第百六審 『天体観測』
失踪です。
もう書くことないな。
私の叫ぶような声と共に、彼女の全身は地面から突き出る氷塊の中に封じ込められた。
この程度で意識を失うような妖者ではないだろう。それに、彼女の異能力があれば、時間はかかれど脱出は可能なはず。
死にはしない、と、踏んだ。
「……手強かったです。遊撃部隊」
深く呼吸をしながら体に刻まれた傷を全て修復し、大きくため息をついた。
ふと空を見上げると、変わらず太陽と思しき天体が迫ってきている。心做しか、先程よりも近づいてきているような……?
「……刻限が近いようですね」
今からでも間に合うだろうか。
いや、たとえ間に合わなくとも、私には他の選択肢は既に残されていない。
急ごう。
杖を収納し、私は天文台に向かって再び走り出した。
ℵ
『時間切れ』……?間に合わなかったと言うのか……?!
認めたくはないが、刻一刻とこちらに迫り来る太陽の姿を前に、現実から逃れることは出来なかった。
絶望に染まった表情のまま固まっているイザナギを一瞥し、ふとある人物のことを思い出し、そちらに視線を向ける。
すると、彼は既に僕の側まで近づいてきていた。
僕の肩を掴んで体重をかけ、体を預けるようにして立ち止まったオルタは、僕らと同じく空を見上げる。
「来たか……」
「オルタ、お前はあれを何とかする策を持ってるんだろう?」
空に浮かぶ天体を指さしながらそう言った僕の言葉に頷き、続いてイザナギに声をかけた。
「兄さん!まずは凩 ルナの拘束を解いてやってくれ!」
一瞬呆けたような表情をしたままこちらに向いたイザナギは、すぐに頷いてルナを覆っていた結界を解除した。
「ルナ!!」
僕は彼女の元へ駆け寄り、腕を縛っていた縄を切り落とした。
「ありがとう、ハルサ」
ルナは立ち上がると、二人の方向に向き直る。
「あれは元々あった『太陽』の機能を、『忠実』に再現したもので間違いないんだよな?」
「あぁ、そのはずだ」
鼻を鳴らして、この場の雰囲気とは真逆に意気揚々と話し始める。
「兄さん、俺たちの先祖はどうやって宙に浮かんでいた太陽を破壊したんだっけ?」
「照射器の暴走によって、『核』が破壊され─────」
そこまで言った彼は、何かに気がついたような素振りを見せ、足早に移動してモニターを触り始める。
「何か掴めたのかい?」
「あぁ、さっきも言った通り、宙に浮かぶあれは、元々あった太陽を忠実に再現したもの。流石にあの巨体を再現することは叶わなかったが、機能や構造など、その段階で判明していたものは全て模倣されている」
そう言いながら、一枚のモニターをこちらに向けた。
「太陽が崩壊した直接的な原因は、恒星そのものを支えていた『核』が破壊されてしまったこと。それにより、自身にかかる重力に耐えきれなくなった。つまり、核はそれを再現する上でも、自身にかかる重力を受け切るため、重要な存在を成すんだ。崩壊の原因になっているとは言え、再現する上でこの要素を除外するメリットはない」
「つまり、今まさにそこに迫ってきているあれにも核が存在するはず。それを破壊することが出来れば被害は最小限に抑えられるってことだな」
「御明答」
オルタは表情を崩さず、こちらを指さしてそう言った。
「ただ、一つ問題がある。今後同じ過ちを繰り返さぬよう、何かしらの策が練られていた可能性が高い」
慌ただしく画面が移り変わるモニターを眺めているが、何が起こっているのかは全く理解出来ていない。ただ、なにかの解析が進んでいることだけは理解出来た。
「ビンゴだ」
画面全体に、数箇所が赤く点滅する再現された太陽と思しき構造図が表示される。
「見て、ここ」
お楽しみいただけましたか?
だいぶ流れが変わりました。
では、また次回。




