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ダンジョン配信で死んだことになっている俺、仲間たちが曇っているとは知らない  作者: 座間あぜん


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6/8

第6話 生き返った翌朝、美少女4人と添い寝していた俺、全員から告白されたけど、災厄級の魔物と融合したせいで討伐対象になるらしい。それでも彼らを救うため、再びダンジョンへ向かう

「……ん?」


翌朝、目を覚ますと、俺の右腕にこはくが抱きついていた。左腕にはレイナがしがみついている。足元にはいぶきが寝ていて、反対側では紫苑さんが俺のズボンを握っていた。


「……なんで4人とも俺のベッドで寝てるんだ?」


どうしてこうなったんだっけ。昨日俺は、1年前に倒した厄災級魔物のグランゼルの力で生き返った。なくなった右腕も戻ってきたし、新しいスキル【因果掌握】まで手に入った。


それで、みんなと再会して……。


「ああ、そうだった」


マンションに帰ってから、昨日の夜、4人が俺のそばで寝たいと言い出したんだ。俺が眠っている間に、また死んでしまうかもしれないと心配していた。さすがにそんなことはないと思いつつ、みんな泣きそうだったから一緒に寝ることにしたんだった。


「いやあ、みんな心配性だなあ」


俺は笑いながら、戻ってきた右手を開いた。ちゃんと動く。すると、こはくが寝言を言った。


「朔斗くん、行かないでぇ……」

「どこにも行かないって」


俺が頭をなでると、こはくは安心したように俺の右腕へ頬を寄せた。反対側では、レイナが俺の左腕をさらに強く抱き締めた。どうやら、まだ誰も起きそうにない。


「……さて、どうやってベッドから出ようかな」


俺はそっと左腕を動かした。


「……朔斗?」


レイナが目を開けた。


「おはよう、レイナ」


レイナは俺の顔をじっと見つめた。それから、俺の胸へ耳を当てた。


「……よかった」

「どうした?」

「ちゃんと心臓が動いているわ……」

「そりゃ、生きてるからな」


レイナは何も言わなかった。俺の胸に顔を押しつけたまま、左腕を抱き締め直した。


「……もう少し、このままでいさせて」

「いいけど、そろそろ朝飯を食いたいんだよな」

「私が作るわ。だから、あなたは寝ていて」

「いや、俺も手伝うよ。右腕も戻ったしさ」


そう言って右手を上げると、レイナの目に涙が浮かんだ。


「……本当に、戻ったのね」

「おう。ほら、指も動くぞ」


俺が指を開いたり閉じたりすると、レイナはその手を両手で包んだ。


こはくも目を覚ました。


「……朔斗くん?」

「おはよう」


こはくは俺の顔を確認すると、すぐに抱きついてきた。


「……よかったぁ」

「お、おい。そんなに心配しなくても」

「だってぇ……」


こはくは俺の右腕へ頬を寄せた。


「昨日、冷たくなってたんだもん……。何回呼んでも起きてくれなかったんだよぉ……」


涙が俺の腕に落ちた。


「もう嫌だよぉ……。あんなの、2度と嫌だよぉ……」

「分かったって。これからは気をつけるよ」

「……約束だよぉ?」

「おう」


こはくはようやく笑った。でも、右腕は放してくれなかった。


「……起きたのか」


足元からいぶきの声が聞こえた。


「おはよう、いぶき」


いぶきは体を起こし、俺の顔を確認した。


「……眠れたか?」

「ぐっすりだぞ。いぶきは?」

「……何度か起きた」

「なんで?」

「お前が息をしているか、確かめていた」

「……ええ?」


そんなことしてたのか。


「いやあ、俺は大丈夫だって」

「……昨日も、そう言っていた」


いぶきがうつむいた。


「なのに、お前は死んだ」

「……そうだったな」

「……だから、信じたくても怖かったんだ」


いぶきの目から涙が落ちた。


「自分の目の前で、またお前が動かなくなったら……」


俺は右手を伸ばして、いぶきの肩を叩いた。


「これからは無茶しないようにするよ」

「……本当だな?」

「おう」


いぶきは俺の手を握った。


「……信じる」


最後に紫苑さんが目を覚ました。


「……おはよ、朔斗くん」

「おはようございます」


紫苑さんは俺の顔を見て少し笑った。そして飛びつくように抱き着いてきた。


「ちゃんと生きてるんだな」

「はい。元気ですよ」

「……うん。本当に、よかった」


紫苑さんは笑った。


いやあ。4人とも、朝から深刻だなあ。ていうか、3人がなぜか俺を睨んでいるのだが。どうすればいいんだろう。俺は少し考えた。どうやったらみんなを安心させられるのか。ええい、めんどくせえ。


「よし。じゃあ、みんなまとめて抱き締めてやろうか?」

「……えっ?」


レイナが目を丸くした。


「右腕も戻ったし、前よりいっぱい抱き締められるぞ」


こはくが顔を赤くした。


「……いいのぉ?」

「おう」

「……じゃあ、あたし、ぎゅってしてほしいなぁ」

「いいぞ」


俺が両腕を広げると、こはくが飛びついてきた。レイナも少し迷っていたが、俺の左側へ体を寄せた。いぶきは顔を赤くしたまま、俺の背中へ腕を回した。紫苑さんも相変わらず笑いながら抱きついていた。


「……うおっ」


4人に抱き締められると、結構苦しい。でも、みんな嬉しそうだからいいか。






朝飯を食べ終えたころ、レイナのスマートフォンが鳴った。


「……探索者協会からだわ」


レイナは画面を確認してから電話に出た。


「はい、御影院です」


しばらく話を聞いていたが、だんだん眉をひそめ始めた。


「……精密検査ですか?」


ん? 俺のことかな。

レイナが何か言いかけて、黙った。


「……分かりました。本人と相談します」


電話を切る。


「……朔斗」

「どうした?」

「協会から、あなたの検査をしたいそうよ」

「検査?」

「ええ。昨日、死亡したあとに生き返った理由を調べたいんですって。血液検査と魔力測定、それから体の詳しい検査も必要らしいわ」

「へえ」


俺はうなずいた。


「いいんじゃないか? 俺も体がどうなってるのか気になるし」

『馬鹿者!』

「うおっ!」


突然、頭の中でグランが叫んだ。びっくりした。


「……朔斗?」


レイナが俺を見た。


「どうしたの?」

「あ、いや、何でもない」

『何でもないではない! 絶対に検査を受けるな!』

「……えっ?」

『お前、自分の体に我の血が混ざっていることを忘れたのか!』


そうだった。1年前に倒した災厄級の魔物、グランゼル。そいつの血が俺の傷口から入り込み、今の体になったんだっけ。


『血を調べられれば、人間ではないと判明する。魔力を測られても同じだ』

「……それって、まずいのか?」

『まずいに決まっておろう! 災厄級の力を持つ存在など、人間どもが放っておくものか!』

「……そうなのか?」

『お前は魔物として討伐対象にされるぞ!』

「……マジかよ」


せっかく生き返ったのに、また殺されそうになるのか。いやあ、参ったな。しかも、俺はまだ復帰試験に合格していない。ここで討伐対象になったら、ダンジョン配信どころじゃないぞ。


『検査は断れ。絶対に血を渡すな』

「……分かった」


俺はレイナへ顔を向けた。


「あのさ、やっぱり検査はやめとくわ」

「……え?」

「今日は家でのんびりしたいし」


レイナが首をかしげた。


「……朔斗?」

「ん?」

「さっきまで、受けるつもりだったでしょう?」

「まあ、そうなんだけどさ」

「……何か隠しているの?」


おっと。さすがレイナだな。昔から、こういうところは鋭いんだよな。


「……ちょっとな」


レイナの顔が変わった。


「……朔斗。ちゃんと話してちょうだい」


こはくも俺の右腕を握った。


「何かあったのぉ?」


いぶきと紫苑さんも、俺を見ている。

うーん。どうしようかな。まあ、みんなになら話してもいいか。


『待て。むやみに話すな』

「でも、こいつらは仲間だぞ?」

『……それは分かっておるが』

「大丈夫だって」


俺は4人に笑いかけた。


「実はさ、俺の体って、もう普通の人間じゃないらしいんだよ」


4人の動きが止まった。


「……何ですって?」


レイナが聞き返した。


「1年前に倒した災厄級の血が、俺の体に混ざったんだってさ」

「……血?」

「おう。それで、傷が治るのも早くなったし、死んでも生き返るようになったらしい。今も俺の中にそのグランゼルがいて、喋れるんだよ」


こはくが俺の右腕を見つめた。


「……朔斗くん」

「ん?」

「それって、朔斗くんの体が魔物になっちゃったってことぉ……?」

「まあ、人間と魔物が混ざった感じなのかな」

「……そんな」


こはくの顔から血の気が引いた。レイナも何も言わない。いぶきは拳を握り締め、紫苑さんは俺の右腕を見ていた。


「でもさ、悪いことばかりじゃないぞ」


俺は右手を上げた。


「ほら、右腕も戻ったし。これでもう、みんなに心配かけなくて済むだろ?」


レイナの目から涙が落ちた。


「……朔斗」

「ん?」

「あなた、私たちを守るために、人間の体まで失ったの……?」

「いや、失ったっていうか、ちょっと変わっただけだぞ」

「……私が」


レイナは顔を覆った。


「私が、1年前にあの道を選ばなければ……」

「またその話か。レイナのせいじゃないって」

「でも、あなたは……!」


レイナは泣きながら俺を見た。


「右腕だけじゃなかったのね……。私たちのために、体まで変わってしまったのね……」


こはくも泣き出した。


「あたしが、ちゃんと治してあげられてたらぁ……」

「こはく?」

「朔斗くん、魔物の力なんて借りなくて済んだんだよねぇ……」


こはくは俺の右手を両手で包んだ。


「ごめんねぇ……。あたし、回復担当だったのにぃ……」


いぶきもうつむいた。


「……自分が弱かった」

「いぶきまで、どうしたんだよ」

「自分が盾になれていれば、お前は右腕を失わずに済んだ」


いぶきは俺の手を握った。


「人間の体まで失った。自分には、守る資格がない……」


紫苑さんも俺を見つめていた。


「……朔斗くん」

「はい」

「昨日、アタシを守るために死んだじゃん……」

「まあ、そうかと言われればそうなるんですかね」

「そのせいで、生き返って右腕が戻ったことが協会に知られちゃったんだよね……」

「まあ、そうですね」

「……アタシのせいだ」


紫苑さんの目から涙があふれた。


「アタシが弱かったせいで、ごめん……」


4人とも泣いてしまった。

いやあ。俺としては、右腕が戻って嬉しいんだけどな。こんな体になったことも、むしろラッキーだと思ってるくらいで。


「みんな、そんなに気にしなくてもいいって。俺は元気だし、前より強くなったんだからさ」


レイナが俺の胸へ顔を押しつけた。


「……あなたは、いつもそう言うのね」

「えっ?」

「大丈夫だって笑って、私たちを守って、傷だらけになって……」


レイナは俺の服を握った。


「……もう嫌なの」


声が震えていた。


「あなたがいなくなるくらいなら、私は何だってするわ……」

「……レイナ?」

「あなたが人間でも、魔物でも関係ないの」


レイナは俺を見上げた。


「私は、あなたが好きよ」


……ん?


「……えっ?」

「ずっと前から好きだったの。仲間としてじゃないわ。1人の男の人として、あなたのことが好きなのよ……」


レイナの顔が赤くなった。でも、俺から目をそらさなかった。


「だから、もう私を置いていかないで……」

「……マジか」


レイナが俺を? そんなふうに思ってくれてたのか。


こはくも俺の右腕へ抱きついてきた。


「……あたしもだよぉ」

「こはく?」

「あたしも、朔斗くんが大好きなのぉ……」


こはくは泣きながら笑った。


「ずっとお嫁さんになりたかったんだよぉ。1年前も、帰ってきたら告白しようって決めてたのに……」


また涙が落ちた。


「もう会えないと思って、何も言えなくなっちゃったんだもん……」


こはくは俺の手を握り締めた。


「だから、今度こそ言うねぇ。あたし、朔斗くんのお嫁さんになりたいよぉ……」


俺は何も言えなかった。いぶきも顔を赤くしている。


「……自分も同じだ」

「いぶき?」

「自分も、お前が好きだ」


いぶきは俺の左手を握った。


「……仲間としてではない。お前と一緒に生きていきたい」


声が震えた。


「自分には、お前を守る資格がないのかもしれない。それでも、そばにいたいんだ……」


紫苑さんは3人を見つめていた。それから、ゆっくり俺の隣へ来た。


「……アタシも」

「紫苑さん?」

「アタシも、朔斗くんのことが好き」


紫苑さんは顔を赤くした。


「出会ってまだ短いし、アンタのことも全部知ってるわけじゃない。でも、もっと一緒にいたいんだ」


目に涙が浮かんだ。


「……だから、アタシも忘れないでね」


なんだか、とんでもないことになったな。4人とも、俺のことを好きだって言ってくれている。しかも、仲間としてじゃなくて、恋愛の意味で。嬉しくないわけがない。


でも、どう答えたらいいんだ?


俺が考えていると、レイナが涙を拭った。


「……今すぐ答えを出さなくてもいいわ」

「……」

「でも、私たちの気持ちは忘れないで」


こはくもうなずいた。


「いつか、お返事してねぇ……」


いぶきは俺の手を握ったまま、静かに言った。


「……待っている」


紫苑さんも笑った。


「アタシも、もっとアンタと仲良くなりたいしね」


俺は4人を見た。


「……ありがとう」


自然と笑顔になった。


「みんなにそんなふうに思ってもらえて、嬉しいよ」


4人も笑ってくれた。今日は朝からすごいことになったな。でも、教会がいつまで俺をスルーし続けてくれるか……。ま、そんときゃそんときか。





その日の昼。


俺はリビングのソファに座って、テレビを見ていた。


4人は、なぜか俺を囲むように座っている。レイナは隣でスマートフォンを操作していた。こはくは俺の右腕を抱き締めている。いぶきは窓の近くに立ち、外を見張っていた。紫苑さんは俺の反対側に座っている。


「……みんな、もう少しのんびりしないか?」


俺がそう言うと、レイナが顔を上げた。


「今は、それどころじゃないわ」

「そうなのか?」

「協会が、あなたの検査を求めているのよ。いつ職員が来るか分からないでしょう」

「まあ、そうか」

「だから、しばらく外出は禁止よ」

「……えっ?」


レイナは真剣だった。


「それだとダンジョンにも行けないじゃん」

「……朔斗」


レイナの目に涙が浮かんだ。


「あなた、まだダンジョンのことを考えているの?」

「そりゃ、探索者だし」


レイナはうつむいた。


「あなたから好きなことまで奪いたくない。でも今は我慢して……」


俺の右手を握る。


「また失うのが怖いのよ……」


こはくも俺の腕を抱き締め直した。


「あたし、ずっと家にいてもいいよぉ。朔斗くんと一緒なら、何でも楽しいもん」


いぶきもうなずく。


「……自分が必要なものを買ってくる。お前は外に出るな」


紫苑さんも笑った。


「アタシも協会に話をしてみるよ。S級だから、少しは力になれると思うし」


頼もしいな。でも、みんな仕事は大丈夫なんだろうか。そう思っていたら、テレビの画面が切り替わった。


『緊急ニュースです』


「……ん?」


俺はテレビを見た。そこには、見覚えのある顔が映っていた。


「……あれ、俺じゃん」


昨日の処理室だった。金属製の台に寝かされた俺の右肩から、白い光が広がっている。そこから腕が伸び、指ができていく。俺が起き上がったところで、映像が止まった。


『昨日、死亡が確認された探索者・鳴瀬朔斗さんが、意識を取り戻していたことが分かりました』

『映像では、1年前に失われた右腕が再生する様子も確認できます』

『探索者協会は、映像の流出について調査を進めています』


「……おお」


俺は思わず笑った。


「こんなの撮られてたのか」


しかし4人は笑っていなかった。レイナが立ち上がる。


「……どうして、こんな映像が外に出ているの?」


こはくが俺の右腕を抱き締めた。


「……やだぁ」


いぶきは窓のカーテンを閉めた。紫苑さんはスマートフォンを取り出し、協会へ電話をかけ始めた。パソコンを開くと、ネット上の反応が紹介されていた。


【鳴瀬朔斗、また生き返ったのか?】

【昨日、死亡確認されたってニュースになってたぞ】

【右腕が生えてるんだけど】

【人間やめとる】

【東京を救った英雄だろ】

【でも、これって魔物の再生能力じゃないの?】

【災厄級と何か関係あるのか?】

【怖すぎる】

【いや、あの人がいなかったら東京は終わってただろ】

【どうなってんだよ】


「……朔斗」

「ん?」

「絶対に外へ出ないで」

「……お、おう」


レイナは俺の手を握った。


「お願い。今は、私たちに守らせて……」


こはくも泣きそうな顔になっている。


「あたし、朔斗くんが連れていかれるの嫌だよぉ……」


いぶきは俺の前へ立った。


「……誰が来ても、通さない」


紫苑さんも電話を終えた。


「……協会、かなり騒ぎになってるみたい」

「そうなんですか?」

「うん。朔斗くんの検査を早くやれって声も出てるらしい」


参ったな。俺は別に悪いことをするつもりなんて1ミリもないんだけど。それなのに討伐対象になるかもしれないなんて、困った話だ。


『……だから言っただろう』


グランの声が聞こえた。


『お前の力は、人間どもには理解できぬ。しばらくは大人しくしておけ』

「……分かったよ。でも、逃げてると余計にこじれないか?」

『お前はお人好しすぎる』


俺はソファに座り直した。

まあ、たまには家でのんびりするのも悪くないか。そう思って、リモコンを手に取った。そのときだった。


『速報です。東京ダンジョンの第45階層で、探索者パーティーがモンスターの群れに襲われています』

「……ん?」


テレビ画面には、見覚えのあるダンジョンの通路が映っていた。大勢のモンスターが走り回り、探索者たちが逃げている。


『現在、A級探索者パーティーの絶界零区(セクター・ゼロ)が戦闘中です。配信映像によりますと、複数の探索者が負傷している模様です』


聞いたことがある。A級の実力者たちが集まった、人気のダンジョン配信パーティーだ。画面の中では、1人の男性探索者が大きな剣を構えていた。仲間たちは後ろへ逃げている。


『お前ら、先に行け!』


男性が叫んだ。


『俺がここで時間を稼ぐ!』


俺は思わず身を乗り出した。


「……おいおい」


男性の腕から血が流れている。足も怪我しているらしい。それでも、仲間たちを逃がすためにモンスターへ向かっていく。


パソコン画面でダンジョン配信を流すと、そこにはコメントが流れていた。


【待て、1人で残るな】

【1年前の鳴瀬と同じじゃん】

【誰か助けに行ってくれ】

【救助隊はまだなのか?】

【このままだと全滅するぞ】


確かにこのままじゃヤバい。早く助けに行かないと。


「……朔斗」


レイナの顔から血の気が引いた。


「あなた、何を考えているの?」

「いや、助けないとまずいなって」

「……駄目よ」


レイナは俺の右腕をつかんだ。


「今、外へ出たら、あなたの正体が知られてしまうかもしれないのよ」

「分かってる」

「だったら……!」

「でも、この人たち死ぬぞ」

「教会が探索者を派遣するわ」

「ちんたらしてたら間に合わない」


レイナは何も言えなくなった。こはくも泣きそうな顔で俺を見ている。


「朔斗くん。また、あたしたちを置いていくのぉ……?」


いぶきは俺の前へ立った。


「……自分が行く。お前はここにいろ」

「いや、いぶき1人じゃ危ないだろ」

「それでも、自分がお前を守りたいんだ」


いぶきの声が震えている。紫苑さんも刀を握っていた。


「……アタシが行くよ。たぶん救助要請が来るはずだし」

「でも、紫苑さんも昨日あんなに怪我したじゃないですか」

「大丈夫でしょ、これくらい」

「だったら、俺も一緒に行きますよ」


紫苑さんは唇をかんだ。


「アンタ、本当に……。どうして、そんなに自分のことを大切にできないの……?」


そう言われてもなあ。自分のことを大切にしていないつもりはない。ただ、目の前で人が死にそうになっているなら、助けたいんだよ。


「……みんな。俺は最強になったんだ。今度こそ信じてくれ」


俺は4人を見た。


「絶対に大丈夫だって」


レイナが首を振った。


「その言葉、もう聞きたくないの……」


そう言えば、昨日も同じようなことを言って死んだんだった。それなら、ちゃんと説明しないとな。


「俺さ、新しいスキルを手に入れたんだよ」

「……スキル?」

「おう。【因果掌握】ってやつ」


4人が俺を見つめた。


「簡単に言うと、攻撃が当たるかどうかとか、誰が攻撃を受けるかとか、そういうのを変えられるらしいんだ」


レイナが目を丸くした。


「……そんなことができるの?」

「おう。グランが教えてくれた」

『我は、そこまで使えるとは言っておらぬぞ』

「……えっ?」

『お前が実際にどこまで扱えるかは、まだ分からぬ』


そうなのか。まあでも、実践で試してみないと分からないよな。

俺は4人に笑いかけた。


「とにかく、今度は俺が攻撃を受けなくても、みんなを守れるかもしれないんだ」


レイナは少し考えた。


「……かもしれない、なのね」

「いや、でもマジで自信がある。分かるんだよ、俺ならできる」


こはくの目に涙が浮かんだ。


「……じゃあ、また自分の体で試すつもりなのぉ?」

「いやいや、そうじゃないって」


俺は首を振った。


「俺だって、もうみんなを泣かせたくないんだよ」


4人の動きが止まった。


「だからさ、1人で行くつもりはないぞ」


俺は笑った。


「みんなも一緒に来てくれないか?」


レイナが目を見開いた。


「……私たちも?」

「おう。レイナが作戦を考えて、こはくが怪我人を助ける。いぶきは盾でみんなを守ってくれ。紫苑さんにも手伝ってもらえたら心強いしさ」


俺は4人を見た。


「俺たちなら、きっと全員助けられるだろ?」


レイナの目から涙が落ちた。


「朔斗。あなた、本当にずるい人ね……」

「えっ?」


レイナは俺の右手を握った。


「私たち、あなたを外へ出したくないのに……」


涙が頬を伝った。


「そんなこと言われたら、一緒に行くしかないじゃない……」


こはくも抱きついてきた。


「……あたしも行くよぉ」

「おう」

「でも、絶対に1人で戦わないでねぇ……」

「分かった」


いぶきは盾を手に取った。


「……今度こそ、自分に守らせてくれ」

「頼りにしてるぞ」


紫苑さんも涙を拭った。


「……アタシも行く」

「ありがとうございます」

「でも約束して。危なくなったら、アタシたちを頼って」

「はい」


俺は4人を見渡した。

やっぱり仲間っていいな。1年前は、3人を逃がして1人で戦った。昨日は、紫苑さんを守るために俺が攻撃を全部受けた。でも、今度は違う。みんなと一緒に戦える。


「よし。じゃあ、行こうぜ」

『……待て』


頭の中でグランが声を上げた。


「ん?」

『お前、先ほどの話を忘れたのか? 今は人間どもに正体を疑われているのだぞ』

「覚えてるって」

『それなのに、わざわざ人前で我の力を使うつもりか?』

「まあ、そうなるかもな」

『……討伐対象にされるぞ』


俺は少し考えた。

確かに、それは困る。でも、テレビの中では、まだ助けを待っている人たちがいる。


「……まあ、何とかなるだろ」

『お前という男は……!』


グランがあきれた声を出した。


俺は笑った。


「困ってる人がいるんだから、助けたいじゃん」

『……本当に変わらぬな』

「そうか?」

『ああ。1年前、我と戦ったときから何も変わっておらぬ』

「はは。そうかもな」


俺は4人へ向き直った。


「じゃあ、みんな。準備しようぜ」


レイナは俺の右手を握った。こはくは左腕へ抱きついた。いぶきは盾を背負い、紫苑さんは刀を腰に差した。俺たちは、また一緒にダンジョンへ向かうことになった。


今度は、誰も置いていかない。全員で帰ってくるつもりだ。


……ただ、1つだけ気になることがある。


さっきの配信に映っていたのは、第45階層だった。1年前、俺が右腕を失った場所だ。しかも、あそこで暴れている魔物たちは、何かから逃げているようにも見えた。


「……グラン」

『何だ?』

「あの魔物たち、なんか様子がおかしくないか?」

『……ようやく気づいたか』

「えっ?」

『あやつらは、人間を追いかけているのではない』

「……どういうことだ?」


グランの声が低くなった。


『逃げているのだ』


俺はテレビを見た。画面の奥で、ダンジョンの壁が大きく揺れていた。その向こうから、重い足音が聞こえてくる。


ドン。

ドン。

ドン。


配信者の悲鳴が響いた。


『……何だ、あれは?』


俺は目を細めた。壁の向こうに、巨大な影が見えた。さっきまで逃げ回っていた魔物たちが、一斉に通路の奥へ走り出す。そして、画面が激しく揺れた。グランが小さくつぶやいた。


『……まさか、まだ生き残っていたとはな』

「……グラン?」


返事はなかった。俺はテレビを見つめた。どうやら、今回の救助は思ったより大変になりそうだ。

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