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魔法が世界を壊した三百六十五日〜愛する者を救うため魔法を手にした重歩兵は、世界を救うために再び「クソ重たい鉄の盾」を構える〜  作者: 祐希ケイト


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魔法の力の種明かし

 氷と炎がぶつかり合う死闘の末、俺はなんとかクルーガー大佐を無力化することに成功した。人智を超えた力を使って、そう易易と立っていられるものはいない。無力化することは難しいことではなかった。


 だが、彼を軍の捕虜として引き渡すことはしなかった。

 戦線から離れた放棄されたトーチカ(コンクリート陣地)の暗闇の中。俺は血まみれの大佐を鉄柱に縛り付け、その目の前に立っていた。


「……なぜ、チップの存在を知っていた」

 俺の問いに、クルーガー大佐はひび割れた唇を歪めて、ヒュー、ヒューと痛ましい呼吸を漏らした。強引に埋め込まれたチップの拒絶反応か、彼の口端からはどす黒い血が絶え間なく溢れている。


「答えろ。あんたは魔法を放つ直前、『祖国の海を返せ』と言ったな。どういう意味だ」


「……魔法、だと?」

 大佐は血を吐きながら、心の底から軽蔑するような冷たい笑い声を上げた。


「無知な泥犬どもめ。あんなものを『魔法』だとか『神の奇跡』だと崇めているのは、世界でお前たちアーベントの馬鹿共だけだ。無から有が生まれるわけがないだろう……それはただの、等価交換だ」


「等価交換……?」


「そうだ。その忌まわしい『M.A.G.I.C.』……局地環境搾取システムは、空間を跳躍して『他国から環境エネルギーを根こそぎ強奪し、自国で出力する』という、最悪の寄生兵器だ」


 大佐の言葉が、暗く冷たいトーチカの中に響く。

 俺は息を呑んだ。意味が、うまく頭に入ってこない。


「お前たちが指先一つで放つその『炎』は、我が国シャトラの大気から急激に酸素を奪い取り、燃焼させている。お前たちが降らせるその『雨』は、我が国の湖や川から強制的に水分を吸い上げたものだ」

 大佐は憎悪に満ちた目で、俺の胸ぐらを睨みつけた。


「お前たちが魔法を使うたび、我が国の国土は干からびていく! 木々は枯れ、大地はひび割れ、残された子供たちは泥水をすすって死んでいく!……我々がなぜ、あの重苦しい酸素ボンベと防毒マスクを手放せないのか、考えたこともなかったのか!!」



 ガツン、と。

 頭を巨大な鉄のハンマーで殴られたような衝撃だった。


 敵が狂ったように特攻してくる理由。

 どんなに炎で焼かれても、絶対に退かなかったあの執念。

 彼らは、国境やイデオロギーのために戦っていたのではない。ただ「息をするため」「水を飲むため」に、文字通り命を懸けて俺たちという悪魔を殺しに来ていたのだ。


「そんな……嘘だ……」

 俺は後ずさり、壁に背中を打ち付けた。

 じゃあ、俺たちが喜んでいたあの雨は? 枯れた大地に緑が芽吹いたと、国民が歓喜していたあの豊かな国は?

 すべて、何万ものシャトラの民を干殺しにして奪い取った、血塗られたユートピアだったというのか。


 その時、俺の脳裏に「最も恐ろしい事実」が閃いた。

 炎が酸素を。雨が水を奪っているのなら。



「……ま、待て。じゃあ……『自己再生』は……?」


 声が、ガチガチと震えていた。


「アイリスの……俺の幼馴染の胸に埋め込まれたチップは、細胞を強制再生させている……あれは、一体何からエネルギーを……ッ!」

 大佐は哀れむような、そして絶望的な目で俺を見た。


「動植物の生命力……そして、土壌の養分だ。彼女の肉体が再生するたび、我が国の土地は完全に死滅し、二度と作物が育たない『死の砂漠』へと変貌している」


 吐き気がした。

 胃袋が裏返るような強烈な吐き気に襲われ、俺は泥の地面に四つん這いになって胃液をぶちまけた。


 アイリスは、シャトラの子供を庇って撃たれた。

 誰よりも優しく、敵国の命すら見捨てられなかったあの少女が。

 今、安全な王都のベッドで眠りながら、彼女が助けようとしたシャトラの子供たちから「命を吸い上げて」生きながらえている。


「あぁ……ああぁぁぁぁ……ッ!!」

 俺は泥だらけの頭を抱え、獣のように呻いた。

 なんという残酷な皮肉だ。

 俺が彼女を救うために使った力が。軍の言いなりになって放ち続けた魔法が。結果的に、一番彼女の心を壊す「最悪の罪」を犯させていた。


「俺たちは……英雄なんかじゃない……」

 泥の味を噛み締めながら、俺は嗚咽した。


「ただの……世界を食い殺す、バケモノじゃないか……!」

 トーチカの暗闇の中、大佐は何も言わず、ただ静かに俺の絶望を見下ろしていた。

 神の奇跡(魔法)が崩れ去り、残酷な真実だけが残された、血も凍るような夜だった。

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