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幼なじみの僕らに、名前をつけるなら。  作者: MUHIRO


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第12話 - 研修旅行の準備

班決めでざわつく教室に次の指示を通すため、担任が教壇から声を上げた。


「班が決まったところは、次に班長を一人決めろ。今日の放課後に班長だけ説明があるからな」


教室のあちこちで話し合いが始まり、淡たち四人も班長を決めることになった。

雛華が三人を見回して、最初に口を開いた。


「班長どうする?」


澄都が淡へ視線を向ける。


「月城でいいんじゃね?」


「淡はなし」


雛華は間を置かずに言った。


「なんで?」


「淡を班長ミーティングに行かせると面倒になりそうだから」


「何が?」


「絶対いろんな子に捕まるでしょ」


新入生代表に学年一位、それにモデルという肩書まである以上、淡にも否定はできなかった。


話しかけられること自体は構わないが、班長ミーティングのように人が集まる場へ行けば、今の雛華との噂もあって余計な詮索まで増えるかもしれない。


「班長は目立たない人の方がいいと思う。私も最近は淡と一緒にいるところ見られすぎてるから、できればやめたい」


「じゃあ俺か灯?」


「そうなるね」


雛華は澄都と夕日の様子を見比べる。


澄都は配られた紙を半分に折ったまま、ほとんど読んでいない。

それに対して、夕日は班行動について書かれた資料を最初から順番に読み、集合時間や注意事項のページまで確認していた。


その様子を比べて、雛華の中で答えが決まったようだ。


「灯さん、お願いしてもいい?」


不意に名前を呼ばれ、夕日は少し驚いたように資料から顔を上げた。


「私?」


「うん。澄都よりちゃんと資料読んでるし」


「おい」


澄都がツッコんできたが、雛華は無視をして続けた。


「班長ミーティングもあるみたいだけど、大丈夫?」


夕日はわずかに困ったような顔をして、再び資料に目を落とした。


「……別にいいよ」


「じゃあお願い」


夕日は小さく頷いた。

淡は何も言わず、班長の欄に書かれていく『灯 夕日』の文字を見ていた。


班長選びが落ち着いてきた頃に、続いて部屋を決めることになり、担任がホテルの資料を配った。


京都のホテルに二泊。

基本は二人部屋で、班とは別の相手と同室になることもできるらしい。


その説明が終わると、教室は再び一気に騒がしくなった。

雛華のところには、すぐに女子たちが集まった。


「雛華、一緒にしよう」


「え、私も雛華がいい」


「二人部屋だから一人しか無理じゃん」


「じゃんけんする?」


雛華は困ったように笑いながら、少し離れた夕日の席へ目を向ける。


「ごめん。私、灯さんと一緒にする」


「灯さんと?」


「うん。同じ班だし、班長だから夜に確認することもあるかもしれないし」


「最近、本当に仲いいんだね」


「少し話すようになっただけだよ」


雛華は三人に断りを入れると、夕日のところへ向かった。


「灯さん、部屋一緒でいい?」


夕日は周りの女子を少し見てから、雛華へ視線を戻した。


「私でいいの?」


「うん。私が誘ってるんだもん」


「……じゃあ、いいよ」


「ありがとう」


一方、淡のところにも男子たちが集まってきたが、淡は澄都と同じ部屋にするつもりだ。


「ごめん。僕、雪と同じ部屋にする」


「は?」


澄都がすぐに淡へ視線を向けた。


「おい、俺は何も言ってないぞ」


「同じ班だし、最近話すようになったから」


「断ったら?」


「他探す」


「じゃあ聞いた意味なくない?」


「あるよ。雪が嫌かどうかは分かるから」


澄都は小さくため息をついた。


「……別に嫌じゃない」


「じゃあ決まりな」


「お前、本当に勝手だな」

少し離れたところから、雛華がこちらへ歩いてくる。

夕日も後ろからついてきていたが、少し離れた位置で足を止めた。

「淡も澄都と同じ部屋にしたの?私は、灯さんと同じ部屋に決めたよ」


「そうなんだ」


そのやり取りを見ていた周りの男子たちが笑った。


「班も部屋も、その四人で固めるんだな」


部屋に関しては、澄都でなくてもよかった。

状況によっては協力を頼むことになるかもしれない。それでも澄都を選んだのは、必要になったとき、二人だけで話しやすいからだった。


「班行動が二日あるんだから、部屋も班の人と一緒の方が楽でしょ」


「でも月城と桜さんは別部屋じゃん」


「男女なんだから当たり前でしょ」


雛華が呆れたように返すと、クラス内に笑いが広がった。

表向きの理由としては、それで十分だった。


同じ班の四人は、夜になると二人ずつに分かれることになった。


部屋割りの次は、バスの席を決めることになった。

担任が座席表を黒板に貼る。


クラスメイトたちが次々と席を決めていく中、雛華が表を見ながら淡のところへ来た。


「淡、ここ空いてるよ」


雛華が二人並びの席を指差す。

淡はすぐにその意図を理解した。


「じゃあそこにする?」


あえて二人で座るのは、ここまで広がった噂をさらに利用するためだった。

淡と雛華が同じ班になったのも、『二人が一緒にいたかったから』だと周囲に思わせる。

そうすれば、澄都を淡が誘ったことも、夕日を雛華が誘ったことも、残りの人数を揃えただけだと考えられる。


「やっぱり隣なんだ」


近くにいた女子が笑いながら雛華を見ると、雛華は肩をすくめた。


「空いてたから」


「はいはい」


淡は何も否定しなかった。


澄都は少し離れた後方で男子の隣に、夕日は前方寄りの窓側で女子の隣に座る。

四人の座席は三ヶ所に分かれた。


行きのバスで、淡と夕日を隣同士にするような強引なことはしなかった。

今は、それでよかった。


全員のバスの座席が決まると、担任は黒板の別の場所に新しい文字を書いた。


『三日目・クラス研修』


「最後に一つ。三日目に寄る場所を今日ある程度絞る」


資料を見ていた生徒も、話していた生徒も、一斉に黒板へ目を向けた。


「学校側から候補を三つだす。帰りのルートと時間の都合上、場所は名古屋周辺だ」


黒板に候補が書かれる。


『名古屋城』


『中京ものづくり・科学館』


『東海産業技術記念館』


それぞれ好き勝手に意見が出て、教室はまたすぐにざわついた。

担任が静かにするよう促すため、軽く机を叩く。


「現地に着くのがだいたい昼頃になる。昼飯は、出発前に用意してバスで食うか、見学が終わってから名古屋駅で遅めに食うかだ。どっちにするかは各自で決めろ。遊びに行くんじゃなくて研修だからな。移動時間、団体で入れるかどうか、それも含めて考えろ」


委員長が前へ出て、担任に代わって仕切り始める。


「じゃあ一回、希望聞いていいですか?」


多数決の前に、簡単に意見を出すことになった。


名古屋城は、歴史の延長として分かりやすい。

ただ、奈良と京都で寺社や歴史的建造物を多く見る予定のため、内容が少し重なる。


中京ものづくり・科学館は、分かりやすく楽しめそうだ。

一方、クラス全員で限られた時間に回るには展示が多すぎるという意見も出た。


三つ目は、東海産業技術記念館だった。


「何があるの?」


「繊維機械と自動車産業の技術や発展を見学できる施設だな。団体見学もしやすいらしい」


「研修っぽくて、一番先生が好きそうだね」


教室に笑いが起きるが、担任が返す。


「俺の趣味で決めてない」


雛華が淡にだけ聞こえる声で聞く。


「淡はどれがいい?」


「三日目なら技術記念館かな」


「なんで?」


「駅から一番近いから、駅の自由時間が多くなる」


「何その理由」


澄都は少し離れた席で他の男子と話していて、夕日は特に意見を言わず資料を読んでいた。


ひと通り意見が出たところで、最後に挙手で多数決を取る。

結果、一番多かったのは東海産業技術記念館だった。


担任が黒板に三日間の大きな行程を書いた。

一日目は東京から奈良へ向かい班行動、その後に京都のホテルへ移動。

二日目は京都で一日班行動をして、同じホテルにもう一泊する。

三日目は京都から名古屋へ移動し、東海産業技術記念館をクラス全体で見学したあと、名古屋駅で自由行動。

その後、東京へ戻る。


あとは、各班が初日と二日目をどう回るか決めるだけだった。


初日と二日目は、夕日と同じ班で動く。

この二日間は、夕日と自然に話せる大きなチャンスになる。


雛華が夕日と話すようになり、淡も澄都と同じ部屋になった。

ここまでは進められた。

けれど、夕日に声をかけることだけは、誰かに代わってもらえない。


淡は資料へ目を戻した。

二日間の班行動を、今までと同じように終わらせたくはなかった。


*


放課後、雛華と澄都は帰り支度を始めていた。

夕日は研修旅行の班長ミーティングへ向かっていった。


淡は、教室を出ていく夕日の背中を見ていた。


班決めの間も、一言も話すことはなかった。

それでも、夕日と一緒に過ごす予定は増えた。


改めて、この機会を逃さないよう自分に言い聞かせた。

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