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幼なじみの僕らに、名前をつけるなら。  作者: MUHIRO


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第15話 - 同じ時間の中で

奈良公園周辺の団体バス乗降場所で担任から注意事項が伝えられ、生徒たちが班ごとに移動を開始する。


班長用の資料を確認している夕日に雛華が聞く。


「最初、東大寺だよね?」


「南大門から大仏殿。そのあと奈良公園周辺」


四人で歩き出し、そのまま班行動が始まる。


はずだった。


「月城くん!」


声をかけてきたのは、別のクラスの女子三人だった。


「やっぱ月城くんだ」


「写真撮っていい?」


淡は困ったように笑う。


「学校一緒でしょ」


「だから旅行の記念」


「普段言えないし」


淡が断ろうとした、そのときだった。

離れたところから、別の声が聞こえる。


「あの人、雑誌とかに出てる人じゃない?」


目を向けると、別の制服を着た女子数人が淡の方を見ていた。

修学旅行か校外学習で来ている生徒らしい。


シルバー系の髪に百八十二センチの長身。

周囲の男子生徒に混じっていても、淡はどうしても目立った。


「やっぱそうじゃない?」


「見たことある」


「聞いてみる?」


淡は嫌な予感がした。

その予感どおり、女子たちがこちらへ歩いてくる。


「すみません、モデルやってる人ですよね?」


「一応」


「やっぱり!」


大きな声を出され、さらに視線が集まった。

芸能人ではないので、名前が知られているわけではない。


普段なら、数人に気づかれる程度は適当に対応できる。

ただ、今は班行動の時間が決まっている。


少し先で澄都が足を止め、夕日もその場で待っている。


淡がどう断ろうか考えていると、人の間から雛華が入ってきた。


「淡」


その一言で、群がっていた女子たちが雛華を見る。

雛華は特に気にせず、淡の前まで来た。


「何してるの?」


「捕まった」


「見れば分かる」


ため息を一つついて、雛華は淡の腕を掴んだ。


「班長待ってるよ。行くよ」


「ごめん」


雛華はそのまま淡の腕を引いて歩き出す。

その様子を見て、同じ学校の女子たちが笑った。


「桜さん強い」


「月城くん連行されてる」


他校の女子の一人が、隣にいた友人へ小さな声で聞く。


「彼女?」


その声は、二人にも聞こえていた。

それでも雛華は足を止めず、否定もしなかった。


淡は後ろを振り返り、女子たちへ軽く頭を下げる。

その間も雛華は腕を離さず、そのまま淡を連れていった。


人の集まりを抜けたところで、ようやく雛華が腕を離した。


「助かった」


「旅行先でも捕まるんだね」


「同じ学校の子だったからね。仕方ない」


「他の学校の女子も来てたじゃん。銀髪でその身長なら目立つよ」


「雛華も十分目立ってたよ」


「私は雑誌出てないから」


「そういう問題?」


澄都が呆れた顔で二人を待っている。

夕日は、少し離れたところに立ち、資料を手にこちらを見ていた。

淡と雛華は、そのまま澄都のもとへ歩いていく。


「ごめん、待たせた」


「人気者は大変だな」


「好きで捕まってないよ」


「行こう。これ以上ここにいたらまた捕まるよ」


夕日が資料を閉じて三人に向かって言った。


「東大寺、こっち」


自分だけに向けられた言葉ではない。

それでも、夕日の言葉に従って歩くのは久しぶりだった。


四人は人の流れに混ざり、東大寺の南大門へ向かった。

その道には、観光客と鹿が入り混じっていた。

歩道の脇だけではなく、店の前や木陰、人の流れのすぐ横にまでいて、本当にどこにでもいる。


「近いな」


澄都はすぐ横を通る鹿に気を取られて足を止めた。

すぐ後ろを歩いていた雛華が、呆れたような顔でその背中を軽く押した。


「さっきまで『鹿なんて勝手にいるだろ』って言ってなかった?」


「いるとは思ってたけど、距離感がおかしいだろ」


淡にとって、こうして誰かと旅行をすること自体が久しぶりだった。

澄都と雛華のやり取りを見ているうちに、いつの間にか口元が緩んでいた。


夕日は班長用の資料と、観光用の簡単な地図を見ながら、三人より前を歩いていた。

人が多いせいか、ときどき振り返って人数を確認している。


もしかしたら、と淡は思った。

けれど夕日はすぐに前を向き、淡も声をかけられないままだった。


そこへ雛華が、夕日の隣まで歩いていく。


「灯さん、このまま真っすぐ?」


「うん。南大門を通って、そのまま大仏殿」


「結構歩く?」


「そんなにかからないと思う」


「じゃあ先に見て、お昼だね」


「飯どこ?」


後ろを歩いていた澄都が声をかける。


「東大寺見たあと、夢風ひろばの辺りで探すって話したでしょ」


「場所までは覚えてない」


「何なら覚えてるの?」


「東大寺」


「一個だけじゃん」


「十分だろ」


「三日間あるんだけど」


二人のやり取りを聞いていた淡が口を挟む。


「雪は雛華がいなかったら旅行成立しないね」


「お前まで言うな」


「さっきから見てたら、そう思うでしょ」


「お前も大概だろ。今日だけで何人に捕まってんだよ」


「まだ一回」


「到着して十分くらいで一回だろ」


「それは僕のせいじゃない」


「銀髪やめれば多少マシなんじゃね?」


澄都は軽い調子で言った。

淡はすぐには答えず、前を歩く夕日の背中へ視線を向けた。


「これは変えない」


「何で?」


「なんとなく」


澄都は怪訝そうな顔をしたが、それ以上は聞いてこなかった。

淡の返答に、雛華の表情が一瞬だけ変わった。

それでも何も言わず、夕日の隣を歩き続けた。


それからしばらくして、南大門が見えてきた。


「でか」


思わず漏れた澄都の一言に、雛華がすぐ反応する。


「語彙力」


「いや、これはでかいだろ」


「それはそうだけど」


四人も周りの観光客の流れに混ざって門をくぐる。


淡は普段、寺や歴史的な建物に特別興味があるわけではない。

それでも、実際に目の前にすると、写真で見るのとは違った。

古さも、大きさも、画面越しでは分からない。

見上げるだけで、自然と圧倒されるものがあった。


澄都がスマートフォンを取り出す。


「撮っとくか」


「ちゃんと観光してるじゃん」


「来たからにはな」


その流れで、雛華もスマートフォンを手にした。

少し考えるように夕日を見る。


「灯さん、一緒に撮ろ?」


夕日は自分を指すようにして、目を丸くした。


「私?」


「うん」


「……いいけど」


雛華が夕日の隣に並ぶ。

近くにいたクラスメイトへスマートフォンを預け、二人で南大門を背に写真を撮ってもらっていた。


淡は少し離れた場所から、その様子を見ていた。


雛華はいつも通り笑っている。

その隣で、夕日もわずかに口元を緩めた。

学校で見る夕日より、どこか昔に近い。

気づけば、淡の視線は夕日に向いていた。


写真を撮り終えた雛華が、スマートフォンを受け取りながら二人の方へ戻ってくる。


「澄都と淡で撮ってあげようか?」


「雪と?」


「記念じゃん」


澄都が嫌そうな顔をした。


「男二人で?」


「別にいいでしょ」


「嫌だ」


「僕もいいかな」


雛華は聞く耳を持たず、二人の腕をそれぞれ掴んで少し強引に立ち位置まで連れていく。

結局、男子二人も雛華に押し切られ、並んで写真を撮ることになった。


*


大仏殿へ入ると、澄都が大仏を見上げた。


「これもでかいな」


その感想に、雛華が呆れたように笑う。


「今日それしか言ってなくない?」


「他に何て言えばいいんだよ」


「すごいとか」


「同じだろ」


淡も大仏を見上げる。


小学生の頃に見た記憶は残っている。

それでも、久しぶりに目の前にすると、やはり大きい。


雛華が、淡の表情を面白そうに眺めながら隣へ寄ってきた。


「どう?」


「でかい」


「澄都が増えた」


「それ以外ある?」


雛華が呆れたように笑った。


傍から見れば、目を引く二人が並ぶ姿は、それだけでお似合いに映るのかもしれない。

気安く言葉を交わしていれば、なおさらだった。

実際、近くにいた何人かの生徒が、二人を見て小さく何かを話していた。


その先で、夕日もこちらを見ていた。

けれど、すぐに目を逸らし、案内板の方へ歩いていった。


しばらくして、澄都が腹を空かせたように口を開く。


「そろそろ飯にしない?」


四人は大仏殿をあとにし、昼食を探しに向かった。

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