第百二審 『日出』
失踪です。
もう音楽聞かないとやってられなくて。
その言葉が聞きたかったと言わんばかりに微笑む彼は、大鎌を軽々と持ち上げ立ち上がり、振り返りざまに告げた。
「依頼を受理する。お前は死なないように、な」
立ち去ろうとする彼に、俺は『それ』を差し出した。
「受け取れ」
少し驚いていたようだったが、何も言わずに受け取り、再び砂埃の中へと姿を消した彼の姿を見送ると、一気に肩の力が抜けた。
「全く……」
ℵ
見通しの悪い視界の奥に佇むそいつの元へ、ゆっくりと歩き続け、軈て顕になったそいつの表情は、なんとも言い表せないものだった。
「君たちは、何故僕の邪魔をするんだ」
「仕事だからな」
「このまま行けば、この領土……いや、この島国がどうなってしまうのかが分からないのか?!」
「分かっている。だが、これが依頼主の意向だ」
「……面倒な人間だな。君は」
「僕は僕のやるべき事をやるまで。お前と同じだ」
そこまで言うと、僕らの間には静寂が流れ、両者は互いに構えをとる。
距離を取ろうとしないのを見るに、恐らくもう悠長なことをやっている時間が無いのだろう。
異能力がある程度割れてしまった今、今まで通りの戦いを続けるよりも、不利な状況には立たされるが早期決着の狙える近接戦に持ち込んだと考えられる。
どの道、有利な状況には変わりない。
まだ使用していない技がある可能性に留意しておけば、負け筋を潰しておくことができるかもしれない。
刹那、両者は一気に距離を詰める。
首元を狙って瞬時に振るった鎌は空を斬り、腰を落として僕に手のひらを向けるそいつの腕には突如として姿を現した鎖が巻き付いた。
かなりの力で引かれ、強制的に隙を晒すことになったそいつの腹部を勢いのままに蹴飛ばすが、その瞬間、体を大きく捻り、衝撃を殺してダメージを最小限に押さえ込まれてしまう。
体勢を維持したまま地面を滑って持ち堪えたそいつに対し、更なる追撃を狙って鎌を振り上げるが、片手をこちらに翳した瞬間、鎌がその場で突然動作を停止する。
磔になっている……と言うよりかは、何かに引っかかって動くのを妨害されている。というように感じた。
状況を理解する一瞬の間に、目の前に迫っていた拳が僕の頬を殴打する。
咄嗟に片手で防御を図るが、直撃と同時にとてつもないスピードで後方へ吹き飛ばされてしまった。
壁に打ち付けられ、一瞬意識が飛かけるが何とか繋ぎ止める。
……まだ動ける。攻撃を受け止めた片腕も特に異常は無さそうだ。
鎌を地面に突き立てて立ち上がると、舞い上がった砂埃に風穴を開けるほどのスピードで飛来してきた帯が、目と鼻の先にまで迫っていた。
瞬時に振り上げた鎌の軌道に巻き込まれたそれらは一瞬にして布切れに成り下がるが、更に続いて迫ってきていたものは鎖によって貫かれた。
一度、ルナの方を見やるが、ここからでも分かるほどに額には汗が滲み、先程までと比べて表情に余裕がなさそうに見える。
普段から何があっても余裕綽々としているルナが、この程度であの態度を崩すはずがない。
閉じ込めているあの結界には、何かしらのデメリットを付与する術式が付与されていたりするのだろうか。
接近しながら結界に直接衝撃を与えなければならないことを考えると、あいつの間合いである中距離を通過するリスクをできるだけ抑えたい。
こちらからも対応出来る間合いであることを主張出来れば良かったのだが、刀を奪われてしまった今、それも難しい。
何か無いのか……。
改めて周囲を見回していた時、とあるものが視界に映った。
しかし、少し遠い。移動して直接『あれ』を使うのは現実的ではなさそうだ。
その時、ひとつの『案』が浮かぶ。
余裕がなさそうなところ申し訳ないが、これに関しては協力してもらう他ない。
『ルナ、「あれ」を頼む─────』
お楽しみいただけましたか?
当然のように徹夜。とは言えもうそろそろ第一部は完結しそうですよ。
では、また次回。




