第6話 生き返った翌朝、美少女4人と添い寝していた俺、全員から告白されたけど、災厄級の魔物と融合したせいで討伐対象になるらしい。それでも彼らを救うため、再びダンジョンへ向かう
「……ん?」
翌朝、目を覚ますと、俺の右腕にこはくが抱きついていた。左腕にはレイナがしがみついている。足元にはいぶきが寝ていて、反対側では紫苑さんが俺のズボンを握っていた。
「……なんで4人とも俺のベッドで寝てるんだ?」
どうしてこうなったんだっけ。昨日俺は、1年前に倒した厄災級魔物のグランゼルの力で生き返った。なくなった右腕も戻ってきたし、新しいスキル【因果掌握】まで手に入った。
それで、みんなと再会して……。
「ああ、そうだった」
マンションに帰ってから、昨日の夜、4人が俺のそばで寝たいと言い出したんだ。俺が眠っている間に、また死んでしまうかもしれないと心配していた。さすがにそんなことはないと思いつつ、みんな泣きそうだったから一緒に寝ることにしたんだった。
「いやあ、みんな心配性だなあ」
俺は笑いながら、戻ってきた右手を開いた。ちゃんと動く。すると、こはくが寝言を言った。
「朔斗くん、行かないでぇ……」
「どこにも行かないって」
俺が頭をなでると、こはくは安心したように俺の右腕へ頬を寄せた。反対側では、レイナが俺の左腕をさらに強く抱き締めた。どうやら、まだ誰も起きそうにない。
「……さて、どうやってベッドから出ようかな」
俺はそっと左腕を動かした。
「……朔斗?」
レイナが目を開けた。
「おはよう、レイナ」
レイナは俺の顔をじっと見つめた。それから、俺の胸へ耳を当てた。
「……よかった」
「どうした?」
「ちゃんと心臓が動いているわ……」
「そりゃ、生きてるからな」
レイナは何も言わなかった。俺の胸に顔を押しつけたまま、左腕を抱き締め直した。
「……もう少し、このままでいさせて」
「いいけど、そろそろ朝飯を食いたいんだよな」
「私が作るわ。だから、あなたは寝ていて」
「いや、俺も手伝うよ。右腕も戻ったしさ」
そう言って右手を上げると、レイナの目に涙が浮かんだ。
「……本当に、戻ったのね」
「おう。ほら、指も動くぞ」
俺が指を開いたり閉じたりすると、レイナはその手を両手で包んだ。
こはくも目を覚ました。
「……朔斗くん?」
「おはよう」
こはくは俺の顔を確認すると、すぐに抱きついてきた。
「……よかったぁ」
「お、おい。そんなに心配しなくても」
「だってぇ……」
こはくは俺の右腕へ頬を寄せた。
「昨日、冷たくなってたんだもん……。何回呼んでも起きてくれなかったんだよぉ……」
涙が俺の腕に落ちた。
「もう嫌だよぉ……。あんなの、2度と嫌だよぉ……」
「分かったって。これからは気をつけるよ」
「……約束だよぉ?」
「おう」
こはくはようやく笑った。でも、右腕は放してくれなかった。
「……起きたのか」
足元からいぶきの声が聞こえた。
「おはよう、いぶき」
いぶきは体を起こし、俺の顔を確認した。
「……眠れたか?」
「ぐっすりだぞ。いぶきは?」
「……何度か起きた」
「なんで?」
「お前が息をしているか、確かめていた」
「……ええ?」
そんなことしてたのか。
「いやあ、俺は大丈夫だって」
「……昨日も、そう言っていた」
いぶきがうつむいた。
「なのに、お前は死んだ」
「……そうだったな」
「……だから、信じたくても怖かったんだ」
いぶきの目から涙が落ちた。
「自分の目の前で、またお前が動かなくなったら……」
俺は右手を伸ばして、いぶきの肩を叩いた。
「これからは無茶しないようにするよ」
「……本当だな?」
「おう」
いぶきは俺の手を握った。
「……信じる」
最後に紫苑さんが目を覚ました。
「……おはよ、朔斗くん」
「おはようございます」
紫苑さんは俺の顔を見て少し笑った。そして飛びつくように抱き着いてきた。
「ちゃんと生きてるんだな」
「はい。元気ですよ」
「……うん。本当に、よかった」
紫苑さんは笑った。
いやあ。4人とも、朝から深刻だなあ。ていうか、3人がなぜか俺を睨んでいるのだが。どうすればいいんだろう。俺は少し考えた。どうやったらみんなを安心させられるのか。ええい、めんどくせえ。
「よし。じゃあ、みんなまとめて抱き締めてやろうか?」
「……えっ?」
レイナが目を丸くした。
「右腕も戻ったし、前よりいっぱい抱き締められるぞ」
こはくが顔を赤くした。
「……いいのぉ?」
「おう」
「……じゃあ、あたし、ぎゅってしてほしいなぁ」
「いいぞ」
俺が両腕を広げると、こはくが飛びついてきた。レイナも少し迷っていたが、俺の左側へ体を寄せた。いぶきは顔を赤くしたまま、俺の背中へ腕を回した。紫苑さんも相変わらず笑いながら抱きついていた。
「……うおっ」
4人に抱き締められると、結構苦しい。でも、みんな嬉しそうだからいいか。
朝飯を食べ終えたころ、レイナのスマートフォンが鳴った。
「……探索者協会からだわ」
レイナは画面を確認してから電話に出た。
「はい、御影院です」
しばらく話を聞いていたが、だんだん眉をひそめ始めた。
「……精密検査ですか?」
ん? 俺のことかな。
レイナが何か言いかけて、黙った。
「……分かりました。本人と相談します」
電話を切る。
「……朔斗」
「どうした?」
「協会から、あなたの検査をしたいそうよ」
「検査?」
「ええ。昨日、死亡したあとに生き返った理由を調べたいんですって。血液検査と魔力測定、それから体の詳しい検査も必要らしいわ」
「へえ」
俺はうなずいた。
「いいんじゃないか? 俺も体がどうなってるのか気になるし」
『馬鹿者!』
「うおっ!」
突然、頭の中でグランが叫んだ。びっくりした。
「……朔斗?」
レイナが俺を見た。
「どうしたの?」
「あ、いや、何でもない」
『何でもないではない! 絶対に検査を受けるな!』
「……えっ?」
『お前、自分の体に我の血が混ざっていることを忘れたのか!』
そうだった。1年前に倒した災厄級の魔物、グランゼル。そいつの血が俺の傷口から入り込み、今の体になったんだっけ。
『血を調べられれば、人間ではないと判明する。魔力を測られても同じだ』
「……それって、まずいのか?」
『まずいに決まっておろう! 災厄級の力を持つ存在など、人間どもが放っておくものか!』
「……そうなのか?」
『お前は魔物として討伐対象にされるぞ!』
「……マジかよ」
せっかく生き返ったのに、また殺されそうになるのか。いやあ、参ったな。しかも、俺はまだ復帰試験に合格していない。ここで討伐対象になったら、ダンジョン配信どころじゃないぞ。
『検査は断れ。絶対に血を渡すな』
「……分かった」
俺はレイナへ顔を向けた。
「あのさ、やっぱり検査はやめとくわ」
「……え?」
「今日は家でのんびりしたいし」
レイナが首をかしげた。
「……朔斗?」
「ん?」
「さっきまで、受けるつもりだったでしょう?」
「まあ、そうなんだけどさ」
「……何か隠しているの?」
おっと。さすがレイナだな。昔から、こういうところは鋭いんだよな。
「……ちょっとな」
レイナの顔が変わった。
「……朔斗。ちゃんと話してちょうだい」
こはくも俺の右腕を握った。
「何かあったのぉ?」
いぶきと紫苑さんも、俺を見ている。
うーん。どうしようかな。まあ、みんなになら話してもいいか。
『待て。むやみに話すな』
「でも、こいつらは仲間だぞ?」
『……それは分かっておるが』
「大丈夫だって」
俺は4人に笑いかけた。
「実はさ、俺の体って、もう普通の人間じゃないらしいんだよ」
4人の動きが止まった。
「……何ですって?」
レイナが聞き返した。
「1年前に倒した災厄級の血が、俺の体に混ざったんだってさ」
「……血?」
「おう。それで、傷が治るのも早くなったし、死んでも生き返るようになったらしい。今も俺の中にそのグランゼルがいて、喋れるんだよ」
こはくが俺の右腕を見つめた。
「……朔斗くん」
「ん?」
「それって、朔斗くんの体が魔物になっちゃったってことぉ……?」
「まあ、人間と魔物が混ざった感じなのかな」
「……そんな」
こはくの顔から血の気が引いた。レイナも何も言わない。いぶきは拳を握り締め、紫苑さんは俺の右腕を見ていた。
「でもさ、悪いことばかりじゃないぞ」
俺は右手を上げた。
「ほら、右腕も戻ったし。これでもう、みんなに心配かけなくて済むだろ?」
レイナの目から涙が落ちた。
「……朔斗」
「ん?」
「あなた、私たちを守るために、人間の体まで失ったの……?」
「いや、失ったっていうか、ちょっと変わっただけだぞ」
「……私が」
レイナは顔を覆った。
「私が、1年前にあの道を選ばなければ……」
「またその話か。レイナのせいじゃないって」
「でも、あなたは……!」
レイナは泣きながら俺を見た。
「右腕だけじゃなかったのね……。私たちのために、体まで変わってしまったのね……」
こはくも泣き出した。
「あたしが、ちゃんと治してあげられてたらぁ……」
「こはく?」
「朔斗くん、魔物の力なんて借りなくて済んだんだよねぇ……」
こはくは俺の右手を両手で包んだ。
「ごめんねぇ……。あたし、回復担当だったのにぃ……」
いぶきもうつむいた。
「……自分が弱かった」
「いぶきまで、どうしたんだよ」
「自分が盾になれていれば、お前は右腕を失わずに済んだ」
いぶきは俺の手を握った。
「人間の体まで失った。自分には、守る資格がない……」
紫苑さんも俺を見つめていた。
「……朔斗くん」
「はい」
「昨日、アタシを守るために死んだじゃん……」
「まあ、そうかと言われればそうなるんですかね」
「そのせいで、生き返って右腕が戻ったことが協会に知られちゃったんだよね……」
「まあ、そうですね」
「……アタシのせいだ」
紫苑さんの目から涙があふれた。
「アタシが弱かったせいで、ごめん……」
4人とも泣いてしまった。
いやあ。俺としては、右腕が戻って嬉しいんだけどな。こんな体になったことも、むしろラッキーだと思ってるくらいで。
「みんな、そんなに気にしなくてもいいって。俺は元気だし、前より強くなったんだからさ」
レイナが俺の胸へ顔を押しつけた。
「……あなたは、いつもそう言うのね」
「えっ?」
「大丈夫だって笑って、私たちを守って、傷だらけになって……」
レイナは俺の服を握った。
「……もう嫌なの」
声が震えていた。
「あなたがいなくなるくらいなら、私は何だってするわ……」
「……レイナ?」
「あなたが人間でも、魔物でも関係ないの」
レイナは俺を見上げた。
「私は、あなたが好きよ」
……ん?
「……えっ?」
「ずっと前から好きだったの。仲間としてじゃないわ。1人の男の人として、あなたのことが好きなのよ……」
レイナの顔が赤くなった。でも、俺から目をそらさなかった。
「だから、もう私を置いていかないで……」
「……マジか」
レイナが俺を? そんなふうに思ってくれてたのか。
こはくも俺の右腕へ抱きついてきた。
「……あたしもだよぉ」
「こはく?」
「あたしも、朔斗くんが大好きなのぉ……」
こはくは泣きながら笑った。
「ずっとお嫁さんになりたかったんだよぉ。1年前も、帰ってきたら告白しようって決めてたのに……」
また涙が落ちた。
「もう会えないと思って、何も言えなくなっちゃったんだもん……」
こはくは俺の手を握り締めた。
「だから、今度こそ言うねぇ。あたし、朔斗くんのお嫁さんになりたいよぉ……」
俺は何も言えなかった。いぶきも顔を赤くしている。
「……自分も同じだ」
「いぶき?」
「自分も、お前が好きだ」
いぶきは俺の左手を握った。
「……仲間としてではない。お前と一緒に生きていきたい」
声が震えた。
「自分には、お前を守る資格がないのかもしれない。それでも、そばにいたいんだ……」
紫苑さんは3人を見つめていた。それから、ゆっくり俺の隣へ来た。
「……アタシも」
「紫苑さん?」
「アタシも、朔斗くんのことが好き」
紫苑さんは顔を赤くした。
「出会ってまだ短いし、アンタのことも全部知ってるわけじゃない。でも、もっと一緒にいたいんだ」
目に涙が浮かんだ。
「……だから、アタシも忘れないでね」
なんだか、とんでもないことになったな。4人とも、俺のことを好きだって言ってくれている。しかも、仲間としてじゃなくて、恋愛の意味で。嬉しくないわけがない。
でも、どう答えたらいいんだ?
俺が考えていると、レイナが涙を拭った。
「……今すぐ答えを出さなくてもいいわ」
「……」
「でも、私たちの気持ちは忘れないで」
こはくもうなずいた。
「いつか、お返事してねぇ……」
いぶきは俺の手を握ったまま、静かに言った。
「……待っている」
紫苑さんも笑った。
「アタシも、もっとアンタと仲良くなりたいしね」
俺は4人を見た。
「……ありがとう」
自然と笑顔になった。
「みんなにそんなふうに思ってもらえて、嬉しいよ」
4人も笑ってくれた。今日は朝からすごいことになったな。でも、教会がいつまで俺をスルーし続けてくれるか……。ま、そんときゃそんときか。
その日の昼。
俺はリビングのソファに座って、テレビを見ていた。
4人は、なぜか俺を囲むように座っている。レイナは隣でスマートフォンを操作していた。こはくは俺の右腕を抱き締めている。いぶきは窓の近くに立ち、外を見張っていた。紫苑さんは俺の反対側に座っている。
「……みんな、もう少しのんびりしないか?」
俺がそう言うと、レイナが顔を上げた。
「今は、それどころじゃないわ」
「そうなのか?」
「協会が、あなたの検査を求めているのよ。いつ職員が来るか分からないでしょう」
「まあ、そうか」
「だから、しばらく外出は禁止よ」
「……えっ?」
レイナは真剣だった。
「それだとダンジョンにも行けないじゃん」
「……朔斗」
レイナの目に涙が浮かんだ。
「あなた、まだダンジョンのことを考えているの?」
「そりゃ、探索者だし」
レイナはうつむいた。
「あなたから好きなことまで奪いたくない。でも今は我慢して……」
俺の右手を握る。
「また失うのが怖いのよ……」
こはくも俺の腕を抱き締め直した。
「あたし、ずっと家にいてもいいよぉ。朔斗くんと一緒なら、何でも楽しいもん」
いぶきもうなずく。
「……自分が必要なものを買ってくる。お前は外に出るな」
紫苑さんも笑った。
「アタシも協会に話をしてみるよ。S級だから、少しは力になれると思うし」
頼もしいな。でも、みんな仕事は大丈夫なんだろうか。そう思っていたら、テレビの画面が切り替わった。
『緊急ニュースです』
「……ん?」
俺はテレビを見た。そこには、見覚えのある顔が映っていた。
「……あれ、俺じゃん」
昨日の処理室だった。金属製の台に寝かされた俺の右肩から、白い光が広がっている。そこから腕が伸び、指ができていく。俺が起き上がったところで、映像が止まった。
『昨日、死亡が確認された探索者・鳴瀬朔斗さんが、意識を取り戻していたことが分かりました』
『映像では、1年前に失われた右腕が再生する様子も確認できます』
『探索者協会は、映像の流出について調査を進めています』
「……おお」
俺は思わず笑った。
「こんなの撮られてたのか」
しかし4人は笑っていなかった。レイナが立ち上がる。
「……どうして、こんな映像が外に出ているの?」
こはくが俺の右腕を抱き締めた。
「……やだぁ」
いぶきは窓のカーテンを閉めた。紫苑さんはスマートフォンを取り出し、協会へ電話をかけ始めた。パソコンを開くと、ネット上の反応が紹介されていた。
【鳴瀬朔斗、また生き返ったのか?】
【昨日、死亡確認されたってニュースになってたぞ】
【右腕が生えてるんだけど】
【人間やめとる】
【東京を救った英雄だろ】
【でも、これって魔物の再生能力じゃないの?】
【災厄級と何か関係あるのか?】
【怖すぎる】
【いや、あの人がいなかったら東京は終わってただろ】
【どうなってんだよ】
「……朔斗」
「ん?」
「絶対に外へ出ないで」
「……お、おう」
レイナは俺の手を握った。
「お願い。今は、私たちに守らせて……」
こはくも泣きそうな顔になっている。
「あたし、朔斗くんが連れていかれるの嫌だよぉ……」
いぶきは俺の前へ立った。
「……誰が来ても、通さない」
紫苑さんも電話を終えた。
「……協会、かなり騒ぎになってるみたい」
「そうなんですか?」
「うん。朔斗くんの検査を早くやれって声も出てるらしい」
参ったな。俺は別に悪いことをするつもりなんて1ミリもないんだけど。それなのに討伐対象になるかもしれないなんて、困った話だ。
『……だから言っただろう』
グランの声が聞こえた。
『お前の力は、人間どもには理解できぬ。しばらくは大人しくしておけ』
「……分かったよ。でも、逃げてると余計にこじれないか?」
『お前はお人好しすぎる』
俺はソファに座り直した。
まあ、たまには家でのんびりするのも悪くないか。そう思って、リモコンを手に取った。そのときだった。
『速報です。東京ダンジョンの第45階層で、探索者パーティーがモンスターの群れに襲われています』
「……ん?」
テレビ画面には、見覚えのあるダンジョンの通路が映っていた。大勢のモンスターが走り回り、探索者たちが逃げている。
『現在、A級探索者パーティーの絶界零区が戦闘中です。配信映像によりますと、複数の探索者が負傷している模様です』
聞いたことがある。A級の実力者たちが集まった、人気のダンジョン配信パーティーだ。画面の中では、1人の男性探索者が大きな剣を構えていた。仲間たちは後ろへ逃げている。
『お前ら、先に行け!』
男性が叫んだ。
『俺がここで時間を稼ぐ!』
俺は思わず身を乗り出した。
「……おいおい」
男性の腕から血が流れている。足も怪我しているらしい。それでも、仲間たちを逃がすためにモンスターへ向かっていく。
パソコン画面でダンジョン配信を流すと、そこにはコメントが流れていた。
【待て、1人で残るな】
【1年前の鳴瀬と同じじゃん】
【誰か助けに行ってくれ】
【救助隊はまだなのか?】
【このままだと全滅するぞ】
確かにこのままじゃヤバい。早く助けに行かないと。
「……朔斗」
レイナの顔から血の気が引いた。
「あなた、何を考えているの?」
「いや、助けないとまずいなって」
「……駄目よ」
レイナは俺の右腕をつかんだ。
「今、外へ出たら、あなたの正体が知られてしまうかもしれないのよ」
「分かってる」
「だったら……!」
「でも、この人たち死ぬぞ」
「教会が探索者を派遣するわ」
「ちんたらしてたら間に合わない」
レイナは何も言えなくなった。こはくも泣きそうな顔で俺を見ている。
「朔斗くん。また、あたしたちを置いていくのぉ……?」
いぶきは俺の前へ立った。
「……自分が行く。お前はここにいろ」
「いや、いぶき1人じゃ危ないだろ」
「それでも、自分がお前を守りたいんだ」
いぶきの声が震えている。紫苑さんも刀を握っていた。
「……アタシが行くよ。たぶん救助要請が来るはずだし」
「でも、紫苑さんも昨日あんなに怪我したじゃないですか」
「大丈夫でしょ、これくらい」
「だったら、俺も一緒に行きますよ」
紫苑さんは唇をかんだ。
「アンタ、本当に……。どうして、そんなに自分のことを大切にできないの……?」
そう言われてもなあ。自分のことを大切にしていないつもりはない。ただ、目の前で人が死にそうになっているなら、助けたいんだよ。
「……みんな。俺は最強になったんだ。今度こそ信じてくれ」
俺は4人を見た。
「絶対に大丈夫だって」
レイナが首を振った。
「その言葉、もう聞きたくないの……」
そう言えば、昨日も同じようなことを言って死んだんだった。それなら、ちゃんと説明しないとな。
「俺さ、新しいスキルを手に入れたんだよ」
「……スキル?」
「おう。【因果掌握】ってやつ」
4人が俺を見つめた。
「簡単に言うと、攻撃が当たるかどうかとか、誰が攻撃を受けるかとか、そういうのを変えられるらしいんだ」
レイナが目を丸くした。
「……そんなことができるの?」
「おう。グランが教えてくれた」
『我は、そこまで使えるとは言っておらぬぞ』
「……えっ?」
『お前が実際にどこまで扱えるかは、まだ分からぬ』
そうなのか。まあでも、実践で試してみないと分からないよな。
俺は4人に笑いかけた。
「とにかく、今度は俺が攻撃を受けなくても、みんなを守れるかもしれないんだ」
レイナは少し考えた。
「……かもしれない、なのね」
「いや、でもマジで自信がある。分かるんだよ、俺ならできる」
こはくの目に涙が浮かんだ。
「……じゃあ、また自分の体で試すつもりなのぉ?」
「いやいや、そうじゃないって」
俺は首を振った。
「俺だって、もうみんなを泣かせたくないんだよ」
4人の動きが止まった。
「だからさ、1人で行くつもりはないぞ」
俺は笑った。
「みんなも一緒に来てくれないか?」
レイナが目を見開いた。
「……私たちも?」
「おう。レイナが作戦を考えて、こはくが怪我人を助ける。いぶきは盾でみんなを守ってくれ。紫苑さんにも手伝ってもらえたら心強いしさ」
俺は4人を見た。
「俺たちなら、きっと全員助けられるだろ?」
レイナの目から涙が落ちた。
「朔斗。あなた、本当にずるい人ね……」
「えっ?」
レイナは俺の右手を握った。
「私たち、あなたを外へ出したくないのに……」
涙が頬を伝った。
「そんなこと言われたら、一緒に行くしかないじゃない……」
こはくも抱きついてきた。
「……あたしも行くよぉ」
「おう」
「でも、絶対に1人で戦わないでねぇ……」
「分かった」
いぶきは盾を手に取った。
「……今度こそ、自分に守らせてくれ」
「頼りにしてるぞ」
紫苑さんも涙を拭った。
「……アタシも行く」
「ありがとうございます」
「でも約束して。危なくなったら、アタシたちを頼って」
「はい」
俺は4人を見渡した。
やっぱり仲間っていいな。1年前は、3人を逃がして1人で戦った。昨日は、紫苑さんを守るために俺が攻撃を全部受けた。でも、今度は違う。みんなと一緒に戦える。
「よし。じゃあ、行こうぜ」
『……待て』
頭の中でグランが声を上げた。
「ん?」
『お前、先ほどの話を忘れたのか? 今は人間どもに正体を疑われているのだぞ』
「覚えてるって」
『それなのに、わざわざ人前で我の力を使うつもりか?』
「まあ、そうなるかもな」
『……討伐対象にされるぞ』
俺は少し考えた。
確かに、それは困る。でも、テレビの中では、まだ助けを待っている人たちがいる。
「……まあ、何とかなるだろ」
『お前という男は……!』
グランがあきれた声を出した。
俺は笑った。
「困ってる人がいるんだから、助けたいじゃん」
『……本当に変わらぬな』
「そうか?」
『ああ。1年前、我と戦ったときから何も変わっておらぬ』
「はは。そうかもな」
俺は4人へ向き直った。
「じゃあ、みんな。準備しようぜ」
レイナは俺の右手を握った。こはくは左腕へ抱きついた。いぶきは盾を背負い、紫苑さんは刀を腰に差した。俺たちは、また一緒にダンジョンへ向かうことになった。
今度は、誰も置いていかない。全員で帰ってくるつもりだ。
……ただ、1つだけ気になることがある。
さっきの配信に映っていたのは、第45階層だった。1年前、俺が右腕を失った場所だ。しかも、あそこで暴れている魔物たちは、何かから逃げているようにも見えた。
「……グラン」
『何だ?』
「あの魔物たち、なんか様子がおかしくないか?」
『……ようやく気づいたか』
「えっ?」
『あやつらは、人間を追いかけているのではない』
「……どういうことだ?」
グランの声が低くなった。
『逃げているのだ』
俺はテレビを見た。画面の奥で、ダンジョンの壁が大きく揺れていた。その向こうから、重い足音が聞こえてくる。
ドン。
ドン。
ドン。
配信者の悲鳴が響いた。
『……何だ、あれは?』
俺は目を細めた。壁の向こうに、巨大な影が見えた。さっきまで逃げ回っていた魔物たちが、一斉に通路の奥へ走り出す。そして、画面が激しく揺れた。グランが小さくつぶやいた。
『……まさか、まだ生き残っていたとはな』
「……グラン?」
返事はなかった。俺はテレビを見つめた。どうやら、今回の救助は思ったより大変になりそうだ。




