第15話 決意の告白
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喧騒揺れる空間に静寂が訪れたのも束の間、聖火がその場で立ち尽くしていると、生徒達が続々と闘技場内の観客席に腰を下ろし始めた。
その中には、俯きながらゆっくりと歩き、腰を下ろした朔の姿もあった。頼りなく、小さい背中はいつになく縮こまり、何かに怯えている様子だった。
「大丈夫?」
聖火は朔へ駆け寄り、迷いなく声を掛ける。
「あっ……えーっと……」
聖火を見るなり、気まずそうに下を俯いた。
「……あれから、調子はどう?身体の具合は?」
「えーっと、その……この間はごめんなさい!」
朔は椅子から立ち上がり、聖火へ深々と頭を下げる。
「え、ちょっと、朔さん! 頭上げてください!!」
「いえ、元を辿れば、私が良人様を怒らせたから! 無粋なトラブルに巻き込んでしまった……!」
頭を上げるよう促しても、朔の頭は下がるばかり。
「ごめんなさい! ごめんなさい!」
目に涙を溜め、朔は謝り続ける。
その様子に周囲が違和感を感じ、騒めき出した。
「ここはまずい……朔さん、ちょっと……!」
朔の手を引き、人目を避けるために闘技場の裏手へ回り込む。
「……本当にごめんなさい!」
頭を下げ続ける彼女に、聖火は違和感を感じざるを得なかった。
「……朔さん、頭を上げてください! 俺は巻き込まれたんじゃない!」
恐る恐る頭を上げる朔、涙で瞳が腫れ上がっている。
「それに、朔さんのことを俺は責めてない。どうか、落ち着いて欲しい」
「……はぁ、はぁ……」
聖火の言葉に安堵したのか、朔は涙を制服の袖で拭い、目を瞑って心を落ち着かせる。
「……ごめんなさい、取り乱してしまって。また、責められるんじゃないかって、怖くて……!」
水色の髪が風に揺れ、頼りない背中が露わになった。
「俺は朔さんの味方だから、安心して欲しい」
直後、彼女の瞳から一筋の涙がこぼれ落ちた。
「あれ、ごめんなさい。もう、落ち着いたんだけど、あれ、おかしいな……なんでっ……」
涙は止まることを知らず、拭い続けても止まらない。その涙は朔本人の安堵を告げる涙であった。
「良いんだよ、涙を止める必要も、我慢をする必要もない。自分の感情に素直になったらいい」
驚いたように瞳を大きく見開き、弱い声音で呟いた。
「……ありがとう」
「ゆっくりで良いよ。確実に前を向けるように一緒に頑張ろう!」
朔は、ゆっくりと首を縦に振った。
「相手が名家でどんなに偉くても、俺には通用しない。朔さんを脅かす全てから俺が必ず守ってみせる」
「……あの、どうしてそこまで?」
"小夜さんとの約束だから"喉の奥まで出かかった言葉を呑み込む。
真剣な顔で聖火は口を開いた。
「虐げられてる人を助けるのは、炎命士を目指す者にとって、当たり前のことだよ」
「……そっか、そうだよね。ここは炎命士になる為の学校だもんね。……でも、そんな綺麗な言葉を簡単に信じていいのかな……」
朔は先程までの怯えを拭い、鋭い視線を駆け巡らせた。
いつの間にか、朔の涙は乾いていた。
暗い表情こそ変わってないが、どこか嬉しそうに言葉を紡ぐ。
「ねえ、聖火君だっけ……?」
聖火は一方的に自分が名前を呼んでいたことに気がつき、"あっ"と拍子抜けした声音を吐いた。
「自己紹介をしっかりしてなかったね、俺は大和聖火。朔さんは……クラス分け試験で名前を知ったから、つい勝手に口走っちゃってたね、ごめん……」
「別に良いよ。でも私の本当の名前は、孔雀朔じゃないの」
朔は決意を示すような声音で口を開いた。
聖火は黙って、彼女の瞳を見つめる。
「私の名前は白秋朔。炎命士の名家、白秋に生まれた……"忌み子"」
事前に小夜から知らされていた情報だが、本人の口から発されるとは思っていなかった。
「忌み子なんて……そんな!」
「いいの、散々言われてきたことだから! 私は生まれてきた瞬間から呪われてる。父も母も親戚の人も……私の味方なんて……!」
朔は何か言いたげな表情で口を止めた。
「私は白秋家という名家の所有物。忌み嫌われ、お荷物でしかない私を白秋家は、自分達の利害の為に私を利用した!」
「……利害?」
「黒炎眼を白秋家から遠ざけることで、これからも変わらない白炎眼を持つ炎命士の名家としての格が下がらないように立ち回ったの」
聖火はあまりの憤りに掌が貫通するほど、拳を強く握りしめる。
「だから、どんな嫌なことをされても、耐えてきた! 良人様の傍に置いてもらわないと私を含め、色んな人が不幸になる。それなら、私は望んで地獄すらも進む!」
「それじゃ、朔さんが報われない! 生まれつき"忌み子"なんて絶対におかしい!」
聖火は、キッパリ言い切った。
「おかしくても、どうにもならないこともあるの。私が我慢しなければ、お姉様が……」
「……ッ!?えっ、それは……!?」
朔は噤んだ言葉を皆までは言わずとも、前のめりに吐き出す。
「お姉さんが……!?どうなるの!? 」
「……それは……」
朔は言い止まろうとしている。酷い口止めをされているのだろう。
震え出した肩が、彼女の抱える恐怖の深さを物語っていた。
「……大丈夫、この事は公言しない。それにさっきも言ったけど、相手が何者でも俺は屈しない! だから、教えて欲しい」
真っ直ぐ瞳を見て、頭を下げる。聖火の真っ直ぐさに安堵したのか、朔は口を開いた。
「……私の周りや、お姉様の周りには常に白秋の人間がいるの。彼らは黒炎眼を汚物と見做す、その筆頭格が現当主……白秋厳道」
聖火は絶句した。
ただ、瞳の色が違うってだけでそこまでの仕打ち。
一介の当主が何をしているのだと。
ーーあまりにも、許せない。
「まさか……お姉さんの護衛が……?」
「そう、当主直属の……。良人様に逆らったり、私が逃げ出そうとした瞬間、お姉様の命が奪われる。私のせいで大好きなお姉様が死ぬなんて嫌! 家族で唯一の私の味方のお姉様がッ!」
朔は取り乱し、拭い切れない感情を露わにする。
「……大丈夫、俺がなんとかする。だから、安心して欲しい」
「なんとかって……でも、何でだろう。分からないけど、何故か安心する」
朔には聖火の言葉が嘘には聞こえなかった。
聖火の真っ直ぐな本質に惹かれつつあった。
ーー聞いていた通りだったけど、ここまでとは。
あまりに凄惨な環境の数々に、震えが止まらない。
聖火は右腕を抑え、燃えるような瞳で前を見据える。
すると、突然、朔の表情が青ざめ、聖火の背中に隠れるようにへたり込む。
「……ッ!?」
「朔さん、どうしたの……って、え!? は!? 嘘だろ!? 」
聖火の視線の先には、真新しい制服に身を包んだ良人の姿があった。
ーー破魂になったら、一ヶ月は動けないはずなのに、どうして!?
我が物顔で観客席へ入ってきた姿に驚きを隠せない。
「……朔さん、大丈夫。俺が必ず守ってみせる」
「うん……」
聖火は朔を連れ、観客席へと歩みを進める。
今朝の狐面の男の気配が、良人の背中から漂っている気がした。
◾️白秋厳道
白秋家の現当主にして、小夜と朔の実父。
自分にも他人も厳しく、頑固。
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次回更新は7/22 17:00を予定しております。
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