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英雄の仕掛け人~未来の勇者を陰から支えていたら、原作バレして異常な愛を向けられてしまう~  作者: 座間あぜん


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第8話 原作にない事件が起きました

「ラノベ……?」


セイラムが顔を上げる。


「いや、前世で見たことがあるんだ。こういう展開の物語を」

「…………」


嫌な予感がした。


「追放された奴が、新しい仲間と出会って成り上がっていく。追放した側は後悔して、最後にはざまぁされる。そういう話だ」


セイラムは真剣な顔で話している。


「ニカンドロを追放したあとに気づいたんだ。もしかしたら、俺は――」

「黙れ」

「え?」


僕はセイラムの胸ぐらをさらに強くつかんだ。


「それ以上、余計なことを考えるな」

「いや、でも……」

「お前は何も知らない」

「……」

「原作のことも、この世界のことも、ニカンドロがこれからどうなるのかも。何も知らないままでいい」


セイラムが目を丸くする。


「お前も、前世が日本人なのか……」

「お前には関係のないことだ」

「いや、絶対関係あるだろ!」

「ない」

「あるだろ!」

「ないったらない!」


思わず声を荒らげてしまった。


まずい。こいつ、原作を壊そうと動いているんだ。だからこんな場所までやってきて。クソ、俺の計画を壊しやがった。セイラムに好き勝手動かれては困る。


「……セイラム」


僕は胸ぐらから手を離す。


「お前は今までどおりでいい」

「今までどおり?」

「そう。ニカンドロを追放した、性格の悪い勇者候補。それでいい」


僕はため息をついた。どうしてこうなった。


しかもこいつ、前世の記憶まで持っている。原作『勇者パーティに「無能」と追放された雑用係、たまたま抜いた呪いの剣が伝説の聖剣だった件〜ただ静かに暮らしたいだけなのに、魔王軍を壊滅させたら国を挙げて大英雄と崇め奉られてしまいました〜』までは知らないようだ。


しかし、このあと何をしでかすか分からない。


一番厄介なタイプだ。


「……とにかく、僕は地下に戻るよ。余計なことはするな。さもなくば殺すぞ」


セイラムが背筋を伸ばした。僕の力が分からないほどのバカではないらしい。


「待ってくれ」

「何?」


セイラムが真剣な顔になる。


「ニカンドロを本当に俺たちのところへ戻さないつもりなのか?」

「当たり前だろ」

「でも俺はこのままだと――」

「これ以上原作を壊すなっつってんだよ」


僕はセイラムに背を向けた。


「……原作」


セイラムが小さく呟く。


僕はまだ知らなかった。この日を境に、僕が守ってきた原作が少しずつ壊れ始める……。






僕はセイラムを残して、地下牢へ戻った。扉を開けると、ニカンドロとリズが司祭のそばにいる。


「戻ってきたか」


ニカンドロが僕を見る。


「セイラムは?」

「置いてきたよ」

「大丈夫なのか?」

「うん」


僕は司祭を見る。ここまでは、原作どおりだった。地下牢に閉じ込められた司祭。弱った身体。それを心配するニカンドロと、治療を続けるリズ。


このあと司祭は、教会で何が起きたのかを話す。


僕は、その展開を知っている。


だから、セイラムが勝手に動いたことは気になるけど、事件そのものまで変わったとは思っていなかった。


「司祭様、さっきの話の続きを聞かせてください」


ニカンドロが声をかける。


「……ああ」


司祭がゆっくりと目を開ける。


「私が……、知っていることを……」


司祭はそこまで言って、激しく咳き込んだ。


「司祭様!」


リズが背中を支える。


「大丈夫ですか?」

「……すまない。少し……休ませてくれ」

「分かりました」


ドンッ!


地下の奥から、大きな音が響いた。


「……なんだ?」


ニカンドロが立ち上がる。僕も音のした方向を見る。


ドンッ!


まただ。さっきより大きい。


「地震……?」


リズが不安そうに呟く。


「違う」


僕はすぐに答えた。


地面が揺れているわけじゃない。何かが壊れている。地下のどこかで、何かを壊している。


ゴゴゴゴゴ……。


嫌な音が続く。


僕は眉をひそめた。おかしい。原作では、こんな音はしない。地下牢で何かが壊れることもない。教会が揺れることもない。


もちろん、このあと教会が崩壊することなんて――。


バキッ!


天井に亀裂が走った。


「……え?」


リズが顔を上げる。


小さな石が落ちてきた。その直後、亀裂が一気に広がった。


「全員、牢屋の中に!」


僕が叫ぶ。


ドォン!


天井の一部が崩れた。大量の瓦礫が地下へ落ちてくる。


「危ない!」


ニカンドロがリズを庇う。


僕は司祭をかかえて地下牢の中に入る。四人とも無事だ。


僕は落ちてくる瓦礫を見ながら、頭の中で原作の展開を思い出していた。


こんなことは起きない。原作なら、司祭から話を聞く。こんなふうに、生き埋めになることなんてない。


「レイス!」


ニカンドロの声で我に返る。


「どうなってるんだ!?」


僕は答えられなかった。


ゴゴゴゴゴゴゴゴッ!


また地面が揺れる。


いや、違う。揺れているのは地面だけじゃない。教会全体が揺れている。


「まさか……」


僕は天井を見上げた。


「教会が……」


ドォォォォン!


凄まじい音が響いた。地下牢へ続いていた通路が崩れ落ちる。大量の瓦礫が一気に流れ込んできた。


「出口が!」


ニカンドロが叫ぶ。僕たちの逃げ道が消えた。


「レイス!」

「動かないで!」


僕が叫んだ直後、さらに天井が崩れる。


ドォン!


ドォン!


ドォォォン!


瓦礫が次々と落ちてくる。リズが司祭に覆いかぶさる。ニカンドロがその二人を守ろうとする。


僕は周囲を見回した。逃げ道はない。天井も崩れている。出口は瓦礫で塞がれた。上からは、まだ大量の土と石が落ちてくる。


「なんで、原作にないことが起きてるんだ……?」


ドォォォォン!


最後の大きな衝撃が地下牢を揺らした。


天井が崩れる。


視界が土煙で埋まる。


ニカンドロの声が聞こえた。


「レイス!」


その声を最後に、僕たちは大量の瓦礫に飲み込まれた。

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