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幼なじみの僕らに、名前をつけるなら。  作者: MUHIRO


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第24話 - 自然に話せる

淡と夕日はカフェを出て、集合場所へ向かった。

連絡が来た時間より少し早く着いたため、雛華たちはまだ来ていない。

二人は人の邪魔にならない場所へ移動し、並んで待つことにした。


特に話すことはなかったが、気まずくはなかった。

何か話さなければと考えることも、沈黙を無理に埋める必要もない。

ただ隣にいるだけでよかった頃の感覚が、少しずつ戻ってきていた。

その距離感が、ひどく懐かしかった。


「なんか、懐かしいね」


夕日が小さく呟いた。

夕日も同じことを感じていたようで、淡は嬉しくなり、思わず視線を逸らした。


「あ、いた」


声のした方へ顔を向けると、雛華と澄都が人の間を縫うようにこちらへ歩いてくる。


「ごめん、待ったよね?」


雛華が聞く。


「多少は。だけど、全然いいよ」


雛華は二人の様子を確かめるように、少しだけ表情を緩めた。


「しっかり話せた?」


淡と夕日が一度だけ顔を見合わせる。


「うん。気を遣わせてごめん。二人とも、ありがとう」


淡がそう言うと、夕日も隣で小さく頭を下げた。

その返答に、澄都はどこか気まずそうな表情を浮かべた。


「いや、俺は勝手に喋っただけだし」


「ほんとにね。そこは怒ってるから」


雛華がすかさずツッコミを入れる。


「まだ?」


「まだ」


四人とも笑った。

淡には、その光景が少しだけ不思議に思えた。

四人でこうして同じことで笑うのは、たぶん初めてだった。


少しして、夕日がふと思い出したように雛華を見る。


雛華が気づいて声をかけた。


「どうかした?」


「昨日、淡と雛華は付き合ってないって言ってたけど、本当にいいの?」


夕日は少し言いづらそうに続けた。


「すごいお似合いで、あんなに仲良さそうだったから」


雛華はすぐに答えた。


「全然いいよ」


「でも」


「私も淡も、お互いに恋愛感情湧かないし」


夕日は隣の淡を見る。

淡はその視線に気づき、すぐに頷いた。


「ないね」


「即答するんだ」


「雛華も即答だった」


「まあね」


夕日は雛華と淡を交互に見て、何かに気づいたような表情をした。


「もしかして、こうなるように三人で組んでたの?」


雛華は悪びれる様子もなく、少し笑った。


「うん」


淡も特に否定することなく続ける。


「まあ雪は昨日の夜からだけど」


夕日は思い当たるように淡を見る。


「じゃあ学校で、雛華と二人で話すようになったのも?」


「夕日のこと相談してた」


「……そうなんだ……」


夕日は少し驚いたあと、今度は雛華を見る。


「でも二人、本当に似合ってたから」


「ないよ」


雛華はすぐに否定した。


「そもそも淡が私に声かけたの、澄都と幼なじみだからだよ」


「雪くんと?」


「うん。私と澄都の会話を見て、自分たちに重ねたらしい」


夕日は澄都と雛華を順番に見る。


「あと、私が淡を好きにならないっていうのも大きかったんだって」


「うん。そこは何回か確認したね」


「だから雪、安心しろ」


「何をだよ」


淡が少し笑うと、澄都は不服そうに眉を寄せた。

その横で、雛華がいたずらっぽく笑う。


「ちなみに昨日の朝のバスで、私、淡に『私を好きにならないの?』って聞いてるよ」


夕日は一瞬、言葉を失った。

澄都も思わずそちらを向いた。


「は?何それ」


「そしたら即答された。『ならない』って」


淡は表情を変えず、そのまま聞いていた。


「しかも理由まで」


「理由?」


「言われたときは、私もよく分からなかったんだけど。今なら分かるかな」


雛華が『話していいよね』と言いたげに淡を見る。

淡はその視線を受けて、観念したように息を吐いた。

雛華はそのまま夕日に話を続ける。


「『夕日の方が可愛いから』って」


夕日の動きが止まった。


「……え?」


淡は気まずさをごまかすように、少しだけ顔を逸らす。

その反応を見て、雛華は笑いを堪えていた。


「……淡」


「何?」


「本当に言ったの?」


「言ったよ」


「……そう」


夕日の頬が、少しずつ赤くなっていく。


「だから夕日、心配しないで」


夕日は何も答えず、少しだけ困ったように笑った。


淡はそんな夕日を見て、つられるように口元を緩める。

こういう表情も、昔は何度も見ていたはずなのに、今はずいぶん久しぶりに感じた。

もう少しだけ見ていたいと思った。


「で、これからどうする?」


澄都が少しぶっきらぼうに口を挟んだ。


夕日が予定表を出したので、三人も覗き込む。

このあと、本来の計画通りにすべて回れるかを四人で確認していく。


雛華が予定表から顔を上げた。


「無理じゃない?」


三人とも頷く。


すでに二時間半以上遅れている。

このまま予定していた目的地まで向かうと、ホテルに戻る時間に間に合わない可能性があった。


「レポートどうしよう?」


雛華が聞くと、澄都が淡を見ながら答える。


「大丈夫だろ。学年一位がいるから」


「丸投げする気?」


「そうじゃないって」


澄都は妙に自信ありげに笑った。


「お前がいるなら何とかなるって意味」


「便利に使わないでよ」


「頼りにしてるんだよ」


「でもレポートの材料は、さっき私と澄都で結構集めたよ」


「写真もある」


澄都がスマートフォンを三人に向け、撮った写真の一覧を見せる。

レポートに使うには十分な枚数がありそうだった。


「じゃあ何とかなるかな」


「なら、無理にここから移動しなくてもいいかもね」


予定表を確認していた夕日が、顔を上げてそう言った。


この場に留まるなら何をするか、四人はそれぞれスマートフォンを手にして考え始めた。

雛華は早々にスマートフォンから目を外して、辺りを見渡した。


「どうせ移動しないなら、着物レンタルして、この辺り回らない?」


淡はその提案に少し驚いた。


「着物?」


周囲を見ると、着物姿で歩いている人もちらほらいる。

夕日も辺りを見渡し、少し嬉しさの混じった声で聞いた。


「六月だと暑くないかな?」


「そこなんだよね。暑いとは思うけど記念になるかなと思って。せっかく京都に来たし」


澄都はあまり乗り気ではなさそうに息を吐いた。


「さっき俺たち、レポートのために回ってただけだから、全然観光してないんだよ」


淡はまず夕日を見る。


「どうする?」


夕日は少し考える。


「私はいいよ」


「じゃあ僕も」


雛華が嬉しそうに言う。


「決まり」


澄都の返事を待つ様子もなく、話はそのまま決まった。


澄都が三人を見る。


「俺に選択権なくない?」


「あるよ」


「じゃあ着ない」


「却下」


「ないじゃん」


昨日までなら続かなかったような軽いやり取りが、今は四人の間で自然に続いていた。


「まあ、いいけど、その前に昼食だろ」


昼食にはすでに遅い時間だったが、四人はお店を探すために歩き始めた。


いくつか候補を見ていると、雛華が少し高そうな店先で立ち止まった。


「ここ美味しそう」


澄都が店先に出ているメニューを覗き込む。


「結構するぞ」


「旅行なんだからいいじゃん」


「それ、金使いすぎて後で困るやつの理屈だろ」


淡も横から覗き込む。


「大丈夫。無利子で貸すから。仕事ばっかしてきたからね」


「そこ自慢するとこ?」


「困ったら言って」


「高校生に金貸そうとすんな」


昼を過ぎてもまだ少し列ができていたが、四人はその店に入ることにした。


*


数分して、四人掛けのテーブルへ案内された。

座る位置は、昨日の夜や今日の朝とは違っていた。


淡の隣に夕日がいて、対面に澄都。

澄都の隣には雛華が座った。


夕日がメニューを開く横で、淡は手を伸ばさなかった。

注文するものは、もう決めていた。


「淡、もう決まったの?」


「うん。ショーケースにあった湯葉と湯豆腐の定食にする」


夕日がすぐに反応する。


「淡、湯葉と豆腐好きだもんね」


「覚えてるんだ」


「もちろん、覚えてるよ。でも湯豆腐は熱いかもね」


そんなやり取りが、思っていたより自然に続いていた。

名前を呼ばれるたびに少し意識はする。

それでも、もう会話そのものに構える必要はなかった。


「私もせっかく京都に来たし、湯葉と京野菜の定食にしよ」


夕日はメニューから顔を上げて、少し嬉しそうに淡を見た。


向かいでは、澄都と雛華も一緒にメニューを覗き込んでいた。


「これ美味しそう」


雛華が一つの料理を指す。


「さっき値段気にしてたの誰だよ」


「澄都でしょ」


「お前も少しは気にしろ」


「淡が無利子で貸してくれるらしいよ」


「借りねえよ」


料理を待ちながら、四人はこのあとの予定を話し始める。


着物レンタルをどこでするのか、どこまで回ることができるのか。

何時までにここを出れば、遅れずにホテルへ戻れるのか。


淡と夕日も、当たり前のようにその会話に入っている。


二日目の京都は、予定していたものとはかなり違う一日になり始めていた。


話を聞きながら、淡はふと夕日の着物姿を想像した。

少しだけ、楽しみだと思った。

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