↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幼なじみの僕らに、名前をつけるなら。  作者: MUHIRO


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/32

第19話 - 二人目の連絡先

淡の話を聞いてからしばらくして、澄都のスマートフォンから通知音が鳴った。


「雛華から?」


「おう。明日の集合時間、少し早くなったって」


澄都が画面を見ながら集合時間を伝えると、淡も了承した。


「なあ、さっきの話だけど」


淡はベッドに座ったまま澄都を見る。


「俺に話しかけてきたのも、計画のため?」


淡は少しだけ返答に迷った。

それでも答えは変わらず、小さく頷いた。


澄都は一度だけ視線を落とし、少し低い声で返した。


「そっか」


「利用されたって思った?」


「まあ、そりゃ」


「そうだよね……」


「否定しないんだな」


「最初に話しかけた理由はそうだからね」


澄都は少し不満そうに眉を寄せた。


「悪いとは思わないのかよ?」


「多少は思うよ」


「多少?」


淡は少し考えてから続けた。


「でも、罪悪感はそんなにないかな」


「何でだよ」


「僕の中では、雪に計画のために話しかけたことも、普段クラスの人と雑談することも、そんなに差がなかったから」


澄都は、まだ意味を掴めていないようだった。


「どういう意味?」


「別に雪のことだけを特別に利用してる感覚があったわけじゃないってこと」


淡は言い訳するでもなく、そのまま続けた。


「クラスの人と話すのも、必要があるから話すことが多いし。仲良さそうに見えても、その人と深く関わりたいと思って話してるわけじゃない」


普段の淡を知っている分、今の話は少し腑に落ちたのかもしれない。

澄都はしばらく黙っていた。


「……それ、結構ひどくないか」


「そうかもね」


「利用するために話しかけた俺と、他のクラスメイトとの会話が同じだったってことだろ?」


「少なくとも、最初はね。だから、雪を利用したことだけに特別な罪悪感はないんだと思う」


「なるほどな。月城って、人と仲良さそうには見えるけど、本心で話してなさそうだもんな」


「そう見える?」


「そう見えてたし、今の発言でなおさら思った。人間関係、薄いっていうか。興味ないというか」


「中三のころは、学校のほぼ全員から無視されたりしたからね。それに中途半端に仲良くなって、前みたいになるのも嫌だし」


「だから、連絡先も全部断ってたんだな」


「うん。それに、必要ないから」


澄都は呆れたように息を吐いた。


それを見て、淡はもう少しだけ言葉を足した。


「……トラウマ。人と仲良くなるの、怖いし」


普段なら、ここまで話すことはなかった。

けれど、過去のことまで話した澄都になら、不思議と言葉が出た。


「雪は怒ると思うけど、高校入ってから信用したの、雛華だけだからね」


「見りゃ分かるわ。話聞いたから怒ることはねぇよ」


さっきまでの不満そうな表情は、もう薄れていた。

代わりに、確かめるような目で淡を見る。


「お前、雛華にだけは普通にいろいろ話してるだろ」


「そうだね」


「雛華の連絡先は知ってんの?」


「知ってるよ。唯一」


澄都はもう二人の関係を疑っていないようだった。

それでも、雛華だけが例外だということには引っかかっているらしい。


「そーかよ」


淡はその反応を見ながら、少しだけ笑った。


「でも、さっきまでなら、雪も他のクラスメイトとそんなに変わらなかったけど、今は違うよ」


「何で?」


「僕のこと、話したから。家庭のことも、夕日のことも。僕の中では結構大きい秘密だから」


その言葉には、澄都もすぐには返さなかった。


「それを知ってる相手を、今までと同じには見られないでしょ」


「……勝手だな。最初は利用しといて、秘密話したから関係変わったって」


「でも変わったものは仕方ないよ」


淡はスマートフォンを取り出した。


「だから雪とも連絡先交換したい」


「は?」


予想していなかったのか、澄都は淡が思っていた以上に驚いた。


「何で?」


「今言ったでしょ」


「別にいらないだろ」


「ひどい」


「今まで必要ないって言ってたの、お前だろ」


「雪に関しては、聞いてこなかったじゃん。それに……話す前とは関係違うから」


「……まあ」


「その覚悟なしで聞いてきたの?」


「覚悟って何だよ」


淡は少しだけ意地悪そうに笑った。


「どれだけ雛華のこと好きなの?」


「なっ」


澄都が固まる。


「何でそうなるんだよ!」


「違うの?」


「違うとかじゃなくて!」


声を上げて言い返す澄都を見て、淡は笑う。


「分かった分かった」


「絶対分かってないだろ」


「じゃあ交換しない?」


澄都は少し迷ったあと、スマートフォンを取り出した。


「……分かった」


「ありがとう」


二人は連絡先を交換した。

淡のスマートフォンに、雛華に続いて二人目の連絡先が増えた。


淡は画面を見たまま、小さく呟いた。


「ほんとに、君たちはいい関係だよね」


澄都へ向けて言ったわけではなかったが、声は届いていた。


「何だよ急に」


淡は少しだけ迷ってから答えた。


「羨ましい」


淡は笑った。


けれど、いつものように軽く流すための笑いにはならなかった。

その声に混じった寂しさを、澄都も感じ取ったのかもしれない。


「名前呼んでほしいって、そりゃ悲しいわな」


あまりにもあっけらかんと言われて、淡は少しだけ拍子抜けした。


「そうだね」


自分の中では、ずっと重かった。

簡単に言葉にできないものだった。

けれど澄都にそう言われると、不思議なくらい単純なことにも思えた。


ただ、昔みたいに名前を呼んでほしい。

それだけだった。

少しだけ楽になった。


「で、ほんとに俺は明日、何もしなくていいんだな?」


話が明日に戻り、淡も一度頭を切り替える。


「うん。雛華とは二人きりにするって話だったけど、今日一日過ごしてみて、それだと逆に不自然な気がしてきた」


「不自然?」


「今の僕と夕日が、急に二人で残る理由がないでしょ。だから、どうするか考えてる」


澄都は少し黙ってから、今日の様子について口を開いた。


「でも灯、お前の言葉に返すときはあったよな。お前だけにっていうより、三人に向けて話してる感じだったけど」


「そうなんだよね」


直接話しかけられたわけではない。

それでも、完全に避けられていたわけでもない。

夕日の反応をどう受け止めればいいのか、淡には分からなかった。


「だから悩んでる。自然に二人きりになるのを待つのか、四人でいるときに僕から話すのか」


「じゃあ、いきなり謝れば?」


「何について?」


「何についてって……」


「夕日に対して、僕が一方的に悪いことをしたわけじゃないから」


言ってから、淡は少しだけ言葉を止めた。

何も悪くなかった、とまで言い切れるほど単純でもない。


「……まあ、何もしてないとは言い切れないけど。急に謝ったところで、そのあと何を話せばいいのか分からない」


「確かにな。難しいな」


「今日、雪と雛華が話してるのを見て、夕日も少し笑ってたでしょ」


「ああ」


「あれ見て、少し期待したんだけどね」


以前なら、夕日が近くで笑っていることに意味なんて考えなかった。

けれど今は、その小さな変化ひとつで期待してしまう。

その分、違っていたときのことまで考えてしまった。


「やっぱり、だいぶ嫌われてるのかもって思うときつい」


澄都はすぐには何も言わなかった。

淡自身、今ここで考え続けても答えが出ないことは分かっている。

それでも、明日が近づくほど考えずにはいられなかった。


「今考えても、いい案出ないだろ」


澄都がそこで話を切る。


「明日にしようぜ」


淡は少しだけ考えてから、頷いた。

淡がスマートフォンを充電器につなごうとしたとき、短い通知音が鳴った。

画面を確認すると、さっき追加したばかりの澄都からだった。


『明日、起きなかったら置いてく』


淡は向かいのベッドを見る。

澄都は何事もなかったように、自分のスマートフォンを触っていた。


「同じ部屋にいるのに、何でメッセージ?」


「交換したから使ってみただけ」


「最初のメッセージがそれ?」


「文句あるなら消せ」


その言葉には触れず、淡はそのまま返信した。


『起こして』


澄都はメッセージを確認すると、返信する代わりにそのまま口にした。


「自分で起きろ」


「置いてくって言うから」


「起きなかったらって言っただろ」


「じゃあ一回は起こしてくれるんだ」


「そういう意味じゃねえよ」


淡はその返しに、少しだけ笑った。


「雪、こういうやり取りするんだね」


「普通だろ」


淡にとっては、その普通が少し新鮮だった。

澄都もそれに気づいたのか、少しだけ間を置く。


「……じゃあ慣れろよ」


ぶっきらぼうに返して、澄都はスマートフォンを伏せた。


淡も画面を閉じる。


連絡先なんて必要ないと思っていた。

少なくとも、高校に入ってからはずっとそうだった。


それでも、増えたばかりの一件を消そうとは思わない。


不覚にも、少し嬉しかった。


淡はベッドに横になった。


澄都は、明日のことなんて今考えても分からないと言っていた。

それでも淡は、明日どうやって夕日に話しかけるのかを考えながら、静かに目を閉じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。