第17話 黒の呪縛
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「炎命術……秋哭!」
朔は素早く一刀を描き上げ、顕現させる。
黒い鞘に金色の落ち葉が舞う太刀は、朔の身長と殆ど変わらない長大なものだった。
彼女は鞘に納めたまま両手で柄を握り、低く構える。漆黒の瞳の奥で、静かに炎が灯った。
「炎命術……陸奥守吉行」
懐から取り出した一筆、胸の赤き熱に仄めかされ、一気に書き上がるは漆黒の柄の一刀。
緋色の炎から顕現、握る龍馬の眼光が"覚悟"を体現していた。
「炎命術……熾火」
聖火の指先に宿る炎が身体の中で脈を打つ。身体が火照り、じんわりと橙の光を身に纏った。
筋繊維が剥き出しになった無数の腕が伸縮自在に聖火達へ襲いかかる。
「なんながや、こいつは……! 危ない!」
龍馬は一刀で無数の腕を切り刻む。その剣戟は凄まじく、斬り落とされた腕がウネウネと動き、朔の足元を泳いだ。
「白秋流居合……終秋」
頭を地面スレスレで構え、強く踏み込んだ足で地面を蹴っての超速の居合。腕を数本斬り落とし、重心を低くしながら着地した。
「熾火じゃ、火力が足りないかッ……!」
微力の炎を纏った拳を良人の腹部に叩き込むーーだが、ダメージが通っている様子はなく、以前よりも速い速度で腕が動き、聖火は場外の壁まで叩きつけられた。ポロポロと石が崩れ、砂埃が舞う。
「聖火ぁ! 大丈夫がじゃ!?」
斬っても斬ってもキリがない腕からの猛攻を捌きながら、龍馬は声を上げる。
「……これじゃ、まるでキリがない!!」
超速の居合も連続して行なうと斬れ味が鈍り、朔は龍馬の背中を借りた。
「はぁ……炎命術、白熾」
大きく息を吸い、大きく吐く。指先の炎が真っ白に染まり、体を循環する熱が更に温度を上げる。
じんわりと身体の周囲が光り輝いた。
ーー刹那。
龍馬と朔の視界には、白く輝く光が良人の無数の腕を破壊し尽くす姿が映る。それが、聖火だと気づくのに数秒は要らなかった。
「ハッハッハ! 効かねえなァ! ゴミ共の攻撃なんぞ、集まってもゴミだ!」
無数の筋繊維が一つの大きな腕に変わり、戦場を縦横無尽に飛び回る聖火を叩き落とす。
ステージが聖火を中心に大きな亀裂が入った。
「……クソ、破壊しても破壊しても、簡単に再生される」
聖火は、苦虫を噛み潰したような表情で良人を睨みつける。
龍馬が聖火の肩に優しく手を置いた。
「大丈夫じゃき、そんな苦しい顔は似合わんぜよ! 一人一人で立ち向かったって勝てるわけはない。力を合わせようや!」
「聖火君、あの回復力じゃ……一人では無理!」
「うん、何か作戦を考えよう!」
聖火は三人で良人を倒す事を決意した。
「あいつぁ、元々こんな力を隠しとったがじゃ?」
龍馬の問いかけに狐面の男の面影が脳裏に過ぎる。
ーー憶測で、モノを言っても混乱するだけ。
「それは分からない。でも、あんな姿はまるで!」
「妖じゃな、間違いない!」
龍馬はキッパリと言い捨てた。
「それでも人としての性質が残っている以上、勝ち目はあるはずだ! 正気を逃さないよう、声を掛け合って、連携を取ろう!」
三人は瞳を合わせ、ほぼ同時に踏み出し、駆ける。
「ふん……ぬッ! 重たいわッ!」
巨大な腕の大振り、振り上げた腕を叩きつけるようにして龍馬を狙うーー刃を横へ向け、攻撃を受け流した。
「……白秋流居合、終秋!」
重心を低くしての超速の居合で、振り落とした巨大な腕を一刀両断。一閃の剣戟が突き刺さり、良人は唸り声を上げる。
「人と妖とで抗っているのなら、核があるはず! その核を見つけ、打ち砕く!」
白熾による筋肉量の上昇、瞬発力、膂力、それら全てが地面を蹴った聖火へ味方する。
力一杯握り締め、白色に輝く拳が一点に収束。
「だーかーらーァ! 雑魚どもの攻撃なんぞ、ゴミも同然なんだって! 言ってるだろうがぁぁあ!」
何本斬り落としても無数に再生する腕が聖火の視界に覆い被さる形で解き放たれた。逃げ場はない。指に白い炎を纏わせようと踏ん張った瞬間だった。
「気張れや、聖火ぁ!」
龍馬が強く踏み出し、視界全ての腕を斬り刻む。その姿はまさに鬼神も同然。桁違いな剣戟で良人を圧倒する。
「……はぁぁぁああッ!」
強く拳を握り締め、地面を蹴って跳躍。
腕を斬られ、呆気に取られている良人の顔面へ強烈な一撃を叩き込む。
「お返しだ!」
闘技場内の観客席まで良人を吹き飛ばした。岩を削りながらめり込み、舞い上がった砂埃と割れた岩石が床に降り注ぐ。
「……はぁ、はぁ、はぁ……やったがか?」
龍馬は矛先を向けたまま、警戒を緩めない。肩が荒く上下し、腕の震えが疲労を物語っていた。
「いや、まだだ」
聖火の言葉と同時に、瓦礫の山から巨躯がのそりと動き出す。
「嘘じゃろ……今の攻撃を食らって、まだ動けるがか!?」
良人は肥大化した肉体を醜悪に捩りながら、再び立ち上がる。人間離れした回復力。先程までの死闘がまるで嘘だったかのように無数の腕が再生していく。
「いつでも目障りだ、お前はァ! 朔、お前はいつだって俺の邪魔をしてきた!! これからもずっとだ!! ならば、お前から消してやるッ!!」
良人の筋繊維が幾重にも枝分かれし、無数の拳となって、朔へ襲いかかる。
「……ッ!?」
朔の身体が硬直した。足がすくみ、刀を握る手がカタカタと震えて止まらない。
「今更何を……ッ!!」
良人の殺意が朔の視界を塗り潰していく。
ーー白い閃光が横切る。聖火が間一髪で良人の腕を斬り刻んだ。
「……ふんッ……! 大丈夫、怖がる必要なんてないッ! 自分に嫌気が刺すことも! 朔さんならやれるはずだ!」
だが、聖火の奮闘も虚しく、爆散したはずの腕が網状の肉塊となって、聖火を包み込んでいく。
「お前はそこで見ていろ! お前が守りたかったものが淘汰される瞬間をなッ!」
良人の哄笑と共に、朔の目の前が真っ黒に塗り潰される。視界の端で聖火と龍馬が、異形の肉塊の檻の中へと呑まれて行った。
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次回更新は7/29 17:00を予定しております。
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