第百四審 『運命の日』
失踪です。
ああ、外が明るい。
当初の予定では、あのメンバー全員とまでは行かなくとも、行く手を阻むはずだった。
しかし私が乱入し状況が一変。標的を私に切りかえ、彼らの通過を許した。
概ね、『彼らにここを通過される』よりも、『彼らの援護に私が向かう』ことが、彼女としてはあまりいい状況ではないのだろう。
全て私の推測……妄言に間違いない。だが、こう考えれば辻褄が合う。
同時に、ハルサさん達はこの先で更なる刺客に行く手を阻まれている可能性がある。
……私はこんなところで道草を食っている場合じゃない。
仮に余計なお世話だったとしても、私は彼らの力になりたい。
だからこそ、今私の目の前に立ちはだかる障壁を、突破する……!!
思い切り地面を蹴ると、塗装されていたコンクリートが剥がれて粉々になり、周囲に散らばる。
それ程までの推進力を保持したまま彼女に接近し、鎌を振りかざした。
咄嗟に防御を図った彼女の刃物は一瞬にして粉々に砕け散り、続けざまに大きく鎌を振りかぶる。か
ただ鎌を振るうだけじゃダメ。これまで通り空間に干渉され、防がれるのがオチだ。
……もし、あれを突き破ることが出来るとするなら?
頭を過ぎったその問の答えは自然と導き出されていた。
私は鎌を回転させてから振りかざす。
それは予想通り、接触する前に干渉された空間によって防がれ、火花を散らした。
だが、その空間とぶつかり合っているのは『刃』ではない。
防がれることを前提とした場合、必要になるのは斬撃ではなく『打撃』だ。無闇に刃を振りかざすと、最悪刃こぼれして私は打つ手を失う。
であれば、私は鎌の『柄』を使用するしか無い。
激しく火花が散る接点越しに、私は彼女と目を合わせる。
「あなた達の思いどおりには……させない……!」
鎌を握る力を更に強める。
空間との間には更に激しく火花が散り、彼女の表情は少しずつ険しくなり始めた。
やはり、これを破ることは不可能か……。そう考えた瞬間、手元に今までとは違った感覚が伝う。
バキッ──────。
硝子に罅が入るような音と共に、鎌との接点に何本もの亀裂が刻まれた。
彼女にとって、目を疑う光景だっただろう。
まずい状況だと察したような表情を見せたのも束の間、直後、罅の入った空間は粉々に砕け散った。
私の全ての力が集約された鎌はそのまま彼女に直撃。柄で頬を殴打され、残像すら捉えられない、衝撃波が放たれるような速度で吹き飛び、その先にあった建物に打ち付けられる。
一瞬全身の力が抜け、そのまま倒れるかと思われたが、地面に膝を着いて持ち堪えた。
息を整え、再度立ち上がると、彼女は空を見上げた。雪は既に弱まりつつある。
「……私の、仕事は、ここまでだ。お前たちに、この状況を、解決できるとは、思えん」
「いや、あの人なら何とかなる。絶対」
「ハッ、少し言葉を、交わしただけのお前に、何が分かる」
嘲笑うようにそう告げると、彼女は自身の隣の空間を引き裂いた。
「精々、足掻いて見せろ」
そのまま裂け目の中に姿を消し、軈てそれは消滅した。
これまで通りの静寂が再び流れ出し、私は鎌を下ろして大きくため息をついた。
一体、ハルサさん達は今何をしているのだろうか。
七聖が絡むほどの大事……私には想像もつかない。
それに、『仕事は終わった』と……。もう既にやるべきことが済んでしまったのだろうか。
思考を巡らせていた時、空を流れていた雲の様子が一変する。
まるで何かに押し退けられているような……。
その瞬間、頭上の雲を突き破って、とてつもなく巨大な、赤く揺らめく何かが姿を現した。
……何となく、疑問の答えが出たような気がする。
行き先を聞いておくんだった……。そうすれば援護に行けたかもしれないのに。
しかし、空から降ってくる巨大なものを何とかしようとしているのであれば、思い当たる場所がひとつあった。
とにかく、行ってみよう。
この状況をただ見ているだけ、というのも許されない気がしていた。
そうして、私は鎌を抱えたまま走り出すのだった。
お楽しみいただけましたか?
おやすみなさい。
では、また次回。




