第1.5話 追放した俺、ざまぁされるかもしれない恐怖
仲間の1人が笑った。
「ようやく邪魔な存在がいなくなったな」
「無能をいつまでも置いておく必要なんてないだろ」
俺たちはニカンドロを追放したばかりだった。あいつは弱かった。剣を持たせても大したことはできないし、敵と戦えば足を引っ張る。勇者候補である俺たちについてくるには力不足だった。だから追放した。それだけのことだ。
「追放って気分いいね……」
仲間の口から出た言葉に、俺はなぜか反応した。
「……追放?」
胸の奥がざわつく。
なんだ?
今の言葉、どこかで聞いたことがある。いやそりゃそうだが、なんというか、そういうことじゃなくて。言葉自体は普通だ。なのに、どうしてこんなに頭の奥で引っかかる?
「セイラム?」
「……いや、なんでもない」
歩き出そうとした。
その瞬間だった。頭の奥に、知らないはずの光景が浮かんだ。大きな画面。テレビ。アニメ。前世の記憶だった。
「……あ」
俺は立ち止まった。
そうだ。俺は前世でアニメを見ていた。毎週放送される作品を楽しみにしていた。異世界ものもよく見ていた。
その中にあったのだ。
「追放もの……」
ぼんやりと、1つのジャンルが浮かんできた。
追放物。仲間から「お前は無能だ」と言われて追放される主人公。最初は弱いと思われている。でも、実は凄い才能を持っている。追放されたあとに強くなる。新しい仲間と出会う。元仲間たちは後になって主人公の本当の実力を知る。
そして……。
「ざまぁ、される」
俺の口から、勝手に言葉が漏れた。
「何だよ、急に」
仲間が笑う。俺は笑えなかった。
「……待て」
心臓が嫌な音を立て始めた。
俺はついさっき、何をした?
仲間を追放した。「無能だから」という理由で。それって完全に、追放物のテンプレじゃねえか。
「……いや」
違う。落ち着け。この世界に転生してきて、俺が追放ものの追放する側で……。だから何だ。かぶってるだけだろ。バカバカしい。そもそも、俺が前世で見たアニメとここが同じ世界だという証拠もない。
ニカンドロがこの世界の主人公だなんてことがあってたまるか。ラノベ原作があるなんて決まっていない。俺はいくつかの追放物をみたが、ぶっちゃけどれも作品名すら思い出せない。登場人物の名前だってほとんど覚えていない。
ただ、追放物のテンプレだけは頭に残っている。
「追放された奴が強くなって……」
俺は呟く。
「追放した側が後悔して……」
嫌な汗が背中を流れる。
「最後に……、ざまぁされる」
「セイラム、さっきからどうしたのよ」
仲間の声が遠く聞こえる。
俺は必死に頭を整理しようとした。これは偶然だ。きっとそうだ。俺たちはたまたま弱い奴を追放した。たまたま「追放」という言葉を使った。たまたま俺が前世で見たアニメを思い出した。
それだけだ。
……本当に?
「もし……」
声が震えた。
「もし、この世界に原作小説があったとして、その通りに世界が進んでいるとしたら?」
仲間が怪訝そうな顔をする。
「原作? 何言ってんの」
「いや、なんでもない」
俺は首を振った。
転生してきているのは間違いない。なぜ今になってそんなことに気づいたのか分からないが、とにかく俺は転生してきた。日本で死んでこの世界にやってきて、今まで生きてきた。剣士として認められ、今では勇者候補とまで言われている。俺は強い。そう、みんなから認められて期待されているんだ。
なのに、それでも怖かった。
だって、今の状況があまりにも追放物のテンプレに当てはまっているのだ。
無能扱いされる雑用。
パーティーから追放されダンジョンに置き去り。
そして追放した側は、意気揚々としている。
「……まずい」
もし本当に追放物の世界だったら?
ニカンドロが、実はとんでもない才能を持っていたら?
もし、これから何かをきっかけに急激に強くなったら?
もし、新しい仲間と出会ったら?
もし、その仲間たちと一緒に俺たちを見返しに戻ってきたら?
「……嫌だ」
考えれば考えるほど、怖くなる。
「いや、待て。まだ追放したばかりだ。万が一、追放物のテンプレ通りに世界が進んでいるとしても、まだ引き返せる」
自分に言い聞かせる。
原作があるなんて分からない。ニカンドロが主人公なんて知らない。俺が前世で見たアニメと、この世界が同じだという保証もない。
それでも俺は、用心深く立ち回れば百パーざまぁされる未来は消える。
「戻ってきてもらえばいい」
そうだ。それなら簡単だ。追放をなかったことにすればいい。そうすれば「追放された主人公が成り上がる」という展開にはならない。
俺がざまぁされる理由もなくなる。
「ニカンドロを探す」
「え?」
仲間が間の抜けた声を出した。
「さっき追放したばかりだろ?」
「だからだよ!」
思わず声が大きくなった。
「今すぐ追いかける!」
「何をそんなに焦ってるんだ?」
「焦るに決まってるだろ!」
自分でも驚くほど必死になっていた。もし本当にただの偶然なら、それでいい。ニカンドロに謝ればいい。もう一度パーティーに入れてやればいい。それで終わりだ。
でも、もし違ったら?
もし俺が見たことのある追放物と同じ流れが定められているとしたら?
このままニカンドロを自由にしたら、何が起こる?
考えたくない。
「……絶対に、テンプレには乗らない」
俺は来た道を走り出した。
「ニカンドロ!」
まだ遠くには行っていないはずだ。
「戻ってきてくれ!」
俺は必死に走った。追放した側がざまぁされる。その未来だけは、絶対に避けなければならない。
「……頼むから、まだ間に合ってくれ!」
俺はただ、ざまぁされる未来から逃げたかった。




