


「うおおおっ!」


ニカンドロが踏み込む。呪いの剣がゴブリンを捉えた。


「ギャアアアアッ!」


ゴブリンが地面に倒れる。あとは呪いでじわじわと死に至る。いいね、呪いの剣。


「一発で当たった!」


ニカンドロ自身も驚いている。そりゃそうだ。さっきまで1匹倒すのに3時間かかっていたんだから。僕が後ろから魔法を使ったことなんて、知るはずもない。


「すごいじゃないか」

「だ、だよな!?」


ニカンドロが嬉しそうに笑う。


よし。その調子だ。


2匹目のゴブリンが飛びかかってくる。僕はその動きを見て、また魔力を集めた。


シュッ。


「ギャッ!」


吹き矢が首筋に刺さる。ゴブリンの動きが止まった。直後、ニカンドロが踏み込む。


ザシュッ。


ゴブリンが倒れた。


「やった!」


ニカンドロが声を上げる。


最後の1匹も同じように処理する。僕が吹き矢を放ち、ゴブリンの動きを止める。ニカンドロが斬る。これで3匹。


結果だけを見れば、ニカンドロが3匹のゴブリンを倒したことになる。


実際には、僕が全部お膳立てしたわけだけど。僕は何もしていないような顔をして、ニカンドロの隣に立つ。



すると、後ろから声が聞こえた。


「あの……」


振り返る。


リズ・アイリス。原作のヒロインだ。


「大丈夫ですか?」


ニカンドロが声をかける。


「はい……。助けていただいて、本当にありがとうございます」


リズは深く頭を下げた。


「いや、俺は……」


ニカンドロが照れたように頭を掻く。


僕はその様子を見ながら、心の中で頷いた。未来の勇者とヒロイン。出会いは無事に成立した。


……ただし。


ここから先は、原作を知っている僕でも慎重に動く必要がある。リズが仲間になるまでには、まだ少し時間がかかるからだ。


「リズさんは、こんなところで何をしていたの?」


僕が尋ねる。


「教会のお仕事で、薬草を採りに来ていたんです」

「1人で?」

「はい。今日は、少し奥まで入ってしまって」


リズは苦笑する。けれど、その表情はどこか暗い。


僕は知っている。この子が抱えている問題を。原作では、リズには弟がいる。その弟が、ある事件の犯人として捕まっている。でも本当は違う。弟は無実だ。教会の内部で起きた事件に巻き込まれ、罪を着せられた。そして教会はその事実を隠している。


だからこそ、彼女は教会から離れることができない。弟を見捨てられないからだ。しかも、この事件には期限がある。弟は、数日後に処刑される。


ここからが、原作の大きなイベント。ニカンドロが事件を解決し、弟を救う。そして、その出来事がきっかけでリズはニカンドロを信頼するようになる。最終的に、彼女は僕らのパーティに加入する。


つまりここでリズをパーティーに誘ってはいけない。


まだ早い。


まず、ニカンドロ自身にリズを救わせる。


そのためには……。


「さっきから、少し元気がないようけど」

「……」


リズが俯く。


「いえ、大丈夫です」

「本当に?」

「はい」


ニカンドロに視線を送る。


「……よければ、俺たちに話してくれないか? 力になれるかもしれない」


ニカンドロが言った。リズが顔を上げる。


「どうして……?」

「放っておけない。俺はパーティーから追放されてレイスに救われた。一度失ったも同然の命だ。世のため人のために使いたい」


オッケー。原作通り。

そしてその言葉に、リズの表情が揺れた。


「……弟がいるんです」

「弟?」

「はい」


リズは杖を握りしめる。


「今、教会の牢に入れられています」


ニカンドロの顔から笑みが消えた。


「何で?」

「人を殺したと……、言われています」

「殺人?」

「はい」


リズの声が震える。


「でも……、違うんです!」


その目に涙が浮かぶ。


「弟は、人を殺すような人じゃありません」

「だったら助けないとな」


ニカンドロが即答した。リズが驚く。


「……え?」

「無実なんだろ?」

「でも……教会が、弟が犯人だと……」

「教会がそう言ってるからって、本当に犯人とは限らない」


ニカンドロが拳を握る。


「俺たちで真犯人を捕まえよう」


僕は黙ってニカンドロを見た。そう。それでいい。僕が欲しかった言葉は、それだ。


「ニカンドロ」

「何?」

「教会を相手にすることになるかもしれないよ」

「それでもいい。だろ?」


迷いがない。主人公してんなあ。僕は嬉しくなって小さく笑った。


「……ありがとうございます」


リズが頭を下げた。その目に、ほんの少しだけ光が戻った。僕はその光景を眺める。


ここまでは完璧。


あとは、ニカンドロが主となって事件を解決する。とはいえ、今のニカンドロでは、教会を相手にするなんて無理だ。だから僕が裏で支える。


事件の真相。隠された証拠。犯人。全部、僕は知っている。原作を何度も読んだからね。でも、僕はそれを知らないふりをしながらニカンドロを正解へと導かなければならない。僕がやるべきなのは、答えを渡すことじゃない。ニカンドロが自分で答えに辿り着けるように、道を作ることだ。


「リズさん」

「はい」

「弟さんが捕まった事件について、知っていることを教えてくれる?」

「……分かりました」


リズは事件について話し始めた。


「弟の名前は、クロノです。3日前から、教会の地下牢に入れられています」

「何をしたんだ?」


ニカンドロが尋ねる。


「司祭様の部屋に侵入して、教会の重要な書類を盗んだと言われています」

「盗んだ?」

「はい。でも、クロノはそんなことをしていません」


リズは首を横に振った。


「その夜、クロノが司祭様の部屋に入るところを見た人がいたそうです。それで犯人だと決めつけられました」

「司祭は?」

「……司祭様は、今も行方不明です」


その言葉を聞いて、僕は少しだけ目を細めた。やっぱり原作どおりだ。教会は、司祭が死んだことを隠している。


「クロノは何か言ってなかったの?」

「1つだけ……」


リズが俯く。


「『司祭様は殺された』って」


ニカンドロが息を呑んだ。


「でも、教会は聞く耳を持ってくれませんでした。クロノが司祭様を殺して、証拠を隠すために嘘をついているんだって……」


そうそう。教会は司祭の死を隠したい。そのために、クロノを犯人に仕立てたのだ。


ニカンドロが立ち上がる。


「本当に司祭が殺されたなら、真犯人が証拠を残してるはずだ」


ニカンドロが拳を握る。


「俺たちで見つけよう」

「そうだね、僕はシーフだから忍び込むのは得意だよ」


リズが泣きながら僕たちに感謝の言葉を告げた。


「ありがとうございます!」

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