第2話 原作どおりに呪いの剣を選びます
ダンジョンを出た頃には、すっかり日が暮れていた。僕たちは街へ戻り、そのまま近くの宿に入った。二人部屋を取って荷物を置く。
適当な料理を注文した。しばらくして料理が運ばれてくる。
「「いただきます」」
二人で食事を始めた。
ニカンドロは黙々と食べている。さっきまでパーティーの仲間だった人間たちに追放され、挙げ句の果てに暴力まで振るわれたのだ。無理もない。
「ニカンドロ」
「ん?」
「これから、どうするつもり?」
「……分からない」
ニカンドロが箸を止める。
「一人でどうすればいいのか……」
「だったら、僕と一緒にパーティー組まない?」
「……え?」
ニカンドロが顔を上げた。原作通りのリアクションだ。
「僕もソロだったけど、2人のほうが何かと便利だし」
「俺と?」
「うん」
「でも俺、役に立たないと思うぞ」
「これから強くなればいい」
「……」
ニカンドロはしばらく黙っていた。
「レイスは、どうしてそこまで俺を信じられるんだ?」
「え?」
「今日初めて会ったばかりなのに」
それはもちろん、君が主人公だから。とは言えない。
「……なんとなく」
「なんとなく?」
「うん」
「変な奴だな」
「よく言われるよ」
そんな会話をしながら食事を続ける。
「分かった。俺も、レイスと一緒に行きたい」
「うん。よろしく」
こうして、僕たちはパーティーを組むことになった。順調、順調。
そして翌朝。
朝食を済ませた僕たちは、武器屋へ向かった。
「まずは装備を揃えよう」
「装備か」
店内には、たくさんの剣が並んでいる。ニカンドロは棚を眺めながら、適当に剣を手に取った。
「どういうのがいいんだろうな」
「あれにしよう」
僕は店の奥を指差した。そこに一本の剣が置かれている。装飾もない。刃も少し古い。僕は知っている。原作『勇者パーティに「無能」と追放された雑用係、たまたま抜いた呪いの剣が伝説の聖剣だった件〜ただ静かに暮らしたいだけなのに、魔王軍を壊滅させたら国を挙げて大英雄と崇め奉られてしまいました〜』でニカンドロが最初に手に入れる呪いの剣。
その剣は、持っているだけで体力や魔力を少しずつ削られる。実際僕が触れてみると、体力が削られた。魔力もわずかに減っている。
だから誰も欲しがらない。原作では、そんな剣をニカンドロが手に入れる。
そしてその呪いが、ニカンドロには効かない。彼が持つ呪い耐性のおかげだ。さらに、この剣にはもう一つ特徴がある。斬った相手に呪いを付与する。これがニカンドロと相性抜群だった。だから僕は、どうしてもこの剣を買わせる必要があった。
「絶対にこれがいいよ」
ニカンドロが剣を眺める。
「でも、こっちのほうが状態も良さそうだけど」
「いや、こっちのほうがいい」
「何で?」
「……これ、安いですよね?」
「ああ。そいつなら銀貨2枚でいい」
原作どおりだ。
「確かに初めての剣だし。安いに越したことはないか……」
「そうそう。初めから高いのを買ってもね」
ニカンドロが剣を鞘から抜いた。
「うん、問題なさそうだ」
ニカンドロは平然としている。よし、ちゃんと呪い耐性もある。
「これを買うよ」
僕たちは武器屋を出た。
「ニカンドロ、魔物と戦ってみよう」
「いきなり?」
「うん」
まずは実戦。原作では、このあとニカンドロが魔物を簡単に倒していく。呪いの剣は、斬った相手に呪いを付与する。ここからニカンドロの快進撃が始まるのだ。
最初の相手は……。
「いた」
ゴブリンだ。最弱クラスの魔物。原作でも、ニカンドロは最初にゴブリンをあっさり倒していた。
「ニカンドロ。やってみて」
「分かった」
ニカンドロが剣を抜く。ゴブリンがこちらへ走ってきた。
「ギャッ!」
ニカンドロが踏み込む。剣を振る。
――スカッ。
外れた。
「あれ……?」
ニカンドロが首を傾げる。
ゴブリンが横へ逃げる。
「もう一度!」
「おう!」
ニカンドロが剣を振る。
――スカッ。
また外れた。
「……」
「……」
僕も首を傾げる。おかしい。原作では、ここで簡単に倒していたはずだ。
「もっとよく狙って!」
「分かった!」
ニカンドロは必死に剣を振る。でも、当たらない。ゴブリンも必死に逃げる。
「待て! くそっ!」
一時間が経った。まだ倒せない。二時間が経った。まだ倒せない。
「はぁ……、はぁ……」
ニカンドロは息を切らしている。ゴブリンも疲れている。僕も疲れてきた。
そして三時間後。
「うおおおおおおおっ!」
ニカンドロの剣が、ついにゴブリンを捉えた。
「ギャッ!」
ゴブリンが地面に倒れる。
「倒した……」
「うん」
「俺が……、魔物を倒せた」
「そうだよ」
ニカンドロは、ゆっくりと笑った。
「……やった」
僕も笑った。
最弱のゴブリン一匹を倒すのに、三時間もかかった。原作では、あっさり倒していたのに。いや、三時間をカットして描いていたに違いない。そう思うことにしよう。
「……これは長い道のりになりそうだ」
僕は呟いた。
まあいい。大筋では原作にちゃんと沿っている。これから体力をつけて、剣術を覚えて、実戦経験を積む。その先で呪いの聖剣を手に入れて、勇者へ繋がる道があるんだ。
僕たちは街へ戻るため、森の中を歩いていた。
「疲れた……」
ニカンドロが肩を落とす。
「三時間もゴブリンと戦ったからね」
「付き合わせて悪かった」
「気にしなくていいよ。僕たちはパーティーメンバーなんだから」
僕としても、いい経験になった。原作では描かれていなかった部分を、実際に見ることができた。これはこれで面白い。
そんなことを考えながら歩いていると……。
「……ん?」
森の奥から、何かが聞こえてきた。
「今、何か聞こえなかったか?」
ニカンドロが立ち止まる。
「うん」
耳を澄ます。
「助けて……!」
女の子の声だった。もちろん僕は誰の声なのか知っている。
原作のヒロイン、ヒーラーのリズ・アイリス。ここで彼女と出会うことも、もちろん知っている。
「行こう!」
ニカンドロが走り出した。
「待って!」
僕も慌てて追いかける、フリをした。
僕は最初から知っていた。この先にリズがいることも。彼女が三匹のゴブリンに襲われていることも。原作どおりなら、このあとニカンドロが彼女を助ける。だから僕は、少しだけ後ろを走った。ここは未来の勇者が、ヒロインを助ける重要な場面なのだから。
声のした場所へ向かうと、木々の隙間から一人の少女が見えた。
白いローブ。腰まで伸びた淡い金色の髪。胸元には、小さな聖印が下がっている。少女は杖を握りながら、必死に魔物と対峙していた。
相手はやはり三匹のゴブリン。
「下がって!」
ニカンドロが少女の前に飛び出した。
「え……?」
少女が驚いた顔をする。
「俺が相手をする!」
ニカンドロが剣を構える。正直言って、今のニカンドロには荷が重い。原作では、ここで彼が主人公らしくカッコよくゴブリンを倒すわけだけど……。
最弱のゴブリン1匹に3時間。それが3匹。普通に考えたら無理だ。
「……仕方ない」
僕は魔力を練った。ニカンドロが走り出す。
「うおおおっ!」
そのまま呪いの剣を振る。だが大振りすぎる。そんなんじゃ当たらない。
僕は指先に魔力を集めた。




