第16話 黒炎の檻
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闘技場へ戻ると、前側の席に座る良人の異形さと、クラス分け試験で起こした問題に怯えた生徒達が道を空ける。彼が腰を下ろした席周りは自ずと空席だらけになった。
「……少し離れた位置に座ろう。朔さん、行けそう?」
「うん……大丈夫」
良人とは遠く離れた位置に座り、前方の良人の警戒を怠らないよう、全神経を研ぎ澄ませる。
すると、背後から殺意のない気配が現れた。
「おまんら、いつからそがぁに仲良うなったがじゃ? 朔さん、傷はもう大丈夫ながか?」
制服に身を包んだ龍馬が嬉しそうな表情で聖火の横の席は腰を下ろす。
「……うん、大丈夫。龍馬さんだっけ?」
「そうかえ。ほいたら、龍馬で構わんき」
好調そうな朔を見て、龍馬は安堵したようにため息を吐く。
「龍馬、久しぶり。そうだね、色々あって……仲は悪くないと思うよ」
「おう、そうか! 仲がええのは、まっことめでたいことぜよ!」
龍馬は嬉しそうに笑う。
そして、次の瞬間には前方で足を組み、優雅に待ち呆けている良人に驚きを隠せない様子で口を開く。
「……あいつぁもう回復したがか!? ……なんぞ、あいつの周りだけ様子がおかしゅうないか?」
「龍馬もそう思うか。良人の気配が何故かわからないけど、おかしい。それに……」
ーー何か違和感のある焦げ臭い匂いが闘技場に充満している。廊下で感じた時の鼻をつくような。
闘技場内には、ぞろぞろと黒スーツの男女が入り込み、ステージ前で入学式の準備をし始める。
2階の貴賓席にも、火山を始めとする現炎命士達が、身なりの整った格好で現れた。
「先日はクラス分け試験でお集まり頂き、誠にありがとうございました。これより、炎命士学園の入学式を始めます!」
ステージ上に現れた黒スーツ姿の男はマイクを握る。
「炎命士学園理事長、炎道火山様より、一言挨拶をお願い致します」
火山は受け取ったマイクを握り、貴賓席にて立ち上がった。
「諸君、入学おめでとう。細かい説明は各担任から聞いとくれ。ワシからは二つだけじゃ!!」
ゴクリと生唾を飲み込み、全員が真剣な瞳で火山を見つめている。
「人を護ることに慣れなさい。ご遺族の方の気持ちを想い、行動出来る人になれ! 以上じゃ!」
マイクを黒スーツの側近に渡し、火山は席に腰を下ろした。会場内は自然と拍手に包まれる。
その後も何人かの教員達が挨拶をし、入学式はお開きとなった。
「この後は明日から始まる授業の準備をするもよし、学園内を歩き回るもよしとします。それでは解散!!」
生徒達が出口へ向かっている中、朔と聖火、龍馬の三人も立ち上がり、出口へ向かう。
「聖火、この後はどないするがじゃ……!?」
「オイ、朔。主人の許可無しでどこに行こうって?」
龍馬の言葉を遮るように良人が出口前で立ちはだかった。
「……ッ!! 」
「朔さんは、もうお前の所有物じゃない!」
良人は心底呆れたように肩をすくめる。
「所有物?あぁ、壊れたものは治せばいい。お前を消して、躾直せばいいだけだ。それに……」
良人は勝ち誇ったように笑う。
「朔、良いのか? お前がそんなんだったら、大切なお姉様とやらが傷付くぞ?」
「……聖火君、やっぱり私……ッ!」
苦しい表情で良人の元へ駆け出そうとする朔の腕を掴み、聖火は制止する。
「もう二度と君を傷つけさせないと、そう誓ったんだ。だから、全て良い方向に傾く! 俺を信じてくれ!」
真っ直ぐ、黒炎を纏う彼女の瞳を見つめる。
「何を言っているか、分かってるのか? 名家を敵に回せば、炎命士としての人生はない! こんなの猿でもわかる常識だろ!」
「……黙れ。名家だろうが、何だろうが、関係ない!! 朔さんはお前の鬱憤を晴らすための道具じゃないって言ってんだ! 一人の人間なんだぞ!」
聖火に掴まれた腕を掴み返し、朔は涙ぐんだ瞳で口を開く。
「……分かった。聖火君を信じるよ。私、もう迷わない! 自分の運命に抗う! だから、力を貸してほしい!」
「……ッ!! ああ、任せてくれ!」
うんうんと頷く龍馬の傍ら、怒り狂った良人は声を荒げる。
「……こう言えば、朔は絶対に言うことを聞くって聞いたのに! あの白秋の奴ら、俺を騙してやがったのか! 孔雀家を舐めやがって……これも何もかも、全部俺に楯突いてきたお前のせいだぁぁあああ!!」
良人の指先から黒いドロっとした熱が溢れ落ち、床が音を立てて溶け始める。
「……なんだ、この悍ましい熱は!!」
良人が怪訝そうに自分の指先を見つめている隙に、聖火と朔、龍馬の三人は闘技場のステージ上に退避した。
「逃げるなぁぁぁああああッッ!!」
良人は軋み始めた肉体を抑えながら、観客席からステージへと飛び乗る。その跳躍は、人間離れした膂力を感じさせた。
「大和……聖火ぁぁぁあああ! お前だけは、お前だけはぁぁあああ! 俺に楯突いたゴミクズの朔、お前も同罪だ! 死ねええええ! 」
発達した筋肉がボコボコと音を立て、風船のように膨らむ。大きな破裂音と共に筋繊維という筋繊維が無数の腕を創り出す。
「なんながや、これ!」
龍馬は良人の変貌に驚愕し、瞳を見開いた。
「これが今の俺の真の力!! ハッハッハ! アイツも良い働きをしてくれる。これなら、お前と朔、邪魔するもの全てをぶっ潰せる!!」
"良人だったもの"は原型を留めていなかった。
身体中から生える無数の腕、足というよりは地面に生える植物のよう、肥大化した身体、緋色に光る瞳、人間としての境界線が悍ましい音を立てて崩れ去っていた。
「……アイツ?」
良人の言葉が聖火の胸に鋭く突き刺さる。一瞬、狐面の男の面影が脳裏を過ぎった。
「朔、龍馬!! 構えろ!!」
朔と龍馬は懐の筆を抜き放つ横で、聖火は闘志を宿した瞳で拳を固く握りしめ、目の前の"良人"を見据えた。
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次回更新は7/25 17:00を予定しております。
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