第百五審 『Feed The Fire』
失踪です。
これ生活習慣戻すの大変かもな〜
突如鳴き始めた風に違和感を感じて周囲を確認していると、雲間から差し込む光が先程と比べて格段に強くなっていることに気がつく。
彼女も、私の意識が逸れていることに気づいていたようだが、何かをしようとする訳でもなく、ただ私を一点に見つめて微笑みを浮かべる。
その僅か数秒後、目に飛び込んできたその景色に、私は目を疑った。
「いよいよ……フィナーレだよ」
雲を突破って姿を現したのは、とてつもなく巨大な赤い物体。部分的にしか確認できないが、あれは球体の一部であるように見えた。
それを背に、彼女は私にそう告げる。
あの大きさ、球体、そして赤色……。
私の記憶にあるものの中に、その全ての特徴を併せ持つものが存在した。
「『太陽』……?!」
『島国の大半の領土が吹き飛ぶ』というのはそういう事だったのか……!!
あれが仮に地面と衝突すれば、確実に想像もできない規模の被害が出る。
逃げ場などもはや残されていない。領民の外へ逃がさなかった領主の考えが今となっては容易に理解できた。
「時間が無いね。君はいち早く彼の元へ援護に向かうべきだと思うよ」
彼女は再び両手にナイフを構える。
「もちろん、私を片付けてから。ね」
一気に距離を詰めてきた彼女の杖で受け止め、直後地面から生成された氷柱が私たちの間に割って入る。
詰められた際は、彼女の間合いから脱出することを最優先に動く。あちらの得意である以上、私が優位に立つことは極めて難しい。
乱立する氷塊を伝い、上へ上へと距離をとるように後退を開始した。
彼女が追跡してきていることを確認しながら移動していたのだが、濃い霧に紛れて一瞬のうちに視界から消失してしまう。
周囲をある程度見渡せる場所まで登って足を止めると、私は彼女の姿を追うべく周囲を見渡した。
しかし、次の瞬間感じ取った気配は、全く違う方向から迫ってきている。
「下か……!」
壁を蹴り、速度を保持したまま一気に飛び上がってナイフを振るう彼女の攻撃をギリギリで回避し、続けて片手を振りかざして放たれるそれも杖で受け止めた。
押し合いになると間もなくして、彼女はもう片方の手に握っていたナイフを首元にあてがう。
「何を─────」
呟く間もなく周囲は真っ赤に染め上げられた。
当然、私はそれを全身に浴びてしまう。
「今温めてあげるから……!!」
その言葉と同時に火だるまになった私の力が緩んだ隙を突かれ、杖を一気に押し返される。
熱さに悶え、視界不良な中、続けざまに迫る攻撃は、咄嗟の判断で飛来した氷の刃によって防がれた。
何とか火を消し止め、彼女とは一定の距離を保ったまま睨み合いになる。
私の勝利条件は『彼女を打ち倒すこと』ではない。それもやむを得ない状況ではあったが、今はかなり話が変わった。
少しでも早くハルサさんの援護に向かうことが最優先事項とされる現状、わざわざ倒さずとも『切り抜ける』だけで事足りる。
猶予がない。すぐにでも実行する。
私は駆け出すための姿勢を整えると、これまでフル稼働していた術式を『全て解除』した。
形を保てなくなった氷は全て瞬く間に溶け始め、同時に足場は安定感を失う。
それを確認すると同時に、私は彼女との距離を大きく詰める。当然、彼女もそれに反応しようと構えた。
しかし私はお構い無しに立ち止まることなく、胸元に狙いを定めて蹴りを放つ。
彼女はそれを、腰を落として両腕で受け止めた。だがそこで異変が生じる。
彼女の背後にあった氷の地面が一斉に崩落した。
溶解によって滑りやすくなっていた氷の表面では、腕に受けた衝撃を殺しきれず、そのまま滑って落下していく。
私も同様に、そのままの勢いでアスファルトに向かって降下。彼女が地面と衝突する、その瞬間を見計らって再度術式を起動した。
「凍てつけ!!」
お楽しみいただけましたか?
やばいとは思ってます
では、また次回。




